エピソード4.4 接触
〈エピソード4.4 接触〉
留美はコンビニやレストランは閉店していたので、空腹を解消するために仕方なく自宅に帰って来る。
幸いにも家の中に敵の姿はなかった。
が、用心深く家の中を見回していると留守電にメッセージが届いていることに気付く。
留美は電話機に表示されている《杉浦康太》という名前を見て、思わず背筋が凍り付きそうになった。
それから、震えが止まらない指先で電話機のボタンを押す。
「このメッセージを聞いていますか、桂木留美さん。ご存じだとは思いますが、僕は桂木修一の友達だった杉浦康太です」
優しげな大人の声が留美の耳朶を打った。
「留美さんが僕と連絡を取ろうとしていたことは知っています。ですが、電話での会話は傍受される危険性があるので、直接、会って話がしたいです」
警察や自衛隊なら、確実に傍受はしているだろう。それだけに、携帯電話なども迂闊には使用できない。
「もし、できるようなら、三崎大学へ来てください」
三崎大学の場所なら知っているし、迷うことはない。
「バリケードを築いている大学の敷地内には、モンスターたちも入っては来ないので安心して話せます」
本当の脅威はモンスターより、警察や自衛隊だ。彼らが大学の敷地内に居たら、また無用な流血が起きる。
「修一のことで打ち明けたいことはたくさんありますし、どうか僕を信じてください」
そこで、メッセージは途切れた。
留美はしばし放心状態に陥ると、暢気にも魚肉ソーセージに噛り付いていたラズエルの方を見た。
「どうしよう、ラズエル」
留美は逡巡しているような顔でラズエルに問いかける。
「罠の可能性もなくはないけど、シュウイチの居場所を掴むには、またとない機会だ。行くしか手はないだろうな」
ラズエルは押しの強い声で言った。
「だよね。なら、何かあった時は頼んだよ、ラズエル」
ラズエルがいれば大丈夫だという安心感はある。
ただ、その安心感に寄りかかった行動を取れば、思わぬピンチに陥るかもしれない。
ラズエルが負けるようなら、自分に待っているのは容赦のない死だから。
「任せて置けって」
ラズエルは自分の胸を叩くと、頼もしくなるような声で言葉を続ける。
「これで、修一の居場所が掴めれば自体は大きく動く。そうなれば、おいらの神からの評価もうなぎ登りさ」
ラズエルはそう言ったが、留美は天使たちを束ねているという神に、今一つ信頼を置けずにいた。
神がもっと積極的に介入してくれれば、モンスターに殺されるような人たちも出なかったはずだし。
神は人の命を二の次にして、一体、何をやろうとしているのだろうか。
「……じゃあ、行ってきます、お母さん」
留美は誰もいない家の中でそう言うと、ラズエルと一緒に三崎大学に向かった。




