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エピソード4 冒険者ギルドでの手続き

〈エピソード4 冒険者ギルドでの手続き〉


 現在、俺がいるのは鉄鋼業が盛んなことで知られていると言うグランベルト王国の王都だ。


 一応、イブリスはこの国では本物の女神として崇められているらしい。崇められている時の名前は、今とは違うらしいが。


 俺は王都の中でも一際、賑やかな歓楽街の一角にやって来る。そこには石造りの大きな建物があった。


 イブリスが言うには、ここが一番大きくて良心的なギルドらしい。


 その言葉を信じて俺はギルドの建物の中に足を踏み入れた。


「ここが冒険者たちの集うギルドか。何と言うか雰囲気が良く出ているし、ここに居るだけで手に汗握るものがあるな」


 そう口にする俺の前には、大きな広間があった。


 受け付けをしていると思われるカウンターには制服のような服を着た女性がいる。女性はなかなかの美人さんだった。


 一方、巨大な掲示板の前には大勢の人間が屯していた。


 特に掲示板の前にいる連中は目に見える形で武器を手にしている奴が多い。剣とか槍とかは見るからに物騒だ。


 あいつらが冒険者と言うわけか……。


「にしても、相変わらずの熱気ね」


 イブリスは髪を掻き上げながら言葉を続ける。


「ここにいる人間たちはみんなモブキャラなんだけど、しっかりと高度な人工知能で動かされているのよ」


「今、流行りのAIってやつか」


「そうよ。だから、話しかければ生身の人間と変わらない反応が返って来るわよ」


「それは楽しみだな。で、俺はこれからどうすれば良いんだ? 何だか、周囲からの視線が痛いんだが」


 チラチラとこちらを見ては下卑た笑みを浮かべている男たちがいるのだ。


 正直、気持ちの良いものではない。


「みんな武器も持っていないヒョロッとした子供はお呼びじゃないって、言いたいのよ」


「人工知能のくせに生意気な。まあ、良いさ。すぐに俺はそこらのモブキャラとは違うと言うことを思い知らせてやる」


「息を巻くのは勝手だけど、初めの内は大きなことなんてできないわよ」


「分かってる。こう見えて、俺は慎重な男だし、愚かな蛮勇に身を任せるようなことはしない。例え、それがゲームの世界であってもな」


 俺は気障に笑いながら言った。


「なら、良いけど。でも、これだけは言っておかなければならないわ」


 イブリスは怖い顔で言い募る。


「あんた、絶対に死んだら駄目よ。もし、死んだらそこでテストプレイは終わりだから」


 イブリスの言葉に俺は不吉なものを感じる。


 まさか、仮想世界の中で死んだら現実の世界でも死ぬ、なんて話じゃないよな。


「それはどういうことだ?」


「どうもこうもないわよ。そういう仕様なの」


「でも、仮想世界なんだからゲームのように何度でも生き返ることができるシステムになってるんじゃないのか?」


「そこら辺は機密事項だから、詳しくは語れないわ」


「何だそりゃ?」


 イブリスのはぐらかすような説明に、俺の声も裏返ってしまった。


「とにかく、多少の怪我なら大丈夫だけど、死ぬことだけは絶対に駄目。分かったわね?」


「分かった」


 俺は急に怖くなってしまい、ボソリと覇気のない返事をする。


 ただのゲームだとイブリスは言っていたので俺も暢気な気持ちでいたが、やはり、そんな安直な話ではなさそうだ。


「よろしい。それと痛みなんかもダイレクトに伝わるから、怪我もしないことに越したことはないわよ」


「さすがに痛みは味わいたくなかったぞ。仮想世界なら痛みを感じなければならない部分は何とかして欲しかったな」


「それだけこの世界がリアルだってことよ」


「なるほど」


 リアルな感覚があると言うことは、痛みとは反対に心地の良い刺激もあると言うことだ。


 なら、マイナスなことばかりではない。


「でも、あんたは有益な情報を提供する義務があるし、危険を避けてばかりはいられないけどね」


「そうだな。いきなり、ドラゴンと戦うような馬鹿な真似はしないようにしよう」


 俺は本物のドラゴンを見てみたいと思いながら言葉を続ける。


「この世界にもちゃんといるんだろ、ドラゴンは?」


「もちろんよ」


「それを聞いて安心したし、今は無理でもいつかはドラゴンと戦ってやるぞ」


 ドラゴンは男のロマンだ。


 ドラゴンがいなければファンタジーとしての魅力は無いも同然。


 って、言うのはさすがに言い過ぎか。


 でも、それだけファンタジーの世界ではドラゴンの存在は大きいと言うことだ。


「ちなみに、この仮想世界はまだ開発途中だし、あんたがドラゴンを倒せるくらい強くなる頃にはテストプレイも終わるからそのつもりで」


 現実の世界にある俺の体が治ればテストプレイは終わると聞いていた。が、そういう条件でもテストプレイは終了すると言うわけか。


 まあ、あんまり現実の体を放置すると悪い影響が出るかもしれないし、その辺のことは専門家に任せよう。


「テストプレイの期間が終わるまでにどれだけ、有益なデータを提供できるかが勝負の分かれ目と言うところか」


「そういうこと。危険を恐れて何もしない時間を過ごしていたら、当然のことだけどあんたの治療費は賄いきれないわよ」


「理解した」


 結局のところ、この仮想世界をテレビゲームの延長線のように考えることは危険。


 そのくらいのニュアンスはイブリスの言葉からもヒシヒシと伝わってきた。


「なら、まずは冒険者としての登録をしなさい。あそこにある受け付けカウンターでできるようになっているわ」


 イブリスに促されるまま俺は受け付けカウンターに行く。


「冒険者としての登録をしたいんだが」


 俺が幾分、緊張しながら受け付けのお姉さんにそう言うと、お姉さんは眩しく見えるような笑みを浮かべる。


 こんな笑みを俺に対して浮かべて見せてくれた人間は現実の世界にはいない。


 恋愛になど興味はないが、それでもこのお姉さんは好きになってしまいそうだな。


「では、この紙に必要事項を記入してください。書類のチェックが終わり、三千ルビスを支払ってもらえれば冒険者手帳を交付します」


 受け付けのお姉さんは数枚の紙を俺に手渡してきた。


 それを覗き込むと筆記用具を渡された俺は紙にペンを走らせる。


 すると、日本語ではない文字が、自然な感じで書き記されていく。


「何と言うか、見たこともないような文字をスイスイ書いているぞ。まるで、手品でも見せられているみたいだ」


「この世界で使われている専用の言語が、あらかじめ身についているからできることなのよ」


「専用の言語だと?」


「そうよ。何かクレームでもあるのかしら?」


「別にない。まあ、リアルなファンタジー小説を書くためにエルフ語を作った作家もいるって話だから、そこまで驚くようなことじゃないんだろうが」


 そう言えば、俺たちが今、話している言葉も日本語じゃない。


 あまりにも自然すぎて気付くのが遅れてしまった。


「ええ。言語の翻訳プログラムは仮想世界が創られる最初の段階で、ブレイク・スルーされるべき問題だったからね」


 イブリスは得意げに口を開く。


「こういうことに抜かりはないし、ちょっと設定を弄れば、使われる言語を日本語や英語にすることもできるわ」


「そいつは便利だな。でも、せっかくのファンタジーの世界だし、雰囲気を損なわないためにも、このままの言語で行こう」


 そう言うと、俺は別段というか、全く難しいことは書かなかった書類を受け付けのお姉さんに渡した。


 お姉さんも書類をチェックしているのか視線を忙しなく動かしている。


 そして、一分ほど経つとお姉さんは書類から顔を上げて、太陽のような笑みを浮かべた。


「書類に不備のようなものはありません。なので、三千ルビスをお支払いください」


 お姉さんの言葉を受け、俺はメニュー表を出して所持金の項目を指でタッチする。すると、硬貨が入った袋が空中に現れた。


 まるで何でも入れられる異次元ポケットみたいだな。


 俺は空中に固定されている袋から取り出した銀貨を三枚、受付のお姉さんに渡す。


 ちなみに、銅貨は一枚、百ルビスで銀貨は一枚、千ルビス、金貨は一枚、一万ルビスになっているらしい。


「これが冒険者手帳です。手帳の中には当ギルドの詳しい仕組みが記載されているので、まずはそれをお読みください」


 お姉さんは笑みをそのままに言葉を続ける。


「では、良い冒険を」


 そう凛とした声で言うと、お姉さんは高校の学生手帳よりも、二回りほど分厚くて大きい手帳を差し出してきた。


 それを受け取ると、俺はこれで晴れて冒険者になれたんだと思い、何とも感慨深い気持ちになる。


 それから、仕事、つまりクエストの紹介をする紙が張り出されていると言う掲示板の方に向かった。

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