エピソード2 古代の遺跡
〈エピソード2 古代の遺跡〉
俺たちはボロボロになった石造りの建物が立ち並ぶ場所に来ていた。
この遺跡は《魔法文明》と言われる時代に建てられた都市で、今は人の住まない打ち捨てられた廃墟と化している。
モンスターですら住みついていないので、実に静かだ。
なぜ、高度な建築技術で建てられた都市が、ここまでボロボロになってしまっているのか、それは誰にも分からないらしい。
遺跡の調査が進めば明らかになることもたくさんあるのだろう。
が、それを邪魔しているのがエンシェント・ドラゴンなのだ。
エンシェント・ドラゴンは人もモンスターもこの遺跡に立ち入ることを許してはいない。
「エンシェント・ドラゴンは、この先にある大神殿の中にいる。みんな覚悟は良いな?」
俺は間違いのないように何度もマップを確認しながら言った。
「ここまで来て死なないでよ、シュウイチ。死んだら全部、水の泡になっちゃうんだからね」
イブリスの瞳が不安げに揺れていた。
死んだら駄目、とは繰り返し言われてきた。
が、ここまで強い脅しを含んだことを言われたのは初めてだった。
「そこまで死ぬことは危険なのか?」
「そうよ。最後の戦いになるだろうから言っておくけど、死ねば今のあんたは消えてなくなるわ」
「上手く実感できないな」
死んだらどうなるかなんて、誰にも分からないだろう。
この世界で死んだ人間やモンスターたちなら、その答えを持っているかもしれないが。
「肉体は生き続けるけど、意識の方が消えてなくなるのよ。まあ、今のあんたが消えても、システムの機能で次のあんたが出て来るだけだけど」
それは、復活とは違いそうだな。
そんなことを考えていると、ふとエルフの女王の言葉が脳裏を掠める。
「ラシール様も言っていたな。もう一人のあなたが、元気に生きていたとしても、それが今のあなたにどんな得がある、と」
「その言葉は間違ってはいないわ」
「そうか」
ラシール様はこの世界は現実のものだと言っていた。
その言葉を真に受けるわけではないが、この世界は死というものすら完璧に再現しているのだろう。
自分が消滅してしまうという怖さは筆舌に尽くし難い。
「だから、あんたも今の自分の命を守りなさい。死後の世界や復活を期待するのは本当に馬鹿げているわ」
「仮想世界で行われるゲームにしては随分とヘビーな話だな」
救済措置として、復活くらいはできるようにしておいて、もらいたいもんだ。
「ええ。その代わり、現実の世界に戻ったら、あなたが望むものは全て与えてあげる」
「望むもの全てか。そいつは楽しみだな」
金、以上に与えられる物があると言うのか。
にわかに信じ難い話だが、イブリスの言葉に嘘は感じられない。
こんな仮想世界を作り上げてしまう会社なら、こちらの度肝を抜くような報酬も用意されているかもしれないな。
「単なる言葉遊びじゃないわよ。全ての用意はもう整っているんだから」
イブリスの強い響きを持つ言葉を聞き、俺はふっと笑う。
「なら、是が非でもエンシェント・ドラゴンに勝たないとな。ここで死んだりしたら格好悪いぜ」
「エンシェント・ドラゴンとの戦いは動画サイトでも配信されるし、みんながこの戦いを見ることになるわ」
イブリスは迫真さを感じさせるように言って更に口を開く。
「だから、情けない姿は見せないでよね」
イブリスは茶目っ気のある声で言った。
俺はイブリスの言葉に背中を押されながら、広い通りの一番奥にまでやって来る。
そこには王都の宮殿を遥かに超える大きさを持つ神殿があった。
朽ち果てていても、神殿としての荘厳さは些かも失われてはいないし、最後の戦いには相応しい舞台だ。
「この先にエンシェント・ドラゴンがいるし、怖くて逃げ出したくなるような空気が漂ってくるな」
マップに表示された赤いシンボルを見て、俺の頬から一滴の汗が垂れた。
「今までの敵とは、文字通り格が違うということなのでしょう。千人もの騎士を退けた力は並大抵のものではありません」
そう言いつつも、エリシアの声に怯懦はなかった。
「私も槍を握る手の震えが止まらない。こんなにも恐怖を感じたのは、本当に久しぶり」
アメイヤは強敵と戦えるのが嬉しいのか笑っていた。
「でも、ここまで来たら逃げるわけにはいかない。必ず勝って、全てを掴ませてもらうぞ」
そう言って、俺は鞘からデスブリンガーを引き抜いた。
「はい。犠牲になったこの国の騎士たちの無念は、王女である私が払います」
エリシアも魔法の力が込められているレイピアを抜いた。
「私も英雄アルフィスの血にかけて、絶対に負けられない」
アメイヤは英雄の槍に、エンシェント・ドラゴンの弱点である闇属性を付与させるアイテムを取り付ける。
俺はみんなの戦う意思を確認すると、そのまま大神殿の中に足を踏み入れる。それから、祭壇のある空間まで歩を進めた。




