エピソード1.5 破壊された家
〈エピソード1.5 破壊された家〉
自転車を漕ぐ留美は、三十分ほどで修一の実家に辿り着く。
が、そこには木っ端みじんに吹き飛ばされた家の残骸だけがあった。
確かに、ここには修一の実家の家があった。
それも、古くはあるが、かなり大きな家だ。
だが、今は見る影もない状態になっている。
「これも自衛隊の人たちがやったんだよね」
留美は愕然とした顔で言った。
「そう考えるのが自然だろうな。まったく、酷いことをする連中だよ」
ラズエルの声も淡白だ。
「私の家族みたいに、おばさんたちも自衛隊に連行されちゃったのかな?」
「だと思うし、命だけはあると思いたいところだな」
「一体、何が悪くてこんなことになったの? 私たちはただ普通に暮らしていただけなのに」
留美は確かな怒りを感じながら言った。
「そういう文句は神に言ってくれ。って、言いたいところだけど、おいらはその神に仕えている身だからなー」
ラズエルは冗談っぽく言ったし、それを聞いた留美はギロッとした目をする。
「神様なんて本当にいるの? こんなに、たくさんの人が死んでるって言うのに」
神も仏もないというのが今の状況なのではないか。
「神はいる。でも、それはみんなが思い浮かべるような人間に都合の良い神じゃない。基本的に神は厳しいんだ」
「だとしても、これは惨すぎるよ」
「おいらだってそう思う。だから、お前と同じように、やるせないものは感じているよ」
ラズエルの血の通った言葉を聞くと、留美もほっとしたように笑った。
「だよね。責任を擦り付けるようなことを言って、ゴメン」
「別に良いさ。おいらもお前の気持ちはよく分かっているもつもりだし、ここで憤らないようなら人間としておかしい」
「そうだね」
「でも、お前が非難する神の命令がなければ、おいらがお前を助けることもなかった。そうなると、お前はとっくに死んでいたことになるぞ」
留美とて自分がこの猫に何回、命を救われたかは理解している。それでも、噴き上がる憤りは抑えきれなかった。
「そうだね。でも、そんな言葉は何の慰めにもならないよ」
留美は笑みを崩すと、怒りを燻ぶらせるように零す。
「だろうな。ま、大切なのは自分がまだ生きているということだ」
ラズエルは言葉を選ぶように語る。
「希望を打ち砕くようで悪いが、この世には天国なんてないし、人間にとって一番大切なのは自分が生きているということなんだよ」
「でも、家族の命だって大切だし、何とかしてよ」
留美は全てを放り投げたくなるような気持ちで言った。
「それには桂木修一を見つけ出す必要がある」
ラズエルは引き締まったような声で言葉を続ける。
「それができない内は何も始まらないし、お前も家族を助けたいなら嘆いてばかりはいられないぞ」
ラズエルは留美の甘えを跳ねつけるように言うと、残骸となった場所をじっと見詰めた。




