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エピソード1 魔法の武具

〈エピソード1 魔法の武具〉


 魔法学院から鳥の姿をした使い魔がやって来る。


 その使い魔は宿屋の食堂にいた俺たちにエンシェント・ドラゴンを倒すための武具が用意できたことを伝えてきた。


 それを受け、俺たちは朝食を食べ終えると魔法学院へと赴く。


 ロイドさんは学院の研究室で待っていると使い魔からは言われていた。なので、俺も期待に胸を膨らませながら学院の校舎の中を歩く。


「約束通り、武具とアイテムの用意はできているので、持っていってください」


 研究室に辿り着くと、ロイドさんが武器や鎧、マントやアミュレットなどを見せてきた。


「ありがとうございます」


 俺は刀身が紫色に輝く剣を手に取る。剣からは末恐ろしくなるような強いエネルギーが感じ取れた。


「ワシが用意した闇属性の武器、《デスブリンガー》はエンシェント・ドラゴンの命をも刈り取るぞ。これがあれば、恐れるに足らん」


 ロイドさんの横にいたシェイドが自信を漲らせながら言った。


「ありがとう、シェイドさん」


 俺はデスブリンガーを手に馴染ませながらお礼を言った。


「なに、全ては安全に古代遺跡を探索できるようにするためだ。礼を言うのはエンシェント・ドラゴンを打ち倒し、無事に帰って来てからにするのだな」


 シェイドの言葉に俺の心も鼓舞される。


「そうだな」


 俺は滑らかな生地のマントなども手に取りながら頷いた。


「くれぐれも無茶はしないでください」


 ロイドさんが憂いのある顔で言葉を続ける。


「エンシェント・ドラゴンの討伐を試みた冒険者は数多くいますが、その中の一人として生きて帰ってきた者はいません」


 その言葉に、俺はゲーム上の設定とはいえ、身震いを禁じ得なかった。


「こら、ロイドよ。夢に向かって突き進もうとしている若人を脅かすでない」


 シェイトが横やりを入れるように言った。


「私は事実を言っているだけですし、シェイド教授もあまり焚きつけるようなことは言わないでください」


 ロイドさんは心外だと言った顔をしながら反論する。


「彼のような才気溢れる若者が死ぬのは、この国、いや、この世界にとっての大きな損失なのですから」


 ロイドさんの言葉にシェイドもムゥと唸った。


「大丈夫ですよ、ロイド教官。危なくなったら、その時は恥も外聞も捨てて逃げます。冒険者なんて命あっての物種ですからね」


 俺は死ぬわけにはいかない。


 イブリスは死ぬことのリスクを説明してはくれなかった。が、それでもかなりマズイことになることは容易に想像できるし。


「それが分かっているなら良いのです。そういう言葉が自然に出てくるのも、シュウイチ殿が他の冒険者とは一線を画しているところかもしれませんね」


「はい」


 俺は気合を入れ直すように返事をした。


「エンシェント・ドラゴンの弱点は長く生き過ぎたことによって肥大化した心臓だ。心臓の位置は、外目からでも分かるようになっておるようだから、そこを一突きしてやるのだ」


 シェイドは身振り手振りを交えながら言った。


「心臓か」


「そうだ。あと、エンシェント・ドラゴンは光属性の魔法も使ってくる」


 シェイドは強い警告を含んだ言葉を発する。


「特に、セイント・ビームはマジック・シールドを軽々と突き破る。光属性の魔法を無効化するアミュレットがあるとはいえ、エンシェント・ドラゴンの攻撃魔法には十分、気を付けるのだぞ」


「分かった」


 魔法を使ってくるところに、普通のモンスターにはない手強さを感じるんだよな。


 でも、魔法を使ってくるジャヒーやダーク・リッチは打ち負かすことができたから、今回も大丈夫だと思いたい。


「エンシェント・ドラゴンは人間に負けない知性もあります。なので、くれぐれも普通のモンスターとは思わないように」


 ロイドさんの言葉を聞いて、俺も相手にとって不足はないと思った。


「理解していますし、普通のモンスターと違うからこそ、戦い甲斐もあるんです」


 俺が頷きながら言うと、ロイドさんはどこか晴れやかな顔で笑う。


「では、私たちができるのはここまでです。後はあなた方が勝利できるように神にでも祈ることにしましょう」


 ロイドさんがそう言うと、俺たちはそれぞれ武器や防具を手に取り、研究室を後にした。


「イブリス、テスト期間はいつ頃、終わるんだ?」


 俺の問いかけにイブリスは硬い顔をして答える。


「正確な日にちと時刻は知らされてないけど、本当にもうすぐよ。ドラゴンと戦うならあまりグズグズしてはいられないわ」


「そうか。なら、やっぱり悔いのない冒険をするという方針は変えられないな」


「怖ければ、エンシェント・ドラゴンとなんて戦わないで、そのままテスト期間が終わるのを待っても良いのよ」


 イブリスは俺の心の弱さを突くように言った。


「何を今更。俺は必ずドラゴンとは戦う。そして、見事、打ち勝って、有終の美を飾ってやるんだ」


 俺はギュッと握り拳を作って言った。


「それだけの覚悟があるのなら、アタシから言うことは、もう何もないわ。思う存分、戦いなさい」


「ああ」


「ま、あんたはこんなところで終わるような人間じゃないわ。本当の試練はまだ始まってもいないんだからね」


 イブリスの言葉に俺は眉を顰める。


「どういうことだ?」


「こっちの話よ」


「もしかして、現実の世界では何か良くないことが起こっているのか?」


 俺の体の健康は回復できていないのかもしれない。


 それなら、現実の世界に戻った時こそ、本当の試練は始まると言える。


「どうしてそう思うのよ?」


「ただの勘だし、何となく本当の戦いはこれからだ、的な展開が待っているような気がしてな」


「漫画の読み過ぎでしょ? ドラゴンに打ち勝つこと決めている人間が、そんな弱気なことを考えていたら駄目よ」


 イブリスは説教をするような声で言った。


「かもしれない。でも、エリシアとアメイヤは本当について来てくれるのか?」


 俺は後ろを歩く二人に話を振った。


「当たり前です。ここで臆病風に吹かれて逃げたら、私は一生、自分を呪いながら生きることになります」


 エリシアは強い語気で言い募る。


「そんな人生はまっぴらですよ」


 そう口にするエリシアの顔には一点の曇りもなかった。


「私も同じ。よく分からないけど、シュウイチお兄ちゃんとの別れが近づいてることは理解している。なら、最後の最後までお兄ちゃんと一緒に居る」


 アメイヤならそう言ってくれると思っていた。


「分かった。じゃあ、あともう少しだけ、俺の我が儘に付き合ってくれ」


 俺は幾ら悪い未来を想像しても意味はないと思い、気持ちを切り替えるように言った。

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