エピソード5.5 射殺された自衛隊員
〈エピソード5.5 射殺された自衛隊員〉
疲労感が限界に達していた留美は、危険を承知で自宅の自室で夜を明かした。
「これからどうすれば良いんだろう」
留美はベッドから起き上がると、家の台所に行って、残っていたパンに噛り付いた。
ラズエルも賞味期限ぎりぎりのハムをもぐもぐと咀嚼している。
「おいらたちも修一を探した方が良い。自衛隊は完全に敵に回っただろうし、受け身でいるのは危険だ」
ラズエルの言い分も分かるが、警察や自衛隊が必死になって探しても修一を見つけることができないのだ。
であれば、自分たちが修一を見つけられる道理はない。
「なら、とりあえず修一さんの実家に行ってみようかな。おばさんと会えば、何か分かるかもしれないし」
最後に顔を合わせたのは、修一の部屋を掃除したお礼をもらった時だ。
手がかりなどないと知りつつも、修一の母親とは顔を合わせておきたかった。
「それは良いかもな」
「うん。なら、善は急げだし、行こう」
留美は気合を入れると、家の外に出た。
今日も空では輸送ヘリが頻繁に行き来している。パラシュートで降下している兵士たちもたくさんいた。
留美は自転車に乗りながら、同じ市内ではあるものの、かなり離れた場所にある修一の実家を目指す。
「そこの女、立ち止まれ」
「えっ?」
留美の行く手に自衛隊員たちが立ち塞がる。
「金色の猫を連れた少女、桂木留美とは貴様のことだな。お前を見つけたらすぐに拘束するように言われている」
自衛隊員の目は自転車のカゴに入っているラズエルに向けられていた。
「そんな言葉に従うとでも思っているのか? 命令に従うだけの唐変木が」
ラズエルは火に油を注ぐような物言いをする。これには自衛隊員たちも目を剥いた。
「お前は創造神に仕える天使だな。全隊員、桂木留美と天使を射殺しろ!」
自衛隊員たちが自動小銃を構えた。
昨日のように銃弾を浴びせられると思い、留美は震え上がる。
が、弾丸の雨を浴びたのは自衛隊員たちの方だった。
「な、何だと!」
自衛隊員たちの指揮官をしていた男はそう叫ぶと、銃弾を頭に食らって倒れた。
飛んできた返り血が留美の頬に付着する。
「大丈夫ですか、ラズエル様」
やって来たのは国連の兵士の服を着た男たちだ。
全員、日本人ではない。
「特に問題はないが、自衛隊員たちを撃ち殺したのは、やり過ぎなんじゃないかな?」
ラズエルはそう窘めたが、兵士たちの顔に罪悪感のようなものはない。
「神の意向に逆らう者は排除して構わないとの命令を受けています。ですので、当然の対応であります」
その言葉を聞き、留美はこの人たちもまともじゃないと思った。
「そうかい。で、桂木修一の居場所は突き止められたのか?」
「まだです。私たちの背後に付いていてくださるサマエル様も苦労はしているのですが」
「なら、自衛隊との全面戦争にならない内に桂木修一を見つけるんだ。時間はあまり残されていないぞ」
ラズエルの言葉に兵士たちは敬礼した。
「承知しております。よろしければ、私たちが確保しているセーフティ・ゾーンにあなた方を案内しますよ。あなたの同僚のサマエル様もそこにいますし」
「いや、今は良い」
「ですが、自衛隊員たちは問答無用であなたたちを殺しに来ますよ」
「それなら返り討ちにしてやるだけさ。とにかく、おいらにはおいらの思惑があるし、お前たちは命令されたことだけを実行していれば良い」
ラズエルがそう言い聞かせると、国連の兵士たちは統率の取れた動きで留美の傍から離れて行った。




