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エピソード3 魔界への侵入

〈エピソード3 魔界への侵入〉


 俺たちはまたしても地下水路を歩いていた。


 この地下水路とは本当に縁があるな。


「この地下水路を歩くのも、これで三度目か。現実の世界の駅地下みたいに店とかあれば良かったんだけどな」


 俺が広大な地下水路を活用しないのは勿体ないと思いながら言うと、イブリスもその言葉に反応する。


「なら、アタシがゲームの開発陣に、あんたが言ったようなことを提案してあげるわ」


「是非、そうしてくれ。地下には地下の魅力があるし、盗賊ギルドみたいな犯罪者たちだけに使わせておくのは勿体ない」


「その通りね」


 イブリスはクスッと笑った。


 ちなみに、邪教の神殿までの道のりはマップが表示してくれているので、何ら問題はなかった。


 それでも、隠し扉を開けたり、隠し階段を下りたりする時は少し緊張させられたが。


 俺たちは水路としての面影はなくなり、完全に迷宮と化した地下の通路を突き進んでいく。


 その間、モンスターが現れなかったのは僥倖だった。


 そして、歩くこと三時間。


 俺たちはとうとう邪教の神殿へと辿り着いた。


「まさか、王都の地下にこんな立派な神殿があったとはな。この神殿の存在が公になっていないのが不思議なくらいだ」


 そう言った俺の前には、太い柱が立ち並び、紫色を基調とした空間があった。


 地上にある真っ当な神を奉った神殿とも遜色ない荘厳さがあるし、魔界のゲートを開くにはお誂え向きの場所だな。


 隠し扉や隠し階段がなければ、発見できた人間もそう少なくはなかったはずだ。


「少しだけど魔界の空気が流れ込んできているわね。この神殿に魔界のゲートがあるのは間違いなさそうだわ」


 イブリスの言葉を受け、俺は神殿の奥へと進む。それから、ピタリと足を止めた。


「転移の魔法陣もちゃんと作られているし、ここから魔界へと行けるというわけか」


 俺の言葉通り、広間の中心には巨大な魔法陣が描かれている。その中には見たこともないような文字や記号が躍っていた。


 それを見ながら、俺は武者震いを感じているように口を開く。


「何だかワクワクするし、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみになって来たな」


 俺は高揚感を覚えながら言ったし、隣にいるイブリスも強い力を感じているのか、背中の翼をビリビリと震わせている。


 目に見えないエネルギーのようなものが、うねっているのは、俺もつぶさに感じていた。


「ま、アタシは何度も魔界に行ったことがあるから、別段、不安もないし、ワクワクもしないけどね」


 イブリスはサラッとした態度で言った。


「なら、魔界がどんな場所なのか教えてくれれば良かったのに」


 俺の不平にイブリスは肩を竦める。


「冒険の楽しみを奪うようなことはできないわ。あんたも魔界がどんな場所なのかは、自分の目で確かめなさい」


 イブリスがそう反駁できないようなことを言うと、エリシアが俺の前へと進み出た。


「転移の魔法陣は力を失っていません。これなら、問題なく魔界へと行けると思います」


 エリシアは魔法陣の枠線に触れながら言った。


「でも、魔界の空気は人間には辛って聞いてる。だから、覚悟はして置いた方が良い」


 アメイヤの忠告には俺も心がヒヤリとする。


「そうだな。でも、ここで二の足を踏んでいても、無駄に時間が過ぎるだけだ。なら、思い切って、飛び込んでみるしかない」


 俺は弱腰になりそうな心を脱ぎ捨てるように言った。


「ま、アタシたちなら大丈夫でしょ。何せ、全員レベルが五十なんだから、魔界の空気もそよ風のようなものよ」


 イブリスの言う通り、俺たちの体力に関するパラメーターはかなりのものだ。


 毒に対する耐性も相当、上がっているし、魔界の空気も何とかなるだろう。


「うん。私も毒の類は利かない体質だから、魔界に行ってもたぶん大丈夫」


 アメイヤには英雄の血の力があったんだっけ。


「なら、決まりだな」


 俺が鷹揚に笑うと、エリシアが手の甲の紋章を浮かび上がらせる。


「では、転移の魔法陣は私が起動させますね。難しい古代語が使われていますが、魔法学院で古代語を専攻していた私なら解読できます」


 エリシアの言葉は何とも頼もしかった。


「頼んだ、エリシア」


「はい」


 エリシアは魔法陣の前に立つと、俺には分からない古代語の呪文を唱え始めた。


 そして、魔法陣を描いている線が輝きだすと、俺はエリシアに促されるまま魔法陣の中央に足を踏み入れた。


 その瞬間、俺の視界が塗り替えられる。


 俺の視線の先には今までいた神殿とはまた違った雰囲気を漂わせる空間があった。


「ここが魔界か。確かに今までいた場所よりも重苦しくて、嫌な空気が漂っているな。でも、この程度なら支障はない」


 確かに空気の質はガラリと変わった。


 そのことに気付けるくらいには、苦痛を感じる空気が漂っていた。


 この空気に耐えられた者だけが、魔界に住めると言うわけか。


「ですが、魔界は相当、広いと聞いています。今のところを何の手掛かりもありませんし、どうやって件の魔法使いを探しましょうか」


 俺のすぐ後ろに現れたエリシアの指摘を受け、俺はまずメニュー表のマップの項目をタッチする。


 すると、予想していた通り、完成している魔界の地図が表示された。


「それについては問題ないみたいだ。マップには魔界全土の地図が表示されてるし、目的地のシンボルも赤く光っている」


「魔界の地図を持っているなんて、シュウイチさんは本当に凄いですね」


「いや。どこかの誰かさんが親切なだけだよ」


 このゲームの開発者には感謝するばかりだ。


「そうね。テスト・プレイじゃなかったら、今回のクエストには膨大な時間を取られていたかもしれないわ」


 イブリスの言う通り、グズグズしているとドラゴンと戦う前にテスト・プレイの期間が終わってしまう。


 故に、時間を無駄に浪費するわけにはいかない。


「シュウイチお兄ちゃん、気を引き締めて。誰かがやってくる音が聞こえる」


 アメイヤは警戒するように言うと槍を構えた。


 すると、騎士のような制服に軽装の鎧を身に着けたダーク・エルフの女がやって来る。


 女の後ろには、やはり同じような格好をしたダーク・エルフの男女が四人ほどいた。


「お前たちは人間だな。魔界の地に何をしに来た!」


 ダーク・エルフの女は剣を引き抜くと威圧するように言った。


「別に物騒なことをしに来たわけじゃない。ただ、魔界のゲートを開いた魔法使いを探しに来ただけだ」


 俺は一歩も退かない態度を見せる。すると、ダーク・エルフの女も剣の切っ先を下ろした。


「それはシェイド殿ことか。今、シェイド殿は魔王バロール様の城に客人として迎えられている」


「本当か?」


「ああ。シェイト殿に危害を加えるということは、魔王バロール様に弓を引くのも同然だということを知れ」


 バロールと戦うのは得策ではないな。下手に対立しようものなら、魔界の住人、全てが敵に回りかねない。


「今のところシェイドに危害を加える気はない。ただ、彼の安否を気にしている人たちもいるし、できれば、元の世界に連れて帰りたいだけだ」


「そういうことか。であれば、私の一存で決められることではないし、直接、バロール様のご意見を窺うことだな」


「バロールに会えるのか?」


「バロール様は寛大な方だ。重要な要件であれば、必ずお会いになってくださる」


「バロールが大層な人格者だということは聞いていたが、どうやら本当みたいだな」


 でなければ、ダーク・エルフの女もバロールに対して、ここまでの忠義を見せたりはしないだろう。


「当たり前だ。もし、お前たちがバロール様に会いたいというのなら私が取り次いでやる。その代わり、この魔界で問題を起こしてくれるなよ」


「分かってる」


「なら、良い。バロール様は確かに寛大な方だが、魔界の治安を乱す者に容赦することはないからな」


「そういうことであれば、バロールの怒りを買わないように注意しよう」


「それが賢明だな。あと、自己紹介をして置くが、私は魔界の治安を守る騎士団の団長、エレクトラだ。女だと思って侮るなよ」


 エレクトラは高圧的に振舞いながらも、その実、理解のある人柄のようなものも垣間見せている。


 彼女もまた悪い人物ではなさそうだった。


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