エピソード3.5 放置されていた部屋
〈エピソード3.5 放置されていた部屋〉
学生たちが夏休みに入ると、修一の住んでいたアパートの部屋に修一の姪に当たる女の子が足を踏み入れた。
「うわ、ここが修一さんの暮らしていた部屋かぁ」
現役女子高生で、学校ではとびっきりの美少女と評判の桂木留美は、部屋に入った途端、顔をしかめる。
「汚いしさっさと出て行きたいけど、この部屋を片付けたら、おばさんからお小遣いが貰えるからなぁ」
でなければ、こんな男臭い部屋には絶対に入りたくなかった。
「全ては三万円のためだし、我慢するしかないよね」
留美は自分の心に喝を入れると服の袖をまくり上げる。
ストレートに長く伸ばした黒髪も邪魔になるので、ゴムでまとめて可愛らしいツインテールにした。
「じゃあ、張り切って片付けを始めるとしますか。まずは、この大量に積まれた漫画雑誌を処分しないと……」
やる気を見せる留美は、修一が放置していた汚い部屋の片付けをする。
慣れてしまえば、臭いやホコリっぽさも気にならなくなった。
だが、一日で終わる作業ではないので、キリが良いところで片付けは中断する。
「少しはマシになったけど、全然、綺麗にならないね。修一さんも、よくこんな部屋で生活してたなー」
留美は部屋の真ん中で仁王立ちしながらぼやく。
「でも、男臭い部屋の割にはエッチな本とか全然ないよね。修一さんったら、女性と付き合うのはもう諦めちゃってるのかな?」
留美は男の部屋を掃除すれば、エッチな本やDVDの一つくらいは見つかるものと思っていた。
女の子の自分だって、スマホでエッチな画像や動画を見ることはあるし。
が、今のところ、修一の部屋にその手の物は全く見当たらなかった。
汚い部屋なのに、ある種の潔癖さを感じるのだ。
なので、留美も小首を傾げる。
「だけど、溜まるものは溜るはずだからなぁー。女の子の私だって、週に三回はアレコレしないと体がウズウズするし」
つまらなそうに言うと、留美は大きく伸びをして、体の疲れを発散する。
すると、風通しを良くするために開けておいた窓からパトカーのサイレンの音が聞こえて来る。
それも一台や二台のサイレンの音ではない。
その上、窓の外を眺めていると、修一のアパートからそれほど離れていない場所にパトカーの赤いランプが止まっているのが見えた。
「結構、近くで止まったし、何か事件でもあったのかな? 今から家に帰ろうって言うのに、何だか怖いな……」
留美はサイレンの音の多さから、大きな事件かもしれないと思いながら修一のアパートを出た。