エピソード2 ドラゴンに負けない装備と魔界の入り口
〈エピソード2 ドラゴンに負けない装備と魔界の入り口〉
俺たちは再びグランベール魔法学院へと来ていた。
ドラゴンと戦うためには、どんな準備をすれば良いのか。また、ドラゴンを倒すために必要になる装備は、どうやって手に入れれば良いのか。
そう言った諸々のことを聞くために、俺たちは魔法学院の中にある教師用の部屋へと歩を進めていた。
「また来ました、ロイド教官」
教師用の部屋からロイドさんが顔を出すと、エリシアは綻んだ笑みを浮かべた。
「エリシア様ではないですか。悪魔を打ち倒し、国王陛下と和解された話は魔法学院にも届いていますよ」
ロイドさんの他意のない賞賛にエリシアは頬をボリボリと掻いた。
「そうですか」
「それで、今日は何の用ですかな。その顔を見るに、また難しい問題を抱えているように思えますが」
観察眼にも優れているのか、ロイドさんはそう言ってエリシアの隣にいる俺の顔を見た。
「シュウイチさんが、ドラゴンと戦いたいと言っているんです。なので、私たちはどうすれば良いのか、何かアドバイスをください」
エリシアはキリッとした顔で言った。
「それは、また難問ですね」
「はい」
エリシアが返事をすると、ロイドさんの顔が渋面になる。
それを見た俺は、色よい話は聞けないだろうなと察した。
「はっきり言ってしまうと、この国にドラゴンは一匹しか存在しません。そのドラゴンは有名な古代遺跡に住み着いています」
「エンシェント・ドラゴンのことですね」
エンシェント・ドラゴン、つまり古代竜はドラゴンの中でも最上位に居る奴だ。
ドラゴンなら何でも良いと思っていた俺に、いきなり高いハードルが突きつけられる。
「ええ。他のドラゴンは人間の前に姿を現すことは滅多にありませんし、確実に出会えるドラゴンは古代遺跡にいるエンシェント・ドラゴンだけでしょう」
「エンシェント・ドラゴンは遺跡に入り込む人間を殺し歩いていると聞いています。誰かが、何とかしようと思わなかったのでしょうか?」
「思いましたとも」
「なら、なぜ今も遺跡に居座り続けることができるのですか?」
エリシアは当然とも言える疑問をぶつけた。
「簡単な話です。国も件のエンシェント・ドラゴンを何とかしようとしましたが、千人の騎士たちを揃えても討伐することができなかったのです」
「そこまでの力が……」
エリシアは恐れ戦いたのか、声を震わせた。
「はい。その上、エンシェント・ドラゴンは遺跡から出ようとしませんし、無闇に手を出すのは得策ではないと国も判断したのです」
「放っておいても問題はないと判断されたんですね」
「その通りです。遺跡にさえ入らなければ、エンシェント・ドラゴンによる実害はありませんから」
エンシェント・ドラゴンを倒しに行くのは、藪をつついて蛇を出すようなものかもしれない。
「今の私たちにエンシェント・ドラゴンを倒す力はあるでしょうか?」
「それは私にも計りかねます」
「ですよね」
「ただ、余程、大きな目的がない限り、エンシェント・ドラゴンと戦う意味はないかと」
「だ、そうですが、シュウイチさんはそれでもドラゴンと戦うつもりですか」
「ああ」
俺はここだけは譲れないと思いながら返事をする。
充実感に溢れていたテスト・プレイが終わろうとしている。そうなれば、もう二度とこの世界には来られないかもしれない。
であれば、最後は悔いのない冒険をしたい。
そのためには、初めてこの世界に来た時から持ち続けていた意思を大切にする必要がある。
そんな俺の内心をエリシアも見て取ったらしい。
彼女は不平を口にすることなく、頭を切り替えるようにロイドさんとの話を続ける。
「なら、ドラゴンと戦うために必要になる装備を教えてください」
「まず、鋼鉄を誇るドラゴンの体を切り裂くためには、魔法の武器が必要になります。あとは、ドラゴンが得意とする炎を無効化する防具も」
「それは、どうすれば手に入りますか?」
「全て、魔法学院で用意できます」
「なら」
エリシアの言葉を遮るようにロイドさんは言葉を発する。
「ただ、魔法の武具はお金には代えられない貴重なものです。それが欲しければ、相応の対価が求められますよ」
いつも優しかったロイドさんの声に、厳しさのようなものが混じった。
「では、その対価を教えてください」
「分かりました。魔法の武具は私の権限で用意します。その代わり、一つ頼みたいことがあります」
「頼みたいこと?」
「はい。本当はギルドに持って行く話だったのですが、あなたたちもギルドのメンバーですし、ここで依頼しても構わないでしょう」
「話を聞かせてください」
エリシアは難題を押し付けられるのを覚悟したのかゴクリと息を呑んだ。
「魔界へと繋がるゲートの研究していた魔法使いが姿を消したのです」
「魔界のゲートですか?」
「はい。王都に亜人が増え出した時期とも合致しますし、どうやら、その魔法使いは王都のどこかに魔界のゲートを開いたようです」
ロイドさんは苦味のある顔で言葉を続ける。
「その魔法使いは、どんな手を使ってでも必ず魔界に行くと豪語していましたから」
魔界は普通の人間が暮らせるような場所ではないと聞いているし、その魔法使いはちゃんと生きているのか?
「その魔法使いを何とかすれば良いんですね?」
「そうです。できれば、魔界のゲートも閉じてもらえれば、他に言うことはありません」
「魔界のゲートはどこにあるのですか?」
「王都の地下にあるという邪教の神殿だと皆は噂していますね」
「はあ」
エリシアの顔にはまた地下かと書いてあった。
「ですが、邪教の神殿は、その存在こそ囁かれていたものの、見つけたと報告した人間は一人もいません」
「魔界からやって来た亜人たちは口を割らなかったのですか?」
「このことに関しては彼らも口を硬く閉ざしています」
「そうですか」
「いずれにせよ、魔界のゲートを見つけ出し、魔界に足を踏み入れた魔法使いを探し出して連れ戻す」
ロイドさんは値踏みをするような目で更に口を開く。
「そんな芸当が、あなたたちにできますか?」
ロイドさんの問いかけを受け、俺は気合の入った顔をする。
「やります。亜人たちの問題は他人ごとでは片付けられませんから」
そう答えたのはエリシアではなく俺だ。
亜人たちの居場所を作っていたサキュバスの店を潰し、その後ろ盾となっていたジャヒーを追い払ったのは俺だからな。
亜人たちには、俺も負い目がある。
「そうですか。では、私も出し惜しみすることなく最高の武具を用意しましょう」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはまた早いですし、あなたたちは闇の魔導師と呼ばれている《シェイド》を何としてでも連れ戻してください」
ロイドさんの力の籠った言葉を聞き、今回のイベントも苦労しそうだなと思いながら、俺は大きく頷いて見せた。




