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エピソード1 S Sランクの冒険者

〈エピソード1 SSランクの冒険者〉


 俺たちは大事な話を聞くためにギルドに来ていた。


 が、用のある受付カウンターには今日も列ができているので、ソファーに腰を下ろしながら待つことにする。


 でも、今日は待つ時間がやけに苦痛に感じられた。


 ま、それだけ俺の心が逸ってしまっていると言うことだが。


 ちなみに、ガーランドさんからの依頼を果たしたことで、冒険者ランクのキャップが外れる条件は満たしている。


 なので、俺はSSランクの冒険者になれたかどうかを受付嬢のチェルシーさんから教えもらうことになっていた。


 俺は緊張しながら受付カウンターが空くのをひたすら待つ。


「お待たせしました、カツラギ・シュウイチさん。当ギルドはあなたをSSランクの冒険者として認定します」


 チェルシーさんは俺に冒険者手帳を返すとそう言って笑った。


「よし!」


 俺は今回もガッツポーズを決めていた。


 やっぱり、レベルやランクが上がる時は達成感のある興奮が感じられるよな。


 ゲーム好きの男にはたまらない瞬間だ。


 そんな俺の様子を微笑ましそうに見ながら、チェルシーさんは説明を始める。


「SSランクの冒険者には、極めて特別なクエストのみが依頼されます」


「特別?」


「はい。当ギルドが厳選したクエストです」


 チェルシーさんは厳選という言葉を強調しながら口を開く。


「また、掲示板に貼り出されているクエストは、どんな条件のものでも受けられるようになります」


 チェルシーさんは淀みなく説明を続ける。


「そして、SSランクの冒険者は犯罪等の問題行動を起こさない限り、どんなことがあろうと降格はしません」


 問題行動って言うのが、ネックになりそうなところだよな。


 ギルドのクエストの中には、対応を間違えると罪に問われかねないシビアなものもあるし。


「ですが、カツラギ・シュウイチさんには今まで以上に奮闘することをお願い致します。そして、是非とも《殿堂入り》の冒険者になってください」


 殿堂入りという単語には惹かれるものがあるな。


「では、良い冒険を」


 チェルシーさんがお決まりの台詞を言うと、俺はギルドの受付カウンターを後にする。


「殿堂入りの冒険者になれば、ギルドの幹部に抜擢されるんだよな。そうなれば、ギルドの運営に口を出すこともできるようになるってわけだ」


 俺はウキウキした顔で言った。


「残念ながら殿堂入りの冒険者になる前に、あんたのテスト・プレイは終わるわよ」


 浮かれる俺にイブリスの冷や水を浴びせるような言葉が放たれる。


「そうなのか?」


「ええ。会社側もアタシにテスト・プレイの終了が間近にまで迫ってきていることを伝えろ、っていう指示が来たから」


 イブリスはどこか苦い顔をしながら言った。


「テスト・プレイが終了するのは構わないが、金の方はどうなっているんだ? 現実の世界でも俺は金持ちになれそうか?」


 あんまり金の話はしたくなかったが、それでも俺にとっては大切なことなので尋ねていた。


「それは、アタシには知らされていないわ」


「そうか」


「でも、あんたが映っている動画は、動画サイトにアップされて何億回も再生されてるし、コミマのブースで流された動画もけっこうな反響を得ていたわ」


「何億回も再生されているのは凄いな」


 それだけ俺の姿が多くの人に見られているということだ。


 そのことについては、俺も恥ずかしく感じているのだが、動画サイトでの配信は予め承諾していたことなので文句も言えない。


「ええ。この世界の映像を使ったゲームが発売されれば、例え、それが仮想世界じゃなくて、普通のテレビゲームでも爆売れは間違いなしよ」


「へー」


「ゲームが売れれば、印税のような形であんたにもお金が入ることになってるし、あんたも貧乏な生活からは確実に脱出できるでしょ」


 もし、大金が入ったら、もっと良いところに住もう。


 あのアパートは親戚が経営しているものだから家賃はただで住めたけど、あのせせこましさは如何ともしがたい。


「それを聞いて安心したよ。で、肝心の俺の体の方はどうなんだ。ちゃんと病気は治っているのか?」


 しつこいようだが、体が治っていなければ話にならない。


 ダメージを受けているのが脳だけに、目が覚めても満足に体を動かしたりできるのかどうかは心配だ。


「あいにくと、それも知らされてないわ」


「何だよ、それ?」


 俺はイブリスの投げやりな感じの声を聞いて、少しだけ腹が立つ。


 イブリスに当たっても仕方がないことは理解していたが、それでも、自分の体に関する苛立ちはどこかで吐き出したかったのだ。


 そんな俺の態度を受け、イブリスはツンとした顔でそっぽを向く。


「アタシを睨んでも、欲しい情報は引き出せないわよ」


「そりゃそうだが」


「とにかく、テスト・プレイが終われば全ては分かることだから、それまでは余計な雑念は捨てなさい」


「分かったよ。なら、俺も必ず良い未来が待ってるって信じることにする」


「それが良いわね」


「ああ。不安に駆られたままじゃ、思わぬところで足を掬われかねないからな」


 尋ねたいことは幾らでもあったが、イブリスの譲らないような態度を見て、俺も自重することにした。


「そこまで分かっているなら、アタシとしても忠告することは何もないし、せいぜい悔いのない行動を心がけることね」


 イブリスは俺の不満をサラリと受け流すように言って、言葉を続ける。


「ちなみに、あんたはこの世界でやりたいことは残ってないの?」


 そう切り返されると返答に困るな。


「……ある。俺はドラゴンと戦ってみたいんだ。この世界に来た時から、その思いはずっと持ち続けていたからな」


 ファンタジーの世界と言ったら、やっぱり、ドラゴンだという考えは変わっていない。


 なので、フィナーレを飾れるような敵は、ドラゴンしか思い浮かばなかった。


「ドラゴンと戦うには、今のあんたのレベルはギリギリよ。それに、特別な装備も必要になって来るわ」


「特別な装備か」


「ええ。強靭なドラゴンの鱗を切り裂ける魔法の武器や、凄まじい炎を無効化する魔法の防具は用意しておきたいところね」


「それはどこに手に入るんだ?」


 今の装備も十分すぎるほど質の良いものだが、それでもドラゴンとは渡り合えないということか。


 やはり、この世界でもドラゴンとの戦いは一筋縄にはいかないものになっているようだ。


「魔法に関連したこと知りたければ魔法学院に行くのが一番、早いんじゃない?」


「そういうことなら、ロイド教官に相談してみるか。あの人なら、必ず役に立つアドバイスをしてくれるはずだし」


 俺は親切だったロイドさんの顔を思い出しながら言った。

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