エピソード4 国王の招き
〈エピソード4 国王の招き〉
アーク・デーモンを打ち倒した次の日。
俺はエリシアと共に宮殿にある華美なカーペットが敷かれた大空間、謁見の間にいた。
俺の視線の先には、禍々しさがすっかり消えた国王が玉座に腰を下ろしている。誰からも愛される優しい国王が戻って来たということだ。
その証拠に、国王の脇に控えている重臣たちの表情も何とも晴れやかだった。
「カツラギ・シュウイチ殿。この度の件では本当に助けられたし、そのことを深く感謝する。ありがとう」
グランベルト王国の国王、アルバス・アーバインは頭を垂れて俺への感謝の意を示した。
「俺一人の功績ではありません。全て上手くいったのは、あなたを助けようとしたエリシアの強い思いがあったからこそです」
アーク・デーモンを打ち倒したのもエリシアだからな。
俺一人だったら、どうなっていたか分からないし、エリシアの功績は極めて大きいと言えるだろう。
「分かっている。悪魔に操られていたとはいえ、エリシアには辛い思いをさせてしまった。本当にすまなかった」
国王はエリシアの方を向くと再び頭を下げた。
「お父様が元に戻ってくれたのであれば、今までの辛さなど取るに足らないものです」
エリシアは澄みきった声で言った。
「そう言ってくれると私も救われる」
国王は本来の人格が戻ったからか、人好きな感じがする柔和な笑みを浮かべた。
「ですが、今、お父様が果たさなければならないことは、身内への感謝ではありません。この国の王として、民からの信頼を取り戻すことです」
エリシアの叱咤するような言葉に国王も鷹揚に頷く。
「分かっている。これからはより一層、良き王としてこの国のために尽力しよう」
「それを聞いて安心しました」
「ああ。エリシアも心置きなく宮殿に戻って来ると良い。もう政略結婚をさせようなどとは思わぬから」
「宮殿には戻れません」
エリシアがそうキッパリと言うと、国王の表情が曇る。
「何故なのだ?」
「私は冒険者としての生活の方が性に合っているみたいですので」
エリシアの言葉を聞いて、国王はふっと穏やかに笑った。
「そうか……。なら、お前はお前の信じた道を行け。それを阻むことは、もう私にはできん」
国王は父親としての顔を覗かせつつも、エリシアの意思を尊重するように言った。
「ありがとうございます」
エリシアは暗雲を消し去る太陽のような笑みを浮かべた。
「シュウイチ殿、エリシアのことをよろしく頼みましたぞ」
国王の視線が再び俺に移った。
「分かりました。では、最後に一つ進言させてもらってもよろしいでしょうか?」
そう言って、俺は腹腔に力を入れる。
「構わぬ。何なりと申すが良い」
「この度の件では、魔王バロールの暗躍がありました。ですが、バロールは真剣に亜人やモンスターたちの居場所を作ろうとしていたようです」
俺は用意していた言葉をスラスラと続ける。
「ですので、国王陛下にはスラム街に押し込まれている亜人たちに救いの手を差し伸べて欲しいのです」
俺は真摯な態度で、そう進言した。
それを受け、国王も嫌な顔をすることなく、実直な感じで頷く。
「分かった。邪悪な魔王が慈悲と寛容を示したのに、人間の国の王である私が亜人やモンスターたちを切り捨てたとあっては恥の上塗り」
国王は寛大さを見せながら更に口を開く。
「モンスターはともかく、亜人たちにはこの王都でも真っ当な暮らしができるように、働きかけをしていこう」
「ありがとうございます」
俺が国王に頭を下げると、謁見の間でのやり取りは終了した。
俺は謁見の間を後にすると、開放感のある空気を吸い込みながら、エリシアと共に宮殿の通路を歩く。
エリシアの横顔は心なしか凛々しく見えた。
彼女も今回の一件で、人間として成長したと言うことだろうか。
「本当に良かったのか、エリシア?」
俺はエリシアの反応を窺うように尋ねる。
「何がですか?」
「宮殿での暮らしを捨ててまで冒険者として生きていくのは、色々と後ろ髪を引かれるんじゃないかと思って」
「あまり見くびらないでください。私はお父様の承諾がなくても冒険者としての生活を選んでいました」
エリシアは俺と会った時には、既にパーティーを組んで冒険者として生活していたからな。
宮殿での生活が嫌なだけなら、冒険者以外の道だって幾らでもあったはずだし。
なのに、危険を伴う冒険者としての生活を選んだのだから、エリシアのバイタリティーは大したものだと言えるだろう。
「そうか。だが、俺はいつまでもエリシアと一緒に居ることはできないぞ。たぶん……」
「分かっています。この先、シュウイチさんと離れ離れになる時が来たとしても、私は自分の力で精一杯、生きていきます」
「それなら良いんだ」
「でも、願わくば、いつまでも修一さんの傍に居たいです。一人の女性として」
その言葉はあなたのことが好きですと言っているのと同義だった。
それが分からないほど、俺は朴念仁ではないが、だからと言ってその想いに応えるわけにもいかない。
「俺なんかには勿体ない言葉だな」
俺は元の世界でのことを思い出し、自嘲するように笑った。
「シュウイチさんは自己評価が低いと思います。私にとってシュウイチさんは素晴らしい男性なんですよ」
「元の世界でも、そんな風に俺のことを評価してくれる人間がいたら、少しは違った人生を歩んでいたかもな」
「そうですか」
エリシアの悲しげな顔を見て、俺もここがゲームの世界じゃなかったらな、と思わずにはいられなかった。
「国王との謁見は終わったようね。レベルの方もとうとう五十の大台に乗ったし、ここからは終盤戦よ」
謁見の間には入らなかったイブリスがようやく俺たちの前にやって来た。
「ああ。この調子で最後まで駆け抜けてやるさ」
元の世界に戻れば大金が待っているし、俺だってその金を使ってやりたいと思っていることはたくさんあるのだ。
何があろうと、元の世界での人生を捨てる気はない。
「その意気ね」
イブリスが屈託なく笑うと、俺たちは宮殿を出てアメイヤが待っている宿へと戻った。




