エピソード4 戦勝パーティ
〈エピソード4 戦勝パーティー〉
ベルクスタの存亡をかけた戦いに勝利した俺たちは宮殿の広間にいた。
そこでは勝利を祝うパーティーが開かれていて、みんな高貴に見えるタキシードやドレスを身に着けていた。
広間に設置された幾つもの大きなテーブルには、豪勢な料理がたくさん並べられている。
まさに、贅を尽くしたようなパーティーだ。
「みんな明るい顔をしているわね。戦に勝つ前は、お通夜みたいな顔をしていたのに、とんだ変わりようだわ」
イブリスはフライドチキンの皮に噛り付きながら言った。
「良いじゃないか。平和が戻って来たんだから、多少は浮かれても罰は当たらないさ」
俺も脂の乗ったローストビーフを豪快に食べている。
「でも、楽観はできないわよ。諸悪の根源の魔王バロールがいなくなったわけじゃないんだし」
「そうだな。バロールが健在なら、モンスターたちも再び大きな軍勢を作り上げて、戦いを挑んでくるかもしれない」
「その可能性は大いにあるわね」
イブリスの言葉を聞いた俺は魔王バロールに対する興味が大きくなるのを感じていた。
バロールは単なる悪者ではないと、確信し始めていたし。
なので、俺もバロールの真意のようなものは掴んでおきたいと思った。
「ああ。まあ、俺が本物の勇者だったら、魔王を倒すまで冒険は続くんだろうが」
「残念だけど、あんたは勇者じゃないわ」
「分かってるよ。俺はあくまで一介のテストプレイヤーに過ぎないからな。身の丈に合わないことはするべきじゃない」
「その通りよ。所詮、ここはゲームの世界。泣いても笑っても、それはエンターテイメントに過ぎないわ」
「エンタメか。でも、この世界はあまりにもリアルだからな。そのせいで、どうしてもゲーム世界だってことを忘れてしまうんだよ」
そうなんだよな。
どんなにリアルに作られていても、ここは仮想世界。
辛いことや悲しいことも、ただの娯楽でしかない。
そう割り切らなきゃ、怖くて先に進めないイベントが多すぎる。
「そこまでの没入感があるなら、このゲームはきっと商業的に大きな成功を収められるわね」
「そうなれば、俺も現実の世界では大金を手に入れて、人生をやり直せるわけだ」
「だと良いんだけどね」
イブリスの仄めかすように言った。
それを聞いて、俺も現実の世界にある自分の体は大丈夫なのかと、もう幾度目かになる不安に襲われる。
でも、看護が必要なほど脳がダメージを受けているとイブリスも言っていたからな。
いざ、意識を取り戻しても体に後遺症のようなものが残っていたら、大金を手に入れた喜びもなくなる。
その上、幾ら体のことを聞いても、イブリスは分からない、の一点張りだし。
だから、余計に不安も募る。
そんなことを悶々と考えていると眩い光を放つドレスを着たエリシアがやって来る。
「私のドレス姿はどうですか、シュウイチさん?」
今のエリシアは王女としての気品のようなものを漂わせていた。
やはり、高貴な血筋は隠し通せないようだな。
「凄く似合っているよ。やっぱり、エリシアには普通の女の子にはない華があるな」
「そう言ってくれると嬉しいですね。こんな素晴らしいドレスを貸してくれたエルフの人たちには感謝です」
「今のエリシアの美しさは、エルフにも負けてないよ」
「お世辞が上手ですね」
俺の言葉にエリシアは頬を赤らめた。
「本当のことを言ったまでさ。エリシアはもっと自分に自信を持って良い」
「分かりました。私も修一さんと吊り合うような女性になれるよう精進します。シュウイチさんも期待しててくださいね」
エリシアはドキッとさせられるようなことを言って、更に言葉を続ける。
「では、私は貴族の方たちと話をしなければならないので、少しの間、失礼しますね」
そう言うと、エリシアは名残惜しそうな顔で俺の傍から離れて行く。
すると、今度は同じくドレスを着たアメイヤがやって来た。
「この服、私は好きになれない」
アメイヤはソワソワした顔で言った。
「そうだな。エリシアと比べると馬子にも衣裳って感じだし、アメイヤが落ち着かないような顔をしているのも分かるよ」
俺はアメイヤの体を上から下まで見ながら言った。
「私のドレス姿はそんなに似合わない?」
アメイヤは膨れっ面をする。
こういう反応を見せるのは珍しいし、いつもは超然としているけどアメイヤもまだまだ子供だな。
「今はな。でも、あと一年もすれば、きっと似合うようになるさ。その頃には胸とかお尻も今より大きくなっているだろし」
「お兄ちゃん、下品」
アメイヤは仏頂面で言った。
「悪い、悪い。ま、俺たちはあくまで冒険者なんだ。貴族のように着飾る必要はないってことだよ」
俺はアメイヤの頭を優しく撫でた。
「そう思う。私の役割は槍を振るうことだから」
アメイヤははにかみながら言った。
「それが分かっているなら良いんだ。俺の役割も似たようなもんだからな」
「そうだね。一緒に頑張ろ、お兄ちゃん」
アメイヤは小さな笑みを浮かべると、お腹が空いたと言って、主にデザートが並べられているテーブルの方へと向かった。
「少し、よろしいでしょうか?」
入れ替わるように俺の背後から声をかけてきたのは、神が直接、拵えたような美しさを感じさせるエルフの女性だ。
「構いませんよ、ラシール様」
俺はラシール様の高貴なオーラに少しだけ気圧される。
ラシール様は実に神々しいし、エルフということを抜きにしても他の女性たちとは一線を画した雰囲気が感じられた。
「率直に言いますが、あなたはこの世界を夢のようなものだと思っているのではないですか?」
ラシール様は表情こそ穏やかだったものの、その声は抜き身の刃のように鋭かった。
「そんなことは……」
俺も返す言葉に詰まり、口籠る。
「なら、はっきりと言っておきますが、この世界は紛れもなく現実です」
ラシール様は轟然と言葉を続ける。
「この現実を否定するのであれば、あなたのいた世界も夢だということになりかねませんよ」
「はあ」
ラシール様は俺がこの世界の人間ではないことを完全に見抜いているようだ。
「この世界で死ねば、例え生き返れるような話になっていたとしても、あなたという存在は確実に消えるのです」
「それは……」
「もう一人のあなたが、元気に生きていたとしても、それが今のあなたにどんな得があるというのでしょうか?」
「……」
俺は二の句が継げなかった。
ラシール様の言葉が的を得ているなら、イブリスが絶対に死んではいけないと強く言ったことも納得できる。
この世界での死は、現実の世界の死と何も変わらないのかもしれない。
死というものさえ、リアルに再現されているのなら、この世界で起きることを軽々しくエンターテイメントだ、などと言うことはできなくなる。
「あなたはもっと危機感のようなものを持つべきです。この世界の危機は、あなたにとって夢幻で済ませられるようなものではありませんよ」
そう窘めるように言うと、ラシール様の脇から侍女のようなエルフの女性が現れる。
エルフの女性はラシール様に太守様が呼んでおりますと恭しく言った。
「脅かすようなことを言ってすみません、シュウイチ様。ですが、あなたもこの世界が現実のものだということを努々、忘れませんように」
やんわりとした忠告をすると、ラシール様はドレスの裾を翻して俺の傍から離れて行った。




