エピソード1 騎士団と共に
〈エピソード1 騎士団と共に〉
俺たちは全員揃って、宿屋の食堂にいた。
俺も含めて、みんなの表情は硬い。
それだけ、心して懸からなければならないクエストの依頼が来たのだ。
この緊張感は失わないようにしたい。
「ついにレベルキャップが外れるクエストが回って来たわね」
イブリスは待ってましたとばかりに言って、更に口を開く。
「でも、その分、今回のクエストは危険なものになっているし、気合を入れていくわよ!」
イブリスの言葉を聞いて、俺も真面目な顔を形作る。
「ああ。今回は騎士団と合同の作戦だ。くれぐれも騎士たちの足は引っ張らないようにしよう」
「ええ。騎士たちに睨まれたら、後々、面倒なことになるわ」
「なら、そういったことにならないように、奮闘しないとな。でないと、俺たちにクエストを回したギルドの方にも、シワ寄せが行きかねない」
ギルドの信用を落とすようなことはしたくない。
そんなことをすれば、すぐに俺たちのランクも降格してしまうからな。
Sランクを維持するのは難しいと聞いていたし、ここは気合の入れどころだ。
一方、俺の言葉に反応するようにアメイヤが言葉を差し挟んでくる。
「私のお爺ちゃんも騎士だった。だから、騎士団の厳しさは私も知ってるつもり」
「確か、アメイヤのお爺さんは名誉騎士だったな」
「そう。お爺ちゃんは本当に立派な騎士だったし、私の誇りだよ」
そこには英雄の血の力添えもあるのかもしれないな。
生まれついての素養が重要になるこの世界では血の力というものは侮ることができない。
「私も王宮では警護の騎士たちとよく話をしました。やっぱり、騎士という職業は大変みたいですね」
エリシアは懐かしそうな目をして言った。
でも、宮殿警護する近衛騎士と戦場に出る普通の騎士は毛色が違うと思う。
近衛騎士が華やかなイメージなら、普通の騎士は武骨なイメージだろう。
「ま、戦う力だけなら騎士たちよりも俺たちの方が上だからな。普通の戦いで騎士たちに後れを取ることはないだろう」
イブリスが言うには騎士たちのレベルは二十五くらいで、ほとんど統一されているらしい。
対して、俺たちのレベルは全員、四十だ。
こと戦いに置いて、俺たちが騎士たちに引けを取ることはないだろう。
「でも、騎士たちの本領は組織的な戦いにあるわ。戦争が起きたりすれば、真っ先に駆り出されるのが騎士たちだからね」
訳知り顔で言っているが、イブリスは騎士たちの戦い方を見たことがあるのだろうか?
「うん。戦場に出た騎士たちは、場合によっては死ぬのも役割の一つになる」
アメイヤの言葉には、さすがの俺も薄ら寒いものを感じた。
「大義のためなら命を捨てられるのも騎士の強みかもしれません。私も騎士道精神というものには、敬服させられます」
エリシアも王族だし、いざとなったら民衆の盾にならざるを得ないのかもしれないな。
「まあ、俺たちに騎士たちの真似はできないってことだ」
俺は達観したような顔で言葉を続ける。
「俺たちは冒険者だし、自分にできる仕事をしよう。無理に騎士たちと同じことをしようとすれば痛い目を見るだけだ」
「その通りね。己の分を弁えましょう」
イブリスに言われるまでもなく、俺も出しゃばった真似はしないつもりだ。
「分かった。私も無闇に命を捨てるような行動は取らない」
アメイヤは危なっかしいところがあるから心配なんだよな。
でも、命を捨てないと言ったからには、その言葉を忠実に守った行動をしてくれることだろう。
「私も同じです。王族というしがらみに囚われず、騎士たちと接します」
騎士たちもエリシアのことは特別扱いするに違いない。
そうなると、エリシアも身動きが取れなくなる可能性がある。
騎士たちに王族という立場を誇示するようなことは、言わない方が良いだろうな。
「さてと、食事も終わったことだし、気を引き締めて騎士団の詰め所に行くわよ!」
イブリスがそう発奮するように言うと、俺たちは王宮の近くにある騎士団の詰め所へと向かった。
◇◆◇
騎士団の詰め所は、石造りの城塞のような建物だった。
その大きさは近くにある王宮と遜色がないが、騎士団の詰め所の方が、より堅固な建物に見える。
俺たちはその建物の中にある会議室のような場所にいた。
周りには全身を覆う鎧を着込み、立派な剣を腰に下げた騎士たちがいる。
騎士たちの持つ重厚な雰囲気を感じ取ると、俺も体から汗が滲み出て来る。
これがこの国の守り手たる騎士団というわけか。
「よく来てくださいました、エリシア様」
巨漢の騎士が腰を低くしたような態度で話しかけて来る。
「私は王立騎士団の団長、ガーランド・ドルーサスです。こうして、あなたに会えるとは光栄の極みであります」
栄えある騎士団の団長、ガーランドさんは感激しているような顔でエリシアの手を取った。
「私を持ち上げるのは止めてください。パーティーのリーダーはそこにいるシュウイチさんなのですから」
エリシアは俺の方に視線を送って来た。
「そうでしたな。では、シュウイチ殿」
ガーランドさんは俺の方に向き直ったので、俺も緊張しながら返事をする。
「は、はい」
「あなたのトーナメントでの戦いは私も拝見していました。実に素晴らしい剣の腕をお持ちのようで」
「日々、訓練に励んでいるあなたたちには敵いませんよ」
俺の剣の腕は努力で得たものではない。
単なるチート・スキルの恩恵だし、それを誇る気にはなれない。
「ご謙遜を。騎士たちの中でも、あれ程の戦いができる者はそうはいません。私もあなたたちなら、絶対に大きな力になってくれると断言できます」
「そうですか。まあ、俺たちも仲介者であるギルドの顔に泥を塗るようなことはしませんよ」
「そうして頂けると助かります」
「ええ」
俺が小恥ずかしそうな顔をしていると、ガーランドさんは顔つきを変える。
それは、紛れもなく武人の顔だった。
「では、本題に入りますが、我々はこの国の第四都市ベルクスタに向かわねばなりません」
ガーランドさんは長々とした説明を始めるようだ。
「現在、ベルクスタは戦場になっています」
戦場という言葉に俺もヒヤッとする。
「魔王バロールの配下であるゴブリンやオーク、オーガやダーク・エルフの軍勢がベルクスタを陥落させようと攻勢を仕掛けているのです」
魔王バロールは魔界の支配者だ。
過去にはこの世界に侵攻したこともあったが、アメイヤの先祖に退けられた。
が、再びこの世界を我が物にしようと、様々な計略を巡らしていると聞いている。
「対するベルクスタも人間とエルフ、ドワーフの連合軍で、これを迎え撃っています」
そう言えば、この世界に来てから結構な時間が経つが、エルフやドワーフの姿は見たことがないんだよな。
ダーク・エルフなら普通にスラム街にいたが。
「ですが、形勢は不利な状況でして、ベルクスタの太守がこの王都に駐屯する騎士団に応援を要請してきたのです」
それだけ、切羽詰まっているということだし、俺たちもこの状況をもっと深刻に捉えなければならない。
「私たちも、それに応じなければなりません。魔王バロールの良いようにさせていては、この王都も危なくなりますから」
この王都のどこかに魔界のゲートが開いているという話もある。
魔王バロールの脅威は、みんなが思っている以上に身近に迫っているのかもしれない。
「なるほど。では、ギルドから伝えられていたように、我々も騎士団と共に戦えば良いんですね」
気後れしていた俺は、そこでようやく言葉を差し挟むことができた。
「その通りなのですが、魔王バロールの軍勢を率いているのは、屈強な体を持つキング・オーガです」
「手強そうな相手ですね」
「それは間違いないでしょう。だからこそ、あなたたちには戦場で、そのキング・オーガを打ち取ってもらいたいのです」
キング・オーガが相手でも負けない自信はある。だが、矛を交えるのは戦場だし、そこがネックになりそうだ。
「上手くいくと思いますか?」
「いかなければ、困ります。大勢の人間の命がかかっているのですから、失敗は絶対に許されません」
「ですよね」
俺は重圧のようなものを感じながら返事をした。
「はい。とにかく、次の戦いでは、両軍は平原でぶつかり合うことになっています。なので、時間が経てば乱戦になることは間違いないと思われます」
ガーランドさんは厳めしい顔で言葉を続ける。
「そうなったら、あなたたちの騎士にはない力と機動力をもって、キング・オーガをできるだけ速やかに打ち取ってください」
ガーランドさんは声に力を込めて更に言い募る。
「そうすれば、バロールの軍勢を総崩れにできるかもしれないので」
「分かりました」
危険ではあるが、やることはごくシンプルだ。
最近のクエストにあったような煩雑さは感じられない。
が、それだけに、純粋な力を要求されそうだ。
いずれにせよ、戦場ではたくさんの人間の死を見ることになるし、そこは覚悟しておかなければならないだろう。
「危険な戦いになりますが、これもグランベルト王国の存続のためです。どうか、ご助力のほどをお願いします」
そう言うと、ガーランドさんは子供の姿をしている俺に向かって深々と頭を下げた。




