エピソード2.5 女神の嘲笑
〈エピソード2.5 女神の嘲笑〉
「女神イブリス様、本当にあの程度の説明でよろしかったのですか?」
修一の姿が掻き消えた空間に黒いスーツ姿の男が忽然と現れた。
「別に良いんじゃない?」
イブリスと呼ばれた少女は砕けたように肩を竦める。
「ですが、送られる世界で死んだりしたら、彼はそれで終わりですよ」
黒スーツの男は食い下がるように言った。
それを受け、イブリスは唇に指を這わせながら口を開く。
「分かってないわね。だから、面白いんじゃないの」
イブリスはクックと笑った。
「面白いで済ませたら、彼が可哀想です」
黒スーツの男は語気を強くする。
「かもね。ま、心配しなくても、ちゃんとアタシが付いているし、死ぬことのリスクもそれとなく伝えるつもりよ」
イブリスは額にかかる美しい金髪を掻き上げながら言った。
「なら、良いのですが……」
黒スーツの男は複雑な表情を浮かべる。
それを尻目に、イブリスは少女には似つかわしくない老獪さを感じさせる顔をする。
「世界各地の遺跡で見つかり続ける《元始の言葉》。その言葉で創られた世界は現実そのもの」
イブリスは詩でも吟ずるように言葉を続ける。
「いずれ、彼が元いた世界も元始の言葉による侵食が始まるでしょうね」
イブリスは蠱惑的な笑みを浮かべる。
「仮想世界として創られた世界と、神が創った本物と言われる世界が溶けて混じり合ったらきっと素敵なことになる……」
イブリスの悪魔のような笑みを見て、黒スーツの男は気圧されたように後ろに下がる。
「フフフ、アタシも今からワクワクして仕方がないわ!」
そう熱が籠った声で言うと、イブリスは翼を大きく広げて高らかに笑った。