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エピソード6 ダーク・リッチとの戦い

〈エピソード6 ダーク・リッチとの戦い〉


 夕暮れ時の村では、ゾンビたちがウロウロと彷徨うように歩いていた。


 村の家屋の窓や扉は全て閉じられていて、目に見える範囲に普通の人間はいなかった。


 村の人間がどれくらい犠牲になったのかは分からないが、これ以上、ゾンビを増やすわけにはいかないな。


「死者の尊厳のためにも、ゾンビたちは全て消滅させましょう」


 エリシアは覇気の籠った声で言うと更に口を開く。


「幸いにも私たちは全員、ホーリー・ボールが使えます。武器で弱らせたらホーリー・ボールで止めを刺してください」


 エリシアがそう指示をすると、俺たちは夜になって死霊の力が活発にならない内にゾンビを倒しにかかる。


 知性のないゾンビたちは、俺たち見ると嚙みつこうとしてきた。が、その動きは遅すぎて欠伸が出そうだ。

 

 俺は剣でゾンビたちの攻撃をあしらいつつ、ホーリー・ボールを当ててゾンビたちの体を塵に返してやった。


 エリシアとアメイヤもホーリー・ボールを攻撃の手に編み込みながらゾンビたちを消滅させていく。


 ゾンビたちの爪や牙で傷つけられるほど、俺たち三人はのろまではない。


 が、俺たちが順調にゾンビたちを倒していると、村の奥からローブ姿の人物が現れた。


 ゾンビとは明らかに纏っている雰囲気が違う。


 こいつが今回のボスと見て間違いないだろう。


「お前だな、可哀想なゾンビたちを操って、人を襲わせているのは」


 俺はフードで顔を隠している人物に剣の切っ先を向けた。


「自業自得だ」


 ローブ姿の人物は吐き捨てるように言った。


「何だと?」


「王都の人間たちは、墓も立てず、棺桶も用意しないで、この墓地に多すぎる死体を埋めていたのだ」


 ローブ姿の人物の声には何とも言えない苦々しさがあった。


「それは酷いな」


「そうだ。だから、吾輩は死者たちの無念を感じ取り、その原因を作った王都の人間たちに復讐することにしたのだ」


 ローブ姿の人物は満ち満ちた声で言葉を続ける。


「村の人間たちを襲いゾンビを増やしているのは、その足掛かりよ」


 筋が通っているように感じられる話だが、だからと言って賛同するわけにもいかない。


「事情は分かった。だが、罪もない人たちをゾンビに襲わせるのは看過できない」


「それは生きている者の理屈だな」


「まあな。とにかく、退かないというのなら、俺たちもお前を倒すしかなくなるぞ」


 俺は大人しく引き下がるような手合いではないなと思いつつ言った。


「吾輩を倒すか。ほう、面白い」


「随分な余裕じゃないか」


「吾輩は数百年を生きるダーク・リッチだからな。魔界で恐れられた吾輩の力、存分に振るわせてもらおうか」


 ローブ姿の人物はフードを取る。すると、そこには骸骨の頭部があった。


「ただのネクロマンサーじゃなかったのか?」


「吾輩は冥界に行き、死の王の力を借りてダーク・リッチに転生したのだ」


「転生だと?」


「そうだ。ただのネクロマンサーだったのは人間の頃の話よ」


 そう言って、ダーク・リッチは立派な装飾の杖を持ち上げる。


「相手がモンスターなら、こっちも心置きなく戦えるな。転生してまで得た力とやらを見せてもらおうか」


 ダーク・リッチのレベルは三十八。


 レベルだけなら俺たちも後れは取っていない。が、いざ戦うとなると、どういう展開になるかは分からない。


「望むところよ」


 ダーク・リッチは自信を漲らせながら言葉を続ける。


「戦いが終わったら、お前たちもゾンビの仲間入りをさせてやろう。そうすれば、死者たちの無念も少しは身に染みるはずだ」


 そう持論のようなことを口にすると、ダーク・リッチは稲妻のような光を杖の先端に呼び出した。


 俺たちはすぐさまダーク・リッチを取り囲むと、武器で攻撃を仕掛ける。


 エリシアはミスリル製のレイピアで突きかかり、アメイヤは英雄の槍の刃でダーク・リッチの体を切り裂こうとした。


 俺も空中にホーリー・ボールを何個も呼び出すと、そのままオリハルコンの剣で斬りかかった。


 ダーク・リッチは稲妻のような光を俺たちにぶつけて来る。


 が、俺たちはマジック・シールドの魔法で、その攻撃を完全に防ぐ。それから、三人で連携して嵐のような攻撃をダーク・リッチにお見舞いした。


 これにはダーク・リッチも怯むような動きを見せる。


 もちろん、ダーク・リッチもやられるばかりではなく、稲妻のような光を必死に撒き散らしてきた。


 まともに食らえばただでは済まない魔法だが、巧みな動きを見せる俺たちには命中しない。


 そんな攻防が、しばらく続く。


「お、おのれ! 吾輩を相手に、これほどの戦い方ができる奴は魔界にもいなかったぞ!」


 俺たちの攻撃で、かなりのダメージを負ったように見えるダーク・リッチは、唸るような声を上げる。


「じゃあ、魔界にいる連中も大したことはないんだろ」


 俺は挑発するように笑いながら言った。


「馬鹿なことを言うな! 明らかにお前たちが強すぎるのだ!」


 そんな問答をしている間も、ダーク・リッチは触れれば弾け飛ぶような光の塊を杖から絶え間なく放っていた。


 が、やはり、俺たちには掠りもしない。


 反対に俺たちの攻撃は激化するばかりだ。


 ダーク・リッチの手にしていた杖も俺たちの攻撃に耐えきれなくなったのか、二つにへし折れる。


 息も吐かせぬ連係プレーを見せる俺たちには、さしものダーク・リッチも手も足も出なかった。


「やっぱり、三人で息を合わせて戦うと強いわね。今のシュウイチたちなら、魔王クラスの敵とだって渡り合えるわ」


 イブリスの見立てに間違いはないだろう。


 それくらい、俺たちは飛躍的に強くなっていた。


「一対一なら良い戦いができたんだろうが、さすがに、一度に三人の相手はできなかったようだな」


 俺は剣で斬りかかりつつ、ホーリー・ボールも的確にダーク・リッチの体に命中させる。


 ダーク・リッチのローブに大きな穴が空いたし、今の俺は剣と魔法のコンビネーションを生かした上手い戦い方ができていた。


 魔法の習得は、本当に戦いのバリエーションを増やしてくれたな。


「私たちも本当に強くなった。今なら、どんな相手でも負ける気がしない!」


 水を得た魚のように、縦横無尽に槍を振るうアメイヤが言った。


「ええ。今の私なら神聖魔法の最上位に当たる攻撃魔法も使えます」


 エリシアが手を翳しながら声を発する。


「では、行きますよ、ダーク・リッチさん」


 エリシアは真に迫るような顔をすると、掌に目が眩みそうになるほどの白い光を溢れさせる。


 あれほどの清浄な光はエリシアよりレベルが上の俺でも作り出せない。


 魔法、それも神聖魔法に特化したエリシアだからこそ扱える魔法を行使するつもりなのだろう。


 その破壊力は想像ができない。


「「「邪悪なる者よ! 聖なる力をその身で受けなさい、セイクリッド・バースト!」」」


 エリシアがそう魔法名を叫ぶと、白くて太い光線がダーク・リッチの体を飲み込んだ。


 その瞬間、太陽よりも強烈な光を放つ大爆発が起きる。


 夜の闇は切り裂かれ、真昼のような光が周囲を照らし出した。


 その光はすぐには消えず、数十秒ほど空中に在り続けた。


 あとに残ったのは、肩から下がごっそりと消失し、ボロボロになったダーク・リッチの姿だけだ。


「み、見事だ……」


 地面に這いつくばっていたダーク・リッチは壊れたロボットのような動きで声を絞り出す。


「これで吾輩も彷徨うことなく冥界に帰ることができる。王都の人間には死者は丁重に扱えと言って置け」


 そうくぐもった声を発すると、ダーク・リッチの体は煙のように薄れてゆき、最後は何も見えなくなった。

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