エピソード5 死者を操る者
〈エピソード5 死者を操る者〉
俺たちは王都の外にある墓地へと向かっていた。
ギルドのクエストによると、墓地に埋葬されている遺体がいきなり動き出して、すぐ近くの村に住んでいる人たちを襲っているらしい。
要するに、動く遺体というのはゾンビだ。
墓地を管理していた村を襲うゾンビの中にはローブを羽織った魔法使いのような人物がいると言う。
その何らかの悪さをしていると思われる魔法使いを倒すようにとギルドからは言われていた。
「やっと私たちの出番が来ましたね。ゾンビなら私が得意とする神聖魔法で簡単にやっつけられますよ」
馬車の荷台で揺られながら、エリシアは自信を漲らせながら言った。
「私も早く槍を振るいたい。休んでいた分を取り戻すのは、大変だから」
アメイヤも戦う機会を欲しているようだ。
「今回のボスはネクロマンサーらしいな。ゾンビを使って人を襲わせるなんて、一体、何が目的なんだろう」
俺は傾きかけた太陽を見上げながら言った。
「それは会って話を聞いてみないことには分からないと思いますが、たぶん、ろくな理由ではないと思いますよ」
エリシアは淡白な声で言った。
「かもな」
「何にせよ、死者の尊厳を踏みにじるようなことをする人間は許せません」
エリシアは神聖魔法を得意としているからか、その反対の属性の死霊魔法のようなものは毛嫌いしているようだった。
「ああ。ま、ゾンビなんて俺たちの敵じゃない。毒の付いた武器を使ってくる、ゴブリンの方がまだ手強いはずだからな」
死んだ人間が動くのは怖いが、まあ、言ってしまえばそれだけだ。
今の俺たちにとっては、ゾンビなどスライム級の雑魚だろう。
「そうですよ。本当に怖いのは死んでいる人間より、生きている人間です」
「違いない」
「ええ。相手がゾンビでも今までと同じように戦うだけですし、そこにおかしな感傷を持ち込むつもりはありませんよ」
今日のエリシアは本当に気合が入っていた。
「でも、ゾンビに傷つけられた人間はゾンビになってしまうという話もある。それは、ちょっと怖い」
そうボソリと口を挟んだのはアメイヤだ。
「本当か?」
「うん。だから、あまり甘く見ない方が良いかもしれない。少なくとも、私は相手がゾンビでも全力で戦うつもり」
アメイヤの言葉を継ぐように、エリシアが口を開く。
「確かに、そういった話は、私も聞いたことがあります。でも、神聖魔法の治療ができる私なら、ゾンビの毒のようなものも中和できると思いますよ」
神聖魔法なら俺もある程度は使えるし、エリシア一人に負担をかけることもないだろう。
「まあ、ネクロマンサーを倒せばそれで済む話だから、あまり身構えるのは良そう」
足を掬われるような要因は無い。
「その通りよ。ネクロマンサーが倒れれば、ゾンビたちだって動くことはできなくなるわ」
馬車酔いをしていたと言うイブリスがやっと口を開いた。
「でも、大量のゾンビを動かせるほどの力を持つネクロマンサーなら、その力は推して計るべきかもしれません」
ゾンビ自体は取るに足らない雑魚でも、その操り手は侮れないとエリシアは言いたいのだろう。
「大丈夫。私たちの力ならきっと何とかなる」
アメイヤは強い意志の籠ったような声で言った。
「何か根拠はあるのか?」
俺の問いかけにアメイヤはコクリと頷く。
「ならないようなら、ギルドじゃなくて騎士団が動いているはずだから。実際、この手の騒動の時は、大抵、騎士団が動いていた」
アメイヤは的を得た見解を口にした。
「でしょうね。騎士団が動いていないことが、今回のクエストが達成できないものではないことを証明しているわ」
イブリスの言った通り、達成できないような仕事の依頼はされない。
ここがゲームの世界だということは忘れてはならない。
ゲームバランスに反したことは余程のことがない限り、起こらないと言って良いだろう。
「そう思いたいし、事実、レベル・キャップが外れるクエストでもないからな。なら、アメイヤの言う通り、何とかなるだろ」
俺は楽観的に言いながら、荷台に座る俺の隣にいたアメイヤの頭にポンッと手を置いた。
「うん。とにかく、お爺ちゃんのお墓がある墓地じゃなくて良かったし、私もネクロマンサーは許さない」
アメイヤは擽ったそうな顔をしながら言った。
そんな話をしている間も、俺たちを乗せた馬車は墓地の管理をしている村へと確実に近づいて行った。




