エピソード4.5 即売会のお土産
〈エピソード4.5 即売会のお土産〉
夏休みも終盤に差し掛かると、留美は文芸部の部室に来ていた。
「この暑い中、部室に呼び出したりしてゴメンね。だけど、コミマで買ったお土産は早めに留美ちゃんに渡したくてさ」
晴香はアニメのイラストがプリントされた袋から、冊子のような物を何冊も取り出した。
「随分とたくさん買ったんですね」
留美は色鮮やかな同人誌を見て、微苦笑する。
自分もコミマには参加したかったのだが、その日は、お盆休みだった。
なので、色々と家の用事があり、去年と同じように、今年もコミマへの参加は叶わなかった。
それが残念でならない。
「高校生活、最後のコミマだからね。私たちの同人誌の売れ行きも良かったから、思い切って奮発しちゃった。はい、これは留美ちゃんの分だよ」
晴香は十冊以上の同人誌を留美に手渡してきた。
「ありがとうございます」
留美が晴れやかな笑みで言うと、今度は達也が頬をボリボリと掻きながら口を開く。
「本当は食べ物なんかも土産物にしたかったんだけどな。帰りは横浜の中華街にも寄って、旨い物をたくさん食べたし。でも、この暑さじゃ、さすがに食べ物の土産は無理だった」
達也は顔の汗を拭いながら言った。
「いえいえ、あまり気を遣わないでください」
食べ物のお土産まで求めるのは、さすがに心苦しい。
「ま、同人誌は目標通り、完売できたし、これで私も思い残すことはないわ。後は、みんなで記念の回転寿司に行くだけね」
晴香は清々しい笑みを浮かべたが、寂しさを感じた留美は言葉を差し挟む。
「でも、まだ文化祭もありますし、燃え尽き症候群には陥らないようにしましょう」
「その通りね」
晴香は満面の笑みを浮かべながら言った。
これには、ここ最近のことでストレスが積もり積もっていた留美も心が洗われるのを感じる。
「話は変わるが、俺たち東京の大学も見てきたんだ。やっぱり、進学するなら何でもある東京の大学が良いよなって、話にもなったし」
達也は大学のパンフレットを机の上に置いた。
「そうですね。私も公立の大学を目指していますから、必然的に有名な町の大学に通うことになりそうです」
この町に未練のようなものはない。が、ここ最近の出来事が、留美の心にしこりとして残っていた。
「まあ、エスカレーター式に三崎大学に通うって言う選択肢もあるにはあるんだけどな」
達也は渋い顔で言葉を続ける。
「でも、ウチの大学ってかなり落ち目だろ。やっぱり、後悔しないためにも、なるべく良い大学を目指したいよなー」
達也は頭の後ろで手を組むと、そう間延びした声で言った。
「私も同じです」
そう言いつつも、留美は家計の負担にならなければ、どの大学でも良いと思っていた。
なので、今のところ大学を選り好みをする気はない。
「だろう。あと、コミマじゃ、この町に本社を置くクライスター社のブースもあったんだ。新作のゲームのPVとかも流してたし、大きなスクリーンで見たシュウイチの戦いは凄かったな」
「えっ!」
留美はぎょっとしたような顔で声を発していた。
「留美ちゃんも、クライスター社のゲームには興味があるのか?」
「は、はい」
「そうか。コミマで見たPVは動画サイトにもアップされてるから、一度、視聴してみなよ」
達也の言葉に促されるように、留美はスマホを操作する。
そして、動画サイトにアップされた勇者のような男性が化け物たちと戦う映像を見る。
最近になって写真でも確認したから間違いない。
この男性は紛れもなく若き日の修一だ。
「何で修一さんの姿が、ゲームの映像なんかに使われてるの? それに、これは本当にゲームの映像なの?」
そう呟くと、留美は胸の動悸が嵐のように激しくなるのを感じながら、画面に映る修一の顔を見詰めた。




