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エピソード4 不浄の女神

〈エピソード4 不浄の女神〉


 俺たちはオートマッピングを頼りにスラム街を歩いて行く。


 ジャヒーのいる場所にはボス・シンボルのマークが付いている。が、やたら道が入り組んでいて辿り着くのが容易ではない。


 まさに、迷宮と化した地区だ。


「そこの男の子、私と甘い夜を過ごしましょうよ。溜まっている欲望はたっぷりと吐き出させてあげるわよ」


 横手にある寝床には豊満な体つきをした女性がいて、こちらに向かって手招きをしてきた。


 女性は裸に近い恰好で、大きな胸も隠してはいなかった。


「私のところにおいでよ。今日の私は大丈夫な日だし、何にも心配しないで、思いっきり楽しんで良いんだよ?」


 幼さを感じさせる少女が艶めかしポーズを取りながら言った。


 少女からは甘ったるい匂いが漂ってくる。


「我慢してないで、アタシと気持ち良くなろうよ。アタシが与えてあげる快感は、一度味わったら忘れられないよ?」


 十八歳くらいの女の子が自分の体をくねられながら言ったし、彼女の下半身は丸見えの状態だった。


 これには俺も興奮するというよりは、げんなりしてしまう。


「モテモテじゃないの。アタシのことは気にせずに、彼女たちと楽しい一時を過ごしてきたら?」


 イブリスは本気なのか、冗談なのか、判断が付かない声色で言った。


「冗談じゃない。ここにいる哀れな女性たちのためにも、俺は必ずジャヒーを何とかするぞ」


 俺はそう言い張ると、決意を固くしてオリハルコンの剣の柄に手を置いた。


「哀れねぇ。いかにも潔癖な日本人らしい言い草ね。彼女たちを憐れむ資格は、この世界の住人ではないあんたにはないわ」


「そうかい。でも、こんなソドムとゴモラのような都市は焼き払った方が良いと、俺の信じている神なら言うだろうな」


「かもしれないわね」


 イブリスは小憎たらしい顔を形作ると言葉を続ける。


「聖書の神は自分の目的のためなら女性や子供も容赦なく殺すし、果てには、一つの民族を絶滅させるまで戦え、って言うくらいだから」


「なかなか痛いところを突くな」


「でも、本当のことでしょ?」


「まあ、お前の言う通りだよ。でも、そんな神を何十億もの人々が信じてるんだ。俺も長いものには巻かれるさ」


 俺はやさぐれたように言って肩を竦めた。


 とにかく、雑談はこれくらいにして置こう。


 ジャヒーの住処に辿り着いたからな。


 俺たちは神殿というよりは、寺院に近い雰囲気を持つ建物の前にまで来る。


 ここにあるのは、かつて異教の神を奉っていた建物だと聞いている。


 いかにも、いかがわしい女神が住み着きそうな建物だ。


 そんな建物の中に俺は足を踏み入れる。


「あらあら、可愛い男の子のお客さんだこと。女の子と遊びたければ、違う場所に行くことをお勧めしますよ」


 打ち捨てられた感じの建物の中には、踊り子のような露出度の高い服を身に着けた女性がいた。


 妙齢の女性は男を魅了するような美しい顔立ちをしている。体つきも肉感的で、色っぽさがある。


 普通の男だったら、たちまち骨抜きにされそうな外見だ。


 そんな女性が罰当たりにも祭壇の上に腰を落ち着かせている。


「そうじゃない、お前に用があるんだ」


 俺は頑とした態度で応じる。


「私に相手をしてもらいたいのですか? これはお目が高いですこと」


 女性は優雅な仕草で唇に指を添えた。


「違う。お前は魔界から、やって来たんだろ。なら、いかがわしい商売の神なんてやってないで魔界に帰れ、って言ってるんだよ、ジャヒー」


 俺は叩きつけるように言った。


「そういうことですか」


 女性は一拍置いて、言葉を続ける。


「まあ、あなたのような綺麗な目をしている人間には、汚い欲望を司る私は悪魔に見えてしまうんでしょうね」


 女性は憤怒の表情を浮かべながら宣戦布告の言葉を言い放つ。


「なら、力づくで、何とかして見せなさい。私はサキュバスのカーリーと違って、逃げる気は毛頭、ありませんよ!」


 そう叫ぶと、女性、いや、ジャヒーは俺に青色の炎の球を投げつけてきた。


 俺はその炎の球をウォーター・ボールで相殺する。それから、お返しとばかりジャヒーの体にサンダー・ボルトの魔法をお見舞いした。


 ジャヒーは体から白煙を上げながらも、その顔に苦痛の色は無く、連続で炎の球を放って来る。


 その全てを俺はウォーター・ボールで迎え撃った。


「少しは魔法が使えるようですね。この建物が燃えてしまわないように気を配るだけの余裕があるとは」


 ジャヒーは微塵の恐れも感じていないような笑みを浮かべて言った。


「こんなところで火事が起きたら、辺りの建物に飛び火して、大惨事になりかねないからな。カーリーの時と同じ轍を踏むつもりはない」


 俺は轟然と言った。


「それは、良い心がけです」


 ジャヒーが艶やかな笑みを浮かべる。


 それから、俺とジャヒーの魔法の応酬合戦が始まる。


 俺は邪悪な属性を持つ敵に効果があるホーリー・ボールの魔法を放つ。


 ホーリー・ボールは汚れなき白い光を放っていた。


 対するジャヒーは青白くてスパークする光の球を放ってくる。


 ホーリー・ボールよりも攻撃的に見える光の球だ。


 そして、互いに放つ光の球は空中で何度も激突する。


 その度に、目も眩むような光が盛大に撒き散らされる。建物の中にあった木の椅子も吹き飛ばされた。


 そんな俺とジャヒーが放つ魔法の威力は拮抗していた。


 いや、ジャヒーの方が、明らかに余裕がある。


 ジャヒーのレベルは三十七で俺よりも下だ。が、魔法を扱う力に限って言えば、俺よりも上を行っているようだ。


「見事です。この私とここまで魔法の力で渡り合って見せるとは。たかが人間だと思って、少々、侮り過ぎましたよ」


 ジャヒーの賛辞には応じず、俺は魔法を放ち続ける。


 空中で大きなエネルギーの光が何度も迸り、建物の壁や床がミシミシと軋んだ。


 このままでは、建物が崩れかねない。


 そして、魔法を使った戦いが長引くと、俺の魔力は次第に枯渇し始める。


 が、ジャヒーにはその気配がない。


「どうやら、魔力の量で差が付き始めてきたようですね。所詮、あなたの魔力は人間の域を出ないということです」


 やはり、魔法での戦いは、あちらの方に分があるか。


 アナライズで確認したジャヒーのマジック・ポイントは無限になっているし。


 対する俺も魔力の量には自信があったが、さすがに無限ではない。


 とにかく、接近戦に持ち込まなければ俺に勝ち目はない。


 そう悟った俺はアクア・ジャベリンを体の周りに展開しながら疾駆する。


「お前の土俵で戦うのはもう止めだ。ここからは俺の領分に持ち込ませてもらうぞ」


 そう言うと、俺は鞘からオリハルコンの剣を引き抜く。それから、飛んで来るスパークする光の球を水の槍で打ち落とし、ジャヒーへと肉薄する。


 接近戦は避けて通りたいのか、ジャヒーの顔にも焦りのようなものが見え隠れする。


「剣を使った戦いなら自信があると言うわけですか。なら、近づけさせません!」


 そう言うと、ジャヒーは俺の接近を許すまいと、何倍にも大きさを増した特大の光の球を作り出す。


 光の球は今まで以上に激しくスパークしていた。


 そんな光の球が空中に六つも出現している。


 あれを一斉に放たれたら、マズイ。


「もう避けることはできませんよ! 神に戦いを挑んだ愚かさを後悔しながら、粉々に砕け散りなさい!」


 その言葉と同時に、光の球が殺到するように俺の体へと迫る。


 それを受け、俺は自分の体にマジック・シールドの魔法をかける。体の周囲が光の壁に包みこまれた。


 そのまま俺はマジック・シールドの力を信じて、光りの球に真正面からぶつかる。それから、壮絶なエネルギーの渦の中を一点突破で駆け抜ける。


 そして、無防備になっているジャヒーの前に躍り出た。


 これには、ジャヒーも驚愕の表情を浮かべる。


「ここまでだ、ジャヒー。人間の力を甘く見すぎたな」


 俺はジャヒーの喉元にオリハルコンの剣の切っ先を突きつける。首筋に触れている剣の刃がジャヒーの皮膚に食い込むと、血の糸が垂れ始めた。


 これにはジャヒーも引き攣った顔をする。


「確かに、あのカーリーが逃げ出すだけのことはありましたね。さすがの力です」


 ジャヒーは光らせていた掌をダランと下ろすと、観念したように口を開く


「参りました。私の完敗ですよ」


 ジャヒーは太々しい笑みを浮かべながら言った。

 

「死にたくなければ魔界に帰れ。今度、その顔を見せたら容赦なく首を跳ね飛ばすぞ!」


 俺が少しオーバーに脅し付けると、それを真に受けたのか、ジャヒーは血の気が引いたような顔をしながら首を何度も縦に振った。

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