エピソード2 カジノへの潜入
〈エピソード2 カジノへの潜入〉
「ここがジョセフさんがくれた紙に書いてあったホテル・カジノか。随分と立派な建物だし、ちょっと緊張するな」
俺はビルのように高く聳え建っているホテルを見ながら言った。
ジョセフさんの情報が確かなら、このホテルにオズワルドは居る。
が、ホテルのどこに居るかまでは分からない。
ちなみに、カジノには十八歳未満の子供は入れないので、エリシアとアメイヤは宿に置いてきた。
「ただオーナーに会いたいって言っても、無理でしょうね。なら、オーナーのところに連れて行ってもらえば良いのよ」
イブリスは強気の姿勢を崩さず、言葉を続ける。
「そのためには、このカジノ側に大損をさせる必要がある。ようやく、使い道のない大金を生かせる機会が来たわね」
「お前、本当にカジノ側に大損をさせられるほどのゲーム・テクニックを持っているんだろうな?」
「安心しなさい。ブラックジャックの腕なら誰にも負けないわよ。アタシはゲームで使われる二百八枚のカードを全て憶えることができるからね」
「まあ、俺は素人だし、ゲームについてはお前に全部任せるよ」
俺は正直、ギャンブルのゲームが好きじゃない。
テレビゲームのRPGとかにあるカジノも嫌いで、ほとんど手を付けなかったし。
だから、最強の武器をカジノの景品にするのは止めてくれと、声を大にして言いたかった。
俺たちはホテルの中に足を踏み入れると、マップを見ながらカジノ・ルームを目指す。
そして、黒服の男が入り口に立っている広いフロアへとやって来た。
「これがカジノか。やっぱり、本物は迫力が違うな。映画に出てきたラスベガスのカジノなんかを彷彿とさせるよ」
そう言うと、俺は紳士、淑女のような服を着た客たちで賑わうカジノ・ルームを横切る。
カジノ・ルームは煌びやかな光で溢れていて、軽やかなチップの音が絶えなかった。
本来なら異世界にポーカーやブラックジャック、ルーレットなんかのゲームがあること自体がおかしいのだが、ここは仮想世界だ。
現実の世界にあるゲームを遊べても何ら不思議なことではない。
「よお、坊主。妖精の姉ちゃんなんて連れて、カジノで火遊びか?」
ブラックジャックの台に来ると、ディーラーの男から、からかうような声をかけられた。
この台には客が一人もいない。
他の台は客で溢れ返っていると言うのに。
なので、俺も不審がるように眉根を寄せた。
「随分と暇を持て余しているようじゃない。これから、アタシと一勝負してもらえないかしら?」
イブリスは挑戦的に言って笑う。
それを受け、ディーラーの男はイブリスを小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「俺の台に客が寄り付かないのは、俺が強すぎるディーラーとして怖れられているからだ。妖精ごときがブラックジャックを舐めるなよ」
ディーラーの男はそう啖呵を切った。
「なら、楽しませてもらうわよ」
イブリスも受けて立つように言った。
こうして、目が飛び出るほどの大金を賭けたブラックジャックのゲームが始まる。
ちなみに、このゲームは何枚かカードをもらい、二十一に近い数字を作った奴の勝ちというシンプルなルールだ。
だが、イブリスが言うには、これほど奥深くて、綿密な駆け引きが要求されるゲームもないらしい。
では、自信たっぷりのイブリスの腕前を拝見させてもらうとするかな。
「ここまではアタシの完勝ね」
イブリスは問答無用の勝ちとなるブラックジャックを完成させて笑った。
「ば、馬鹿な。どうしてこんなにも、お前の勝率が高いんだ。運の要素だって絡むはずだろ? 何かイカサマでもしているのか?」
ディーラーは青い顔で言った。
「失礼ね。アタシは単にブラックジャックで使われる四組、二百八枚のカードを全部記憶しているだけよ」
一度でも使われたカードは、捨てられていく。
ゲームの回数が増えるほど、どんなカードが残っているか分かり易くなるのだ。
だから、使われたカードを憶えていられるプレイヤーほど有利になる。
事実、ゲームが進んでいくほど、イブリスの勝率は必然的に上がっていった。
「記憶術というやつか。クソッ、抜かったわ!」
ディーラーは苦々しい顔で吐き捨てた。
「さあ、これがラストゲームよ。アタシは今までに儲けたお金を全部、賭けるわ。十五億ルビスのビッグゲームよ」
「クッ!」
ディーラーの顔に隠しきれない恐れの色が見え隠れする。
どうやら、イブリスの方が役者が上だったみたいだな。
この調子じゃ、既に勝負は見えているといったところだ。
「まさか逃げるつもりじゃないわよね、強すぎるディーラーさん?」
イブリスは可愛らしくウインクして余裕の笑みを浮かべた。
そして、ラストゲームが始まる。
ディーラーも震える手でカードを配った。
その結果、イブリスは十五億ルビスのビッグゲームもモノにする。
「おおっ、妖精の姉ちゃんが三十億ルビスも儲けたぞ! しかも、あのカジノ一の強者のデップを相手に!」
いつの間にか俺たちのいる台には、たくさんのギャラリーが集まっていた。
彼らはみんなイブリスのことを感心した顔で見ている。
俺も顔色一つ変えずに、最後まで勝ち切ったイブリスには賞賛の念を禁じ得なかった。
「さて、大儲けをしたことだし、そろそろ帰りましょうか」
イブリスがそう言ったので、俺は台の上にある大量のチップを抱えた。
「そこの君たち、私はこのカジノの支配人だ。オーナーが君たちに会いたがっているので、付いてきてもらおうか」
支配人を名乗る黒服の男が俺たちに向かって、そう言った。
俺は魚が網にかかったと思い、心の中でほくそ笑みながら支配人の男の後をついていく。
そして、一際、立派なオーナー室に通された。
そこにはオールバックの髪形をした壮年の男がいた。
男は見るからに悪者と言った風体をしている。
「俺の店にここまでの損害を与えたのはお前たちが初めてだ。だが、ゲームをやっていたのは人間ではなく妖精だ。こいつは、ちょいとばかりルール違反じゃないのか?」
オーナーの男はいちゃもんを付けるように言った。
「妖精がゲームをやっちゃいけないなんて言うルールがあったかしら。現にディーラーはアタシの勝負をすんなりと受けてくれたわよ」
イブリスは恐れる風でもなく剛毅に笑った。
「だが、やはり、人間ではない者がゲームをやるのは頂けない。どんな術や魔法を使ってイカサマをするか分からんからな」
「かもしれないわね。ひょっとして、あなたが裏カジノの帝王オズワルドなの?」
イブリスの問いかけに、男はニヤリと邪な笑みを浮かべた。
「その通りだ。で、それが分かったところでどうする。警備官にでも泣きつくか?」
その言葉に呼応するように、オーナー室の出口を黒服の男たちが塞いだ。
「アタシたちの真の目的はあんたを捕まえることよ。自分からノコノコ現れてくれて手間が省けたわ」
俺たちの目論見通りに事が運んだことには笑うしかない。
「貴様らはギルドの刺客か! おい、お前たち。この二人を袋叩きにしてしまえ!」
男、オズワルドがそう言うと、入り口の扉からたくさんの黒服の男たちが現れ、俺とイブリスを取り囲んだ。
が、俺は殴り掛かって来る何人もの男たちを素手で打ち倒す。
戦士ではないカジノの黒服ごときでは、まるで手応えを感じない。
金があるなら、腕の立つ用心棒の一人や二人は雇っておくべきだったな。
「ここまでね」
イブリスが蠱惑的に笑った時には、黒服の男たちは全員、俺に叩きのめされていた。
アイテム欄を開いて剣を出すまでもなかったな。
一方、オズワルドは椅子に座ったまま青い顔をしている。
戦おうともしないその姿勢からは、何とも言えない小物ぶりが感じられる。
裏カジノの帝王なんていう呼称も、ただのハッタリでしかなかったようだな。
「クソッ、こんな子供に捕まえられるとは、この俺もヤキが回ったか……」
オズワルドは悔しげに唸ると、それ以上、抵抗する様子は見せずにガックリと肩を落とした。




