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エピソード1 歓楽街のカジノ

〈エピソード1 歓楽街のカジノ〉


 俺たちはギルドの直接の依頼を受けて、歓楽街にある違法なカジノの摘発に乗り出すことになった。


 が、今はまだ朝なので、俺はイブリスと軽食を摘まみながら食堂で話をしていた。


「面倒な内容のクエストね。剣を振るって誰かを倒せば、それで済むって類のクエストじゃないし」


 イブリスは嘆息混じりに言うと、小さめのブドウに噛り付いた。


「しかも、レベルキャップの外れるクエストでもないぞ。正直、お金や経験値には困ってないし、あまりやり甲斐を感じないな」


 俺は物憂げな顔で軽食のフライドポテトを咀嚼する。


 いつもは美味しいポテトも、この時ばかりは、味も素っ気もなく感じられた。


「そう言わないの。レベルを上げる以外にも有益なデータを提供するって言う目的はあるんだし。なら、どんなクエストでも手は抜けないわ」


「分かってるよ。戦っているデータだけが、有益なデータじゃないってことだろ?」


「そういうことよ」


 イブリスが窘めるように言うと、俺は何とはなし天井を見上げる。


 正直、今までとは勝手が違うクエストを前にして、考えあぐねていたのだ。


「さて、どうしたものか。違法なカジノって言っても、歓楽街にはカジノや賭博場は腐るほどあるからな」


 俺は面倒臭さのようなものを強く感じながら言葉を続ける。


「普通のカジノと違法なカジノの見分けなんて付かないぞ」


「その通りだし、ここは情報が欲しいところだわ」


 イブリスがそう言うと、いつの間にか俺たちのいるテーブルの傍に見覚えのある男が立っていた。


 まるで、瞬間移動でもしたかのように。


 これには、俺も口に運んでいたフライドポテトをポロリと落としてしまう。


「そういうことなら、俺の出番だな。裏の世界の情報ならたんまりと持っているぞ」


 男は目深に被っていた帽子を取って、ニヤリと笑った。


 その笑みを見て、俺はあっけらかんとした声を上げる。


「あんたはジョセフ・フォスターさんじゃないか」


 ジョセフさんにはスラム街に行った時にお世話になったし、その顔は忘れてはいない。


 にしても、俺たちに気付かれることなく、ここまで近づくことができるなんて。


 この人は情報屋より盗賊や暗殺者の方が向いているような気がする。


「ああ。今回もギルドからあんたたちをバックアップするように言われていてな。それでここまで来た」


「よく俺たちがこの宿を拠点にしていることが分かったな」


「おいおい、その程度の情報が掴めないようじゃ、ギルドに雇われる情報屋になんてなれやしないぞ」


 ジョセフさんはおどけたように言った。


「それもそうだな。じゃあ、違法なカジノはどこら辺が違法なのか教えてくれないか?」


 それが分からないことには話は始まらない。


「まずは税金だ。カジノは利益の四十パーセントを税として国に収めなきゃならない。だから、利益を少なく申告して税を減らそうとするカジノが後を絶たないんだよ」


「その手の話はどこにでもあるな」


 税金逃れを撲滅することの難しさは、俺も理解しているつもりだ。


「ああ。他にも法律で定められている規準よりも高いレートでゲームをやっている店もある。それも、よく見かける違法カジノの一つだ」


「なるほど」


「ただ、レートの基準は国の審査を受ければ上げられるし、違法でなくてもとんでもない大金を賭けられるカジノもあるから、そこら辺はややこしいな」


「税金逃れやレート違反のカジノを摘発すれば良いのか?」


 でも、そういうのはこの世界では警察官に当たる警備官の仕事だと思う。


 腕っ節だけでなく、法律の知識のようなものも問われることになりそうだし。


 まあ、その警備官が何とかしてくれないから、ギルドのクエストとして俺たちに回って来たんだろうが。


「ああ。だが、違法な裏カジノは、どれも小粒の店ばかりだ。その手の店を幾ら潰しても裏カジノは無くならない」


「じゃあ、どうすれば良いんだよ」


 俺は剣を振るうしか能がないし、警察官の真似事はできないぞ。


「歓楽街、一帯の裏カジノを取り仕切っているのはオズワルドと言う男だ。奴は裏カジノの帝王などとも呼ばれているらしいな」


 それはまた大袈裟な呼称だなと思いながら、俺はジョセフさんの説明を聞く。


「だが、奴は常に身を隠していて、表の世界には顔を出さない。だから、何とかして奴を見つける必要がある」


 帝王と言う割には、コソコソしているんだな。


 でも、そういう奴の方が得てして厄介だったりするし、今回のクエストでは俺の持っている剣の力は通用しないかもしれない。


 狡賢な悪人に対し、どれだけ上手く立ち回れるかが求められている気がするな。


 ジョセフさんは俺の心の内を読んだのかニヤッと笑って説明を続ける。


「噂じゃ、オズワルドは真っ当なホテル・カジノのオーナーを務めているとも言われている。そこに行って、何らかの攻勢を仕掛ければ、奴に会えるかもしれないな」


 そう仄めかすように言うと、ジョセフさんはテーブルの上にあったデザートのチェリーを口に放り込む。

 それから、俺たちの前に一枚の紙きれを置いた。


 この紙には何が書かれているんだろう?


 紙の内容を確かめる前に、ジョセフさんは口に入れたチェリーを飲み込むと、用は済んだとばかりに、悠々と去って行った。

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