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エピソード4 Sランクの冒険者

〈エピソード4 Sランクの冒険者〉


 俺は冒険者ランクをSに上げるためにギルドに来ていた。


 Aランクまではギルド・ポイントを貯めていけば自動的に昇格することができた。


 が、冒険者ランクにもキャップが存在する。


 なので、幾らギルド・ポイントを貯めても、キャップを超えたランクになることはできない。


 そのキャップを外す条件の一つが、レベルが四十以上になっていることだ。


 その状態でギルドの審査を受ければ、Sランクの冒険者になれるというのがイブリスの話だった。


「カツラギ・シュウイチさんですね。Sランクの冒険者に昇格するための審査は既に済んでいます」


 ギルドの受付嬢、チェルシーさんはいつものように朗らかに笑っていた。


 彼女の笑顔は、俺にとってはちょっとした癒しになっている。


 やっぱり、自分と年の差が離れ過ぎているエリシアやアメイヤには女性としての部分を求めることはできないからな。


「じゃあ」


 俺は少しだけ受付カウンターに身を乗り出す。その際、チェルシーさんの表情が珍しく曇った。


「誠に残念ではありますが、今のシュウイチさんではSランクの冒険者にはなれません」


 チェルシーさんの言葉に俺は高校受験に失敗した時のようなショックを受けた。


「理由を聞いてもよろしいでしょうか」


 審査はパスできて当然だと楽観していたので、この結果に俺の声も震えた。


「はい。一番のポイントは、シュウイチさんが審査基準を満たすだけの魔法を使うことができないことです」


「魔法ですか?」


 書類審査だったので、俺も使える魔法は嘘偽りなく、しっかりと紙に書き込んでおいた。


 ちなみに、ギルドの職員は【心眼】という特殊なスキルを持っている。


 なので、嘘は通じないし、こちらが騙すような真似をすれば強烈なペナルティーが待っている。


「そうです。昔はそれほど魔法に高い基準は設けていなかったのですが、近年では魔法の重要性が見直されました」


 チェルシーさんはスラスラと説明を続ける。


「結果、当ギルドの魔法に対する審査基準も跳ね上がっているのです」


 魔法という要素は盲点だったな。


 事実、俺は魔法に強い憧れを抱いていたものの、魔法の習得にはまるで気を回していなかったし。


 でも、それがこんな形で問題になるなんて。


「では、魔法が使えるようになればSランクの冒険者に昇格できるんですね?」


 俺だってファンタジーの世界に来たのだから、魔法を使いたいという強い思いはある。


 実際、ゲートなどの初期魔法は普通に使っていたし。


 でも、ファイアー・ボールなどの攻撃魔法は特に使う必要性がなかった。


 なので、完全に魔法の習得というものを疎かにしてしまっていた。


「ええ。ただ、自力で魔法を覚えるよりは、この王都にあるグランベール魔法学院で魔法を学んだ方が確実だと思います」


「それはちょっと」


 学校に通うのだけは勘弁してほしい。


 ホント、学校には良い思い出がないから。


「なら、どうにかして魔法を覚えて、Bランク以上の魔法使いの《称号》を得てください」


「Bランクの魔法使いの称号を得られれば、この問題は解決するというわけですか」


「ええ。Bランクの魔法使いの称号があれば、間違いなく、Sランクの冒険者の審査も通ります」


 そういう話であれば分かり易いな。


「ちなみに、魔法学院では称号を得るテストが週に一度、行われています」


「テスト、ですか?」


「そうです。自力で魔法を憶えた方が、称号を得たくて学院のテストだけを受けるというケースも多々あります」


 チェルシーさんは明瞭な説明をした後、更に口を開く。


「なので、魔法使いの称号を得るための門戸は誰にでも開かれていると言えるでしょう」


「へー」


 誰でも魔法使いの称号を得られると言うのは夢があって良いな。


「これを期にシュウイチさんも魔法の習得に励んでみてはいかがでしょうか? 冒険者を続けていくなら、必ず魔法の力が必要になる時が来ますよ」


 チェルシーさんの言う通りだな。


 確かに魔法を学ぶにはまたとない機会かもしれない。


 チェルシーさんが示唆した通り、これから先、魔法の力がなければ乗り越えられない困難に直面することもあり得るし。


「分かりました。そういうことであれば、出直してきます」


 俺が苦い顔をして受付カウンターから離れると、エリシアが横合いから声をかけてきた。


「大丈夫ですよ、シュウイチさん」


 エリシアは元気づけるような声で言葉を続ける。


「さしたる才能のない私だって三年間、魔法学院でみっちり学んだら、Bランクの魔法使いになれましたから」


 エリシアは希望を持たせたくて言ったのだろうが、俺はその言葉を聞いて絶望感すら覚えた。


「三年間も学んでいる時間は無いんだ」


「そうですか」


 俺の語気が荒かったせいか、エリシアはシュンとした顔で項垂れてしまう。


「私はお爺ちゃんに魔法を教えてもらった。ファイアー・ボールを使えるようになるのに半年はかかったけど」


 アメイヤの言葉を聞いて、俺は更に奈落の底に突き落とされたような気分になる。


「半年って言うのはマジか?」


「うん、マジ」


 アメイヤは真剣な顔でコクリと頷いた。


 これには俺もがっくりと肩を落としてしまう。


 今まで順調に事が運んでいたのに、ここに来てそれが暗礁に乗り上げてしまった。


「こらこら二人とも、シュウイチを落胆させるんじゃないの。それとシュウイチ」


 イブリスは真顔で言い募る。


「あんたは忘れているようだけど、ここはゲームの世界なのよ」


「だから?」


「魔法を憶えるのに、本当に三年間も魔法学院で学ぶわけがないじゃないの」


「それもそうか」


「ええ。もし、そんな仕様になっていたら、プレイヤーからのクレームが殺到するに決まっているわ」


 イブリスのその言葉には、俺も希望の光を感じ取ることができた。


 でも、言われてみれば、もっともな指摘だった。


 俺もここがゲームの世界だということを忘れずに、もっと頭を働かせないとな。


「だよな。俺もそのことをすっかり失念していたよ。なら、魔法も簡単に使えるようになりそうだな」


「車の免許と似たようなものだし、一週間も学院に通えば魔法使いにはなれるわ」


 そう言ったイブリスだが、すぐに首を振って口を開く。


「でも、チート・スキルを持つシュウイチのことだから、学院に通うのは三日で済むかもしれないわね」


「まあ、原付バイクの免許なら、一日で取れるからな」


 正直、一週間でも長すぎるくらいだし、今はイブリスの三日で何とかなるという言葉を信じよう。


「そういうことよ。あんまりややこしいことは考えないで、気楽に臨めば良いのよ」


 イブリスは首を竦めながら言葉を続ける。


「ゲームの世界に来てまでプレイヤーに小難しい勉強をやらせるほど、開発者も馬鹿じゃないわ」


 その言葉を聞いて、ようやく俺は心の底から安堵することができた。


「分かった。そう言うことなら、善は急げとも言うし、これからグランベール魔法学院とやらに行ってみようじゃないか」


 そうだ、ここはゲームの世界なんだから、魔法の習得も楽しめば良いんだ。


 一昔前のゲームならともかく、現在のゲームの開発者はプレイヤーに苦痛やストレスを与えることをよしとはしない。


 であれば、きっと魔法の習得も面白いものになっているに違いない。


 これぞ、親切設計というものだ。

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