エピソード2 冒険者ランクとレベルキャップの関係
〈エピソード2 冒険者ランクとレベルキャップの関係〉
俺はいつもと変わらぬ熱気に包まれたギルドの掲示板の前に来ていた。
「今日もたくさんの冒険者たちで賑わってるな。不況知らずとは、このギルドのことを言うのかもしれない」
俺はギルドの広間に充満する空気を吸い込みながら言った。
「もっとも、ギルドが盛況だってことは、この世界には解決しなきゃならない問題がたくさんあるってことだが」
そんなことをぼやきながら掲示板の前に立つと、俺はじっくりと張り紙を見ていく。
イブリスが言うに、ギルドのクエストで四十より上のレベルキャップを外したければ、Sランクのクエストを受ける必要があるらしい。
更に上のキャップを外すには、SSランクのクエストを受けなければならない。
そして、全てのレベルキャップを開放するには、《殿堂入り》の冒険者だけに紹介されるクエストを受けければならないらしい。
「つまり、レベルキャップを外したければ、冒険者ランクも上げていかなければならないと言うことか」
掲示板で紹介されているクエストや、ギルドから直接、依頼されるクエストはAランク止まりだからな。
それより、上のクエストを受けるには、やはり、Sランクの冒険者にならなければならない。
が、Sランクの冒険者になるためには審査があるし、その審査を通るために必要となるレベルもまだ不足している。
「まあ、上を見ればキリがないからな」
俺は掲示板に目を馳せながら言葉を続ける。
「しつこいようだが、今は焦ることなく慎重にクエストをこなしていくしかない。変に急いで、請け負ったクエストを失敗したりしたら、目も当てられないし」
もちろん、ギルドのクエストではないイベントでも、レベルキャップを外すことはできる。
が、そのイベントを発生させるのは、相当な困難が付きまとうようなのだ。
「闘技場のトーナメントみたいな、分かり易いイベントばかりじゃないだろうからな」
ちなみに、発生させることができたイベントは、メニュー表のイベント・ノートに記録されている。
それを見れば、イベントの進め方なんかも分かり易くなる。
その上、ノートにはレベルキャップが外れるイベントなのかどうかも、しっかりと記載されているのだ。
「何にせよ、手探りでイベントを見つけようとするよりは、ギルドのクエストをこなす方が早道には違いない」
ドラゴンを倒したければ五十以上のレベルは必須。
チート・スキルの恩恵があるとはいえ、本当にテスト期間が終わるまでにドラゴンを打ち倒せるだけのレベルを確保できるだろうか。
そんなことをつらつらと考えていると、イブリスがやって来る。
「このクエストはレベルキャップが外れるやつだわ。シュウイチの目にもレベルキャップのマークが映っているでしょ?」
イブリスが掲示板に貼られている紙を指さした。
「ああ。最初は何のマークか分からなかったけど、こうして可視化してくれると助かるな」
本来なら、レベルキャップはもっと低レベルの時からあるようになっていたらしい。
が、今はテスト段階なので、レベルキャップの実装は三十レベルからになっている。
だから、レベルが三十に達していなかった今まではマークも見えなかった。
エリシアがトーナメントに出たいと言わなければ、レベルキャップが外れるクエストの方を先にこなしていたかもしれないな。
「そこは親切設計だからね。テストプレイじゃなければ、このマークは廃止されるかもしれないわ」
「そうだよな。こんなマークが付いていたら、他のクエストには見向きもしなくなるだろうからな」
俺はもどかしさを感じつつ口を開く。
「そうなるとゲームそのものがつまらなくなる」
「それはあるわね。どんなクエストにも価値を持たせられるようでないと、ギルドの魅力も半減よ」
「だろうな」
幾ら仮想世界のゲームでも、度が過ぎた親切設計は興醒めに繋がりかねない。
正式な製品としてリリースされたら、どこがどう変わっているのかは比べたいところだな。
「ま、チート・スキルがなかったら、あんただってもっとチマチマと冒険者をやっていたはずだし、親切設計には感謝しなさい」
「分かってるし、チート・スキルには頭が下がるばかりだ」
「でしょうね」
「ああ。とにかく、現実の世界の俺の体だって、いつまでも機械に繋がれているわけにはいかないだろうし、悔いのない行動を心掛けよう」
一番大切なのは現実の世界にある俺の体だ。
体は動かさなければ衰えていく。
現実の世界の体をロボットにでもしない限り、永遠にこの世界にいることはできない。
「シュウイチさん、次に受けるクエストは決まりましたか?」
手分けして掲示板を見ていたエリシアが近寄って来た
「打ち捨てられた砦に住み着いているモンスターを退治するクエストを受けようと思う」
人間と違って、モンスターを殺すことにはあまり抵抗がない。
憎たらしいゴブリンたちが出てきたら一網打尽にしてやろう。
きっと爽快なはずだ。
「普通のモンスターなら、そこまで脅威ではありませんが、凶悪なことで知られるミノタウロスもいることには注意が必要ですね」
ファンタジーの世界ならミノタウロスは鉄板とも言える存在だ。
ミノタウロスが弱いということは、まずないだろう。
とはいえ、ミノタウロスに手を焼いているようではドラゴンを倒すことなど夢のまた夢だ。
「大丈夫、私やシュウイチお兄ちゃんなら、ミノタウロスだって簡単に倒せる」
そう自信たっぷりに言ったのは、いつの間にか俺の横に立っていたアメイヤだ。
「そうかしら? レベルキャップを外せるイベント上、ミノタウロスのレベルは三十以上あるかもしれないのよ。甘く見たら、きっと痛い目に遇うわ」
そう懸念を差し挟むよう言ったのはイブリスだ。
「レベルなんて知らない」
モンスターのレベルを確認できるのは、ナビ役のイブリスとアナライズを使える俺くらいだろう。
ただ、本来ならレベルなんて概念が数値化されていることがおかしいのだ。
何でもかんでも数値で把握しようとすると、思わぬ落とし穴にはまるかもしれない。
「あんたはそうでしょうね。ったく、この世界の人間にレベルという概念がないのは、もどかしい限りだわ」
「イブリスのお姉ちゃんの言うことは、分からないことばかり。でも、私はいつも通りに戦うだけだし、余計なことを考えたりはしない」
「それができるなら良いのよ。アタシもあんたの活躍には期待してるんだからね」
「うん」
アメイヤは不動の心を見せるように頷いた。
「とにかく、レベルキャップを外し、冒険者ランクをSにするためにも、このクエストには本気で挑むわよ」
イブリスが息を巻くように言うと、俺たちは馬車に乗って砦へと向かった。




