エピソード3.5 痕跡
〈エピソード3.5 痕跡〉
夏祭りの日になると留美は弟と妹の手を引きながら、三崎市の中心部を歩いていた。
道路には屋台がズラリと並んでいて、大勢の人で賑わっていた。
色々と物騒な事件が起きたようだが、祭りの賑わいには全く影響していないようだった。
「いっぱい人がいるね! 花火も凄く大きいよ!」
留美の弟の勇人がはしゃぎながら留美の浴衣の袖を引っ張った。
「お姉ちゃん、私、かき氷が食べたいな! 味はブルーハワイが良い!」
留美の妹の佳代が行列ができているかき氷屋を指さす。
「分かったわよ。買ってあげるからお姉ちゃんの浴衣を強く引っ張らないで。この浴衣はお母さんから借りた良い物なんだから」
留美は勇人と佳代に振り回されながらお祭りを見て回った。
そして、留美が繁華街にやって来ると、そこには祭りの賑わいとは違った感じで人が集まっていた。
留美が気になって集まっている人の前に行くと、そこには警察官が何人も立っていて、かなり物々しかった。
「どうかしたんですか?」
留美が野次馬のような男性に尋ねる。すると、男性は頭を掻きながら笑う。
「この居酒屋の店主が、店の裏口に化け物が出たって喚きながら包丁を振り回してんだよ」
男性は事もなげに言ったが、留美は引っかかるものを感じる。
「化け物ですか?」
男性の口にした化け物という言葉に、留美は薄ら寒いものを感じる。
化け物を見たと言う話は、バイト先でもちらほらと聞いていたからだ。
普通だったら一笑に付すところだが、最近のこの町の動向を見ていると、笑って済ませることもできない。
「ああ。店主も誰かに襲われたのか怪我をしていてね。でも、化け物なんてどこにもいなかったよ」
男性は呆れ顔で言葉を続ける。
「大方、酒で酔っていたんだろうな」
居酒屋の近くには血痕も付いていた。
それもかなりの量だし、酔って包丁を振り回すだけでこんなに血が出るだろうか。
「でも、店主さんが誰かに傷つけられたのは間違いないんですよね」
そこが重要なのだ。
「ああ。幾ら酔っていても、自分の腹を自分で切り裂くわけがないからな。だから、酔っぱらいながら誰かに絡んで怪我をさせられた可能性はある」
男性は推測混じりに言って、口を開く。
「もっとも、店主に怪我をさせた相手は、まだ見つかってないみたいだが」
「そうですか。それで、こんなにたくさんの警察官が待機しているんですね」
この数の警察官がいるのは、男性が言ったことだけが理由だとは思えなかった。
やはり、今回の事件も、テレビのニュースなどで報道されることはないのだろうか。
「とにかく、店主は病院に連れて行かれたよ。ったく、俺も花火を見終わったら、この店で一杯やるつもりだったんだけどなぁー」
男性はやれやれと首を振りながら、警察官が待機している居酒屋から離れていった。




