エピソード2.5 化け物
〈エピソード2.5 化け物〉
夏祭りが始まり、繁華街にある居酒屋は客でいっぱいになっていた。
居酒屋の店主は包丁を手に魚を捌いてツマミを作り、女性店員は注文を取ったり、酒を運んだりしていた。
掻き入れ時だけあって、夏祭りの最中の居酒屋は大盛況だった。
「おい、大将! こっちにも酒を運んでくれ」
常連客の男がそう声を上げると、居酒屋の店主は笑顔で応じる。
「あいよ! おい、そこのバイト。俺は裏口にゴミを捨てて来るから、お前は客に酒を持って行け!」
店主はアルバイトの女性店員をこき使うように言った。
「分かりました!」
女性店員がそう言うと、別の方向からも声が上がる。
「おーい、バイトの姉ちゃん。俺の酒のツマミはまだかよ? もう随分と待ってるんだけどなぁー」
「今、持っていきまーす!」
女性店員が大きな声を張り上げると、店主は包丁を腰にぶら下げて、店の裏手に出る。
そこは狭い路地になっていて、お祭りの時期でも人気はなかった。
「ちっ、どいつもこいつも祭りだからって浮かれやがって。俺だって酒を飲みながら花火の一つでも見たいっつーの」
店主がそう悪態を吐くと、月明かりで照らされた路地の奥でおかしなことが起きる。
いきなり、空間に裂け目のようなものが生まれたのだ。
まるで、何かの手品のように。
「な、何だ?」
店主は目の錯覚かと思い、何度も瞬きをした。
が、空間に生まれた裂け目は一向に消える気配がない。
「酒の匂いがするな。しかも、随分と旨そうな人間までいやがる。《あのお方》には悪いが、食っちまおうかな」
その声と同時に、裂け目の中からまるで熊のような化け物が這い出てきた。
その体長は三メートルを優に超えているし、熊にしてはでかすぎる。
まるで巨人だ。
しかも、その手にはナイフのような鋭い爪が生えている。
「ひ、ひっー!」
店主は化け物が近づいてきたので、腰にぶら下げていた包丁を振り回す。
が、化け物は大きな腕を一振りして、店主の体を路地の外に吹き飛ばした。
そこにはお祭りを見るために歩いている大勢の人間がいた。
だが、錯乱状態に陥っていた店主は包丁を振り回す。
店主は「化け物だー!」と、大きな声で何度も喚いていた。
「て、店長、包丁なんて振り回してどうしたんですか?」
異変に気付き、路地から飛び出してきた女性店員が店主に声をかける。
「ば、化け物が出やがったんだよ。そいつが俺の腹を爪で割いていきやがった」
店主は包丁を握り締めたまま泡を食ったような顔で言った。
「酷い怪我……。今、救急車を呼びますね!」
そう言うと、女性店員はすぐにポケットから取り出したスマホを操作し始めた。




