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エピソード2 トーナメント

〈エピソード2 トーナメント〉


 Aランクの冒険者ということで、特に審査もなくトーナメントの参加を許された俺は控室にいた。


 控室には試合を待っている選手たちが大勢いて、ピリピリした雰囲気が漂っている。


 まあ、これから命がけの戦いをしなければならないのだから、息が詰まりそうになる空気も仕方がないか。


「どいつもこいつもギラギラしたような目をしているわね。二人とも相手の空気に呑まれたら駄目よ」


 イブリスは俺とエリシアに向かって、そう忠告する。


「やっぱり、怖いですね。これから大観衆のいるリングの上に立つのかと思うと、体が震えてしまいます」


 男だらけの部屋にいるエリシアは、肩身の狭そうな顔で言った。


「俺も同じだよ」


 戦う力には自信がある俺でさえ緊張で掌が汗ばんでいるくらいだ。


 人間を相手に命を賭けた戦いをしなきゃならないのは、相当なプレッシャーだ。


「でも、私だって冒険者として色々な相手と戦ってきました。幾ら相手が屈強な男性でも、そうそう遅れは取らないはず」


 エリシアの言葉を聞いた男たちの何人かが鼻で笑うような顔をした。


「そうだな。ま、俺も試合が始まる前に優勝候補のアメイヤとは話をしてみたかったんだが」


 俺は周囲を見回しながら口を開く。


「でも、彼女はここに居ないし、どうしたんだろうな?」


 俺の疑問にイブリスが肩を竦めながら答える。


「彼女はシード枠だからね。アタシたちよりも上等な控室を用意されているのよ」


「なるほどな。そいつは羨ましい限りだ」


「ええ、私もアメイヤの控室は、こっそり覗いてみたけど、こことは比較にならないほど綺麗な部屋だったわよ」


「そっか。まあ、俺はこういう男だらけの場所でも構わないが、女の子のエリシアには別の場所を用意してもらいたかったよ」


 控室を見るに、女性の参加者は、エリシアとアメイヤだけのようだった。


 それだけに、エリシアに圧しかかるプレッシャーはより一層、大きいように思える。


 が、エリシアは俺の心配を他所に、気丈な顔で口を開く。


「そんな特別扱いはしなくても良いんです」


「でも、このむさ苦しさは嫌だろ」


「大丈夫です。私たちはこれから野蛮な殺し合いをしようというのですから」


 エリシアは宝石のような瞳を爛々と輝かせながら言い募る。


「なら、上等な部屋など望んでいたら勝てる戦いも勝てなくなります。返って、こういう場所の方が、身も心も引き締まるというものですよ」


 戦いを前にしたエリシアの声には強い気迫があった。


「俺もそう思うし、今のエリシアなら、良い戦いができる気がするよ」


「はい」


「とにかく、ここにいる奴らなら、全員、俺の敵じゃない。レベルの方も二十を超えている奴は一人もいないからな」


 俺の言葉を聞くや、男たちは殺気立った目をした。


「アメイヤのレベルも二十七だから勝てない相手じゃないわね。ま、気楽に行きましょうよ」


 高みの見物を決め込むだけのイブリスは緊張感のない声で言った。


 すると、控室の扉が開いて係員の男がやって来る。


「十六番と二十四番。試合が始まるから出ろ」


 係員の男から声がかかると武器を手にした大柄の男が二人、控室から出て行った。


 それから程なくして、観客の一際、大きな声援が聞こえて来る。出て行った男の試合が始まるのだろう。


 二十分ほど経つと観客の声も静まってきた。


 試合が終わったに違いない。


 ちなみに、試合が終わった選手は休憩室に行き、傷の手当などを受けるのだ。


「七番と二十二番、試合が始まるから出ろ」


 俺は自分の番号を呼ばれたので、武器である愛用のミスリル・ソードを手に控室から出る。


 俺が通路を出てリングのある試合場まで来ると、眩暈がしそうなほどの大歓声が俺の耳朶を打った。


「二人とも、リングに上がってください」


 司会者の男に促されるまま、俺はリングに上がる。


 すると、鎖が付いた鉄球、モーニングスターを手にした男もリングに上がった。


「あらゆる武器の使用が認められています。また、魔法を除いたあらゆる戦い方も認められています。ただし、手を上げて降参した相手には、攻撃を加えてはいけません。ルールの確認は以上です」


 司会者の男はそう言って、大きく息を吸い込んでから口を開く。


「「「では、始め!」」」


 司会者の男の声が雷鳴のように発せられた。


 すると、男はすぐさま後退して俺と距離を取る。それから、棘の付いた鉄球を振り回しながら、俺と対峙した。


「相手が悪かったな、小僧」


 男は舌を出しながら粗野な笑みを浮かべる。


「どういう意味だ?」


「俺は囚人枠で出場しているんだ。優勝するか死刑になるかのどちらかしかないんだから、何の抵抗もなく相手を殺せるぜ!」


 男は鉄球をブンブンと振り回しながら、せせら笑う。


「相手が悪いというのはこっちの台詞だ」


 俺はつまらなそうに言うと、フンッと鼻を鳴らした。


「何だと?」


「見たところ、あんたは自分の体を鍛え上げてきた戦士じゃない。所詮はただの犯罪者だ。そんな奴を恐れる理由はどこにもない」


 男の体格はそれなりに良いが、レベルの方はたったの十四だ。


 見かけ倒しも良いところだな。


「ぼさけっ!」


 男はモーニングスターの鉄球を俺の顔面に叩きつけてきた。


 俺はその一撃を余裕のある動きでかわすと反撃に転じようとする。


 すると、モーニングスターの鎖が俺の体を絡め捕ろうとする。


 その変則的な攻撃には俺もヒヤッとさせられた。


 が、すぐに機敏な動きで対応する。


 俺はモーニングスターの鎖をミスリル・ソードで断ち切った。


「クソッ」


 男は斬り飛ばされた鉄球を見て舌打ちする。それから、モーニングスターを放り投げると、今度は腰から短剣を引き抜く。


「降参した方が身のためだぞ」


 勝負は付いた。


 というよりは初めから付いていた。


「うるせぇ! どうせ、俺はこのトーナメントで負けたら死刑になるんだ。今更、退くことなんてできるかよ!」


 そうヤケクソな感じで叫ぶと、男は闇雲な動きで短剣で斬りかかって来た。


 俺はその勢いに任せたような動きを完璧に見切り、男の短剣を力強く弾き飛ばした。


 ミスリル・ソードと打ち合った粗末な短剣は空中でバラバラになる。


 短剣をもぎ取られた男はがっくりと膝を突く。それから、どう足掻いても勝ち目がないことを悟ったのか、降参の合図である手を上げた。



                  ◇◆◇


「大したことなかったわね。それともシュウイチが強すぎたのかしら。ま、この調子でガンガン勝ち上がりましょう」


 イブリスは腰に手を当てて勝ち誇るように笑う。


 俺はと言うと掠り傷一つないので、休憩室には行かずに、そのまま控室に戻って来た。


「八番のエリシア・アーバイン。次の試合の相手はシード枠のアメイヤ・アルフィスだ。控室から出ろ」


 係員の男の言葉に控室の空気が凍り付いた。


「エリシア、危ないと思ったらすぐに降参しろよ。はっきり言って、今のお前じゃアメイヤに勝つのは実力的に無理だ」


 控室から出て行こうとするエリシアに向かって、俺はそうキツイ声で言葉を投げかける。


 エリシアのレベルは十八。


 アメイヤとはかなりの差があるし、その差を覆す方法は今のエリシアには無いはずだ。


 せめて、魔法の使用が認められていれば、と俺は心の中で歯がみする。


「分かっています。でも、貴賓席にいるお父様を楽しませるためにも最低限の善戦はしてみせますよ」


 そう気丈に言うと、エリシアは控室から出て行った。


 彼女の試合を見たいのは山々だが、選手は試合以外の時間は用意された部屋で過ごさなければならないという決まりがある。


 今の俺にできるのはエリシアが無事でいてくれるのを祈ることだけだった。

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