エピソード4.8 忍び寄る魔の手
〈エピソード4.8 忍び寄る魔の手〉
留美は修一の部屋をノックしていたが、反応は返って来ない。
「また留守かぁ。修一さんったら、もう何カ月も家に帰ってきてないよ。警察に捜索願とか出さなくて良いのかな?」
留美もどこかで野たれ死でいるんじゃないかと、修一のことを心配する。それから、すっかり綺麗になった部屋に入ると、コンビニで買って来たお弁当を食べる。
自分が綺麗にした部屋のせいか、まるで自宅のようにくつろぐことができた。
「やっぱり、綺麗な部屋って良いよね」
留美はお弁当を箸で突きながら言葉を続ける。
「食べる物も美味しく感じられるし、修一さんが帰ってきたら私も手料理を振舞ってあげようかな」
留美はルンルンとした顔をする。
「私の手料理は、コンビニのお弁当なんかには負けないよ」
留美も修一の食生活には、不安なものを感じていたのだ。
片付ける前の部屋にはカップ麺やコンビニの弁当の空がたくさん放置されていたから。
自分は料理も得意だし、手料理の良さを修一に教えてあげたい。
お節介かもしれないが、三万円ももらったのだから、それくらいはしてあげないと罰が当たりそうだ。
「私も修一さんとはもっと仲良くしておけばよかったな」
そう言って、留美は紙パックのコーヒー牛乳に口を付ける。
「部屋は人の心を映し出す鏡とも言うし、修一さんは絶対に良い人だよ。それは、この部屋を隅々まで掃除した私なら分かる」
修一の部屋の掃除には一週間もかけたのだ。だから、修一の人柄のようなものも、想像することができる。
修一は悪い人間ではないし、それだけは確信できる。
そんな修一が帰って来てこの部屋を見たら、どんな反応をするか。
それを留美も楽しみにしているのだ。
あれこれ考えながら留美がお弁当を食べていると、玄関からドアをノックする音が聞こえてくる。
「はい」
留美が玄関のドアを開けると、そこには制服姿の警察官がいた。
「警察です。桂木修一さんにお会いしたいのですが」
警察官は警察手帳を見せながら言った。
「修一さんなら、今、出かけています」
「なら、修一さんがどこに行ったのかは、ご存知でないでしょうか?」
「知りません」
修一がどこに行ったかなど、こちらが警察に尋ねたいくらいだ。
「そうですか。では、また日を改めます」
警察官がそう言うと、留美はドアを閉めた。
すると、防音の悪い扉から声が漏れて来る。
「早く奴を見つけないと、上層部がうるさく騒ぎ立てるな。部屋の中にいた小娘を人質として捕まえても良かったんだが……」
警察官の背筋が凍りつくような呟きを聞き、留美は身震いする。
それだけ、《人質》という言葉には物騒なものを感じたのだ。
「人質として捕まえるって何? 今の人は警察官じゃないの?」
そう小声で言うと、留美は自らの全身に電流のような悪寒が駆け巡るのを感じた。




