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エピソード4 スラム街での捕物

〈エピソード4 スラム街での捕物〉


 スラム街の通りを進んで行くと、俺たちは一際、大きくて、けばけばしい店の前へと辿り着いた。


 店と言うよりはホテルみたいな感じだな。


 俺は入り口に立っているボディーカードのような男をチラチラ見ながら、店の入り口へと足を踏み入れた。


「あら、随分と若いお客さんだこと。私はこの店の女主人、カーリーよ。今日は月の出ている良い夜だし、たっぷりと楽しんでいって」


 店の中に入ると、そこは豪華な広間のようになっていた。


 広間に備え付けられている白亜の階段の上には、妙齢の女が立っている。


 言葉を発したのは、ブルネットの髪を長く伸ばしたこの美女だ。


「お前が女主人のサキュバスか。単刀直入に言うが、この店を廃業しろ。そうすれば、俺も剣を抜くような真似はしない」


 そう言って、俺は用心するようにミスリル・ソードの柄に手を置く。


 見た感じ美女、カーリーは普通の人間の女にしか見えない。妖しげな翼もなければ尻尾もないし。


 でも、油断は禁物だ。


「この私に向かって、ここまで大きな口を叩ける男がいるとはね。ま、女の色香が分からない子供じゃ無理もないか」


 カーリーは淫靡な笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「おいで、ガルバ。招かざる客人が来たわよ」


 カーリーの言葉に呼応するように広間の横手にある扉から二メートルを超える男が現れた。


 ボディーガードのような男たちよりも二回りくらい大きい。


 男は鬼のような顔をしているが、人間的な要素も併せ持っているように感じられた。


 俺が気になってメニュー表のアナライズを起動させると男の種族は《ハーフ・オーガ》になっていた。


 敵のレベルは十八なので問題なく勝てる相手だが、人間の血も混じっているのなら殺したくはないな。


「カーリー様に向かって、剣をちらつかせるとはこの不届き者め。お前のような生意気なガキは、このガルバ様が叩き潰してやろう」


 そう言うと、ガルバと名乗ったハーフ・オーガは棍棒を片手に襲い掛かって来た。


 俺はその攻撃を冷静に待ち構える。力に任せただけの攻撃など、今の俺なら容易く捌くことができる。


 が、手加減をしすぎれば、足を掬われるのは自分だ。


 故に慎重に戦う必要がある。


 俺はガルバが剣の間合いに入ると、新しく覚えた技を繰り出す。


「「「ビッグ・スマッシュ!」」」


 俺の勢いに乗った剣は大きな棍棒を断ち割り、強靭なはずのハーフ―・オーガの胸板に深い切り傷を付けた。


「グァッ!」


 ガルバはそう叫ぶと、両手で胸を押さえながら膝を突く。


 深手だが、死ぬような傷ではないはずだし、気に病む必要はないだろう。


「叩き潰されたのは、お前の方だったな」


 俺は剣の切っ先を戦えなくなったガルバからカーリーに移す。すると、カーリーは美女には相応しくない憤怒の表情を浮かべる。


「よくも、ガルバを……。今度は私が相手よ。魔界で生き抜くために手に入れた力、目にもの見せてあげるわ!」


 そう言うと、カーリーは背中から黒くて禍々しい翼と尻尾を生やし、生き物のように蠢く炎の球を俺に放って来る。


 俺はその炎の球を楽々とかわした。が、炎はまるで蛇のように動いて俺の体に迫って来る。


 俺は追尾して来る炎から逃げながら、カーリーに迫る。


「上手く逃げてくれるわね。でも、二つの炎ならどう? いつまで持ち堪えることができるかしら?」


 俺の前方からも炎の蛇が迫って来た。


 退路を塞がれてしまったし、例え上手く横に避けても、二匹の炎の蛇の追尾からは逃れることはできない。


 前と後ろで挟まれてしまった俺は意を決して剣の技を放つ。


「「「エア・スラッシュ!」」」


 剣の刀身から生まれた風の刃は前方の炎を切り裂き、そのままカーリーの体へと高速で飛んでいく。


 カーリーは避けることができずに肩をバッサリと切り裂かれた。


 涼しげだったカーリーの表情が大きく歪む。


「グッ、よくもこの私の美しい体に傷を。この代償は高くつくわよ!」


 カーリーがそう言うと、精神集中ができなくなったのか、俺を追いかけていた炎の蛇は止まった。


 が、カーリーは一度に四つの炎の球を空中に生み出して見せる。


 さすがに、この数の炎の球をエア・スラッシュで捌き切ることはできない。


 俺はもう避けられない判断し、それならばと思い、カーリーに向かって疾走する。


「捨て身の攻撃を仕掛けてくる気ね! でも、そうはさせないわよ!」


 カーリーは俺を近寄らせまいと目まぐるしく炎の球を放って来る。


 対する俺は飛んできた炎の球をエア・スラッシュの技で切り裂く。避けられない炎はバックラーを盾に体当たりして突き破った。


 そして、勢いを殺さぬまま弾丸のようにカーリーへと肉薄する。


「ここまでだ。攻撃の手を止めないと、お前の首を切り飛ばすぞ」


 俺は瞬足の動きでカーリーの前に立つと、ミスリル・ソードの刃を彼女の首に押し当てた。


 これにはカーリーも口惜しそうな顔をする。


「例え私の店を潰しても、次のサキュバスが現れて、また新しい店を開くわよ。所詮はイタチごっこだということを知りなさい!」


 そう荒々しく言うと、カーリーは逃げるようにバックステップをする。その際、彼女の首は薄く切れて、ミスリル・ソードにも血が付着した。


 それでも、カーリーは巧みな動きで俺との間合いを取ることに成功する。


 その際、彼女は掌に生み出した特大の炎の塊を俺にぶつけてきた。


「おかしな余裕なんて見せずに、止めを刺しておくべきだったわね。甘いわよ、正義の味方さん!」


 カーリーのせせら笑うような言葉を聞くのと同時に、俺は炎の塊を危なげなくかわす。


 が、炎の塊は床に衝突すると、まるでナパーム弾のように一気に燃え広がった。


 エリシアのファイアー・ボールより遥かに勢いのある灼熱の炎だ。


 やはり、サキュバスだけあって、かなり強力な魔法が使えるようだな。


「グッ」


 俺は押し寄せてくる熱波を受け、低く呻く。バックラーを掲げて炎の熱から顔を守るが、それでも肌が焼け付くように痛い。


 しかも、炎は勢いを衰えさせることなく、まだまだ燃え広がっていく。


 このままここに居るのは危険だ。


「さようなら、坊や。次に会う時には、大人の男になってくれていることを期待するわ」


 そんな捨て台詞のような言葉が聞こえてきたので、俺はすぐにカーリーのいた方に視線を戻す。


 が、その時には、彼女の姿は煙のように消えていた。


 倒れていたガルバも炎から身を守るように逃げて行く。


「クソ、何て炎だ。このままここにいたら焼け死ぬだけだぞ!」


 俺は押し寄せてくる炎の勢いに耐え切れず、急いで店から出る。炎は店そのものを焼き始めていた。


 ただ、店には色んな出口があったらしく、次々と客や従業員が飛び出してきた。


 そのまま大きな建物だった店は生き物のような炎に包まれて、焼き崩れていく。


「自分の店を焼いて逃げるなんて、許し難い女だわ。これだから、魔界育ちの女は好きになれないのよ」


 イブリスは舌打ちしながら言葉を続ける。


「結局、魔界から来た不浄の女神ジャヒーをどうにかしない限り、本当の解決にはならないんだわ」


 イブリスは激しさを増した炎の中で倒壊し始めた建物を見ると、そう呟くように言った。


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