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エピソード2.5 不穏な空気に包まれた町

〈エピソード2.5 不穏な空気に包まれた町〉


 留美は繁華街の雑居ビルの中にある焼き肉店でアルバイトをしていた。


 狭苦しい焼き肉店はたくさんの客で賑わっている。


 注文を取る留美も慌ただしく店内を動き回っていた。


 てんてこまいとはこのことだ。


「警察と自衛隊が合同で町の警備をしてるんだよ。テロでもあったのかな?」


 二十歳くらいの青年がビールを飲みながら言った。


「アタシ、見たのよ。変な生き物が暗い夜道を歩いているのを。あれは絶対に目の錯覚なんかじゃないわ!」


 四十代くらいのおばさんが、おどろおどろしい声で話を盛り上げる。


「この近くのバーでたくさん人が死んだって話を耳にしたんだけど、それって本当にガス爆発が原因なのか?」


 会社員のような男が牛カルビを頬張りながら言った。


「テレビでも何にも報道しないし、ネットでもその手の情報は流れてない。匿名掲示板に書き込まれた情報もすぐに消されているし」


 スマホを片手に肉を焼いている大柄の男がそうぼやいた。


「情報統制ってやつか。この現代の日本で、そんなことがあり得るのかね?」


 大柄の男と一緒の席にいる男が小馬鹿にしたように言った。


「留美ちゃん、注文の方はもう良いからトイレ掃除の方を頼むよ」


 店長からの声がかかると、留美は店の奥にあるトイレに行き、換気を良くするために窓を大きく開けた。


 すると、隣の雑居ビルの中にある、いやらしいサービスを提供する店から二人の女の声が漏れて来る。


「ったく、今年の暑さは異常だよね。体は汗でベトベトだし、もう最悪。従業員の控室にもクーラーを設置して欲しいよ」


 女の言葉を聞いて、精神的な暑苦しさを感じた留美は、体から汗が噴き出すのを感じる。


「仕事なんだし我慢しなさいよ、マユ。全ては大学の学費のためでしょ?」


「ええ。こんなしがない店で働かなきゃならないのも、あと一年くらいだし、意地でも我慢してやるわ」


「そうよ。大学を卒業すれば良い会社にも入れるかもしれないし、そしたらもっと余裕のある生活ができるようになるはずよ」


 留美は大学の学費のことを考えると暗鬱な気持ちになる。


 もし、未成年でなければ、自分も苦しい家計を何とかするために、もっと精神的な負担を感じる店で働いていたかもしれない。


 例えば、隣の雑居ビルにあるような男といやらしいことをする店とか。


 まあ、それはあまり考えたくないことだ。


「分かってる。それはそうと、明日はライラス教授のゼミレポの講演があるんだよね。教授の話って小難しいから嫌いなんだけど、これも単位を取るためだし、仕方がないか」


 女がそうげんなりしたように言うと、もう声は聞こえてこなくなった。


 留美は自分もそろそろ身を入れて勉強しないと駄目だと思う。


 この焼き肉店でアルバイトができるのも今年の冬頃までだ。受験勉強とアルバイトの両立なんて自分にはできないだろうし。


 それに、自分はお金のかからない公立の大学に入りたいとも思っている。であれば、今まで以上に一生懸命、勉強しないと。


 留美は大学を中退したせいで悲惨な人生を送ることになった修一のことを思い出しながらトイレ掃除を始めた。

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