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エピソード2 牧場での一時

〈エピソード2 牧場での一時〉


「見渡す限りの大草原か。こんな景色は日本じゃ見たことがないし、のんびりしている牛たちが羨ましいな」


 俺たちはギルドのクエストを受けて、王都の外にある牧場に来ていた。


 この牧場ではヘルコンドルの群れが頻繁に襲来し、家畜を襲っていたのだ。


 だから、牧場まで来たのだが、あいにくとヘルコンドルの姿はまだ見当たらなかった。


「ホント、長閑な光景よね。ここは仮想世界だけど、あの空の青さは現実の世界と何ら変わりのないものだわ」


 イブリスは清々しさのある顔で言った。


「そうだな。スマホがあったら、この景色は写真に収めていたかもしれないな」


「ええ。こういうところに居るとアタシの心も洗われていくし、もし人間だったら酪農の仕事に携わるのも悪くはなかったもしれないわね」


 イブリスは抜けるような青空を見上げながら、ほのぼのとしたことを言った。


 ちなみに、初期魔法として用意されているゲートを使えば、マップに表示されている場所はファスト・トラベルができる。


 ただし、ダンジョンやその内部などでは、ファスト・トラベルの機能は使えない。


 他にもマップに表示されていても、ファスト・トラベルができない場所はある。

 

 幸いにも、この牧場にはファスト・トラベルで来れたので、馬車などは使わなかった。


「にしても、本当にこのミルクは美味しいな。さすが搾りたてだ。こんなミルクで作ったアイスクリームはさぞ美味しいだろうな」


 俺は濃厚な味のミルクを飲みながら、家族で行ったことがある小さな牧場のことを思い出す。


 あの牧場で食べたアイスの味は、今も記憶の中に残っている。


 過去はあまり振り返らない主義だが、あの牧場で過ごした優しい時間は別だ。


 家族みんなで遊びに行くなんて、もうできないだろうな……。


「あいにくと、この世界じゃ簡単にはアイスクリームなんて作れないわよ」


「そうなのか?」


「ええ。アイスクリームは高級品として知られているし、一部の金持ちしか食べられないんだから」


 イブリスは牧場でもらったチーズを齧りながら言った。


「世知辛いな。でも、俺たちは金なら腐るほど持ってるし、その気になれば食べられないものなんてないだろ?」


「そうね。グルメを堪能するって言うのも良いかもしれないわね」


「ああ。このクエストが終わったら、高級そうなレストランにも入ってみようぜ。歓楽街の一角にそういう感じの店があったし」


「それは良い考えね。アタシもたまにはレストランで出されるような高級なワインに舌鼓を打ちたいわ」


 俺たちとイブリスが食べ物の話に花を咲かせていると、同じくミルクを飲んでいたエリシアが鋭い動きで首を巡らせた。


「お二人とも、雑談はお終わりにしてください。ヘルコンドルの群れがやって来ましたよ」


 エリシアが剣呑な顔で言った。


 彼女の視線の先には激しく翼をはためかせている五匹の鳥がいる。が、鳥にしてはやけに大きく見えたし、その顔は何とも獰猛そうだ。


 俺はレベルが上がるごとに機能が増えて行くメニュー表を出す。それから、アナライズを起動させる。


 アナライズはモンスターの詳しい情報を教えてくれる。


 ただし、アナライズが利かないモンスターもいるみたいなので、その点は注意が必要だ。


 そのアナライズによると、モンスターの種族はヘルコンドルになっていて、レベルの方は十五だった。


 倒せないモンスターではないが、飛行しているところが厄介だな。


 対空用の技や魔法が必要になりそうだ。


「来たか。思ったよりも早く現れてくれたし、これでいつまでも代り映えのしない緑の芝生を眺めていなくて済むな」


 俺は丸太で作られた椅子から立ち上がった。


「空中に浮いているヘルコンドルを相手にどう戦うべきでしょうか。私の魔法が命中すれば良いのですが」


 エリシアは掌を魔法の力で輝かせながら言った。


「初めは相手の出方を窺ってみるしかないな。ま、俺は新しい技を覚えたから、それを使ってみるけど」


 俺が新しく買ったミスリル・ソードを構えていると、四メートルを超える巨体を誇るヘルコンドルが家畜を襲い始める。


 エリシアもファイアー・ボールの魔法を放ったが、上手く避けられてしまった。


「さすがに空を飛ぶモンスターとは戦いづらいですね。ですが、私の力だってこんなものではありませんよ!」


 エリシアはファイアー・ボールを矢継ぎ早に何発もヘルコンドルに放つ。その内の一発はヘルコンドルの体にモロに命中した。


 が、ヘルコンドルは翼を激しくはためかせて、体に纏わりつく炎を消した。


 その上、特に堪えたような様子もなく、そのヘルコンドルは攻撃して来たエリシアには目もくれずにまた家畜を襲い始める。


 それを見て、俺は剣を大きく振り上げる。


 こんなに美味しいミルクを飲ませてくれた牛たちは一匹たりとも殺させはしない!


「「「エア・スラッシュ!」」」


 俺が剣を振り下ろすと、刀身から風の刃が生まれて、それはヘルコンドルの体を真っ二つにした。

 

 二つに分かれたヘルコンドルの体は落下していき、地面に叩きつけられて潰れる。


「凄いです! 私のファイアー・ボールがぶつかっても、びくともしなかったヘルコンドルを一撃で仕留めてしまうなんて!」


 エリシアが称賛の声を上げた。


「ヘルコンドルにはアクア・ジャベリンの方が効果化があるかもしれない。翼を貫かれれば空は飛べなくなるだろうし」


 俺はエリシアが前に使えると言っていた水の槍の魔法のことを思い出す。


「分かりました。では、やってみます」


 エリシアはまだ飛んでいるヘルコンドルに向かってアクア・ジャベリンの魔法を放つ。


 水の槍がヘルコンドルの翼を次々と貫いた。


 俺も先程と同じ技を何度も繰り出す。


 風の刃でヘルコンドルは腕を切り飛ばされたり、翼を切断されたりして地面に落下した。


 全てのヘルコンドルが地面に落ちると、俺たちは心を鬼にしてヘルコンドルたちの止めを刺す。


「家畜たちは犠牲にならなかったみたいだな。これで美味しいミルクが飲めなくなるようなことはなくなった」


 牧場の人たちも一安心だろう。


 とはいえ、また別のヘルコンドルの群れが襲いに来る可能性は依然としてある。


 その時は、今回みたいにギルドに依頼してもらいたいな。


 俺で良ければ、すぐに駆けつけるぞ。


「でも、ヘルコンドルも食料として家畜を襲っていただけだからね」


 イブリスはヘルコンドルの死体を見回しながら言葉を続ける。


「生きるためには仕方がない行動だし、こういう類のモンスター退治は、どうにも好きになれないわ」


 イブリスは苦味のある顔で言った。


 その言葉には、俺も頷けるものを感じる。


「そうだな。人間とモンスターの共存ができるのが一番良いことだし。まあ、この世界の社会構造じゃ、それはまだ無理そうだが」


 もう少し知能があるモンスターだったら、人間の領域に足を踏み入れる危険性も理解できただろうに。


 人間の住んでいる場所を荒らして殺されるのも、考え方によっては自然界の厳しい掟と言えるのかもしれない。


 何にせよ、動物愛護、なんて精神はこの世界にはまだ早いな。


 俺は寂寥感のある顔をすると、気になっていたことを確認するべくメニュー表を開く。


「おっ、レベルが二十九まで上がったぞ。レベルキャップの上限まであと一レベルだし、惜しかったな」


 俺はもう少し積極的にヘルコンドルを倒していればと思いながら、コップに残っていたミルクを渇いた喉に流し込んだ。


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