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エピソード1.5 自衛隊

〈エピソード1.5 自衛隊〉


 夏休みも十日ほど過ぎた頃、留美は所属している文芸部の部室にいた。


 部室には二年生である留美の先輩の一条晴香と部長を務める支倉達也がいて、熱の籠った話をしていた。


「今年のコミック・マーケットでは全ての同人誌を売り切りたいところだな。装丁もしっかりとしている同人誌を刷るつもりだし」


 文芸部員には似つかわしくないガッチリとした体格をしている達也はパソコンのキーボードを叩きながら言った。


「ええ。今年こそは黒字の利益を叩き出したいわね。そんでもってコミマが終わったら、みんなで記念の回転寿司に行くのよ」


 クールな眼鏡美人の晴香はにんまりと笑う。


「そうなると良いな。とにかく、俺たちにとっては最後の年だ。コミマと文化祭が終わったら、俺たちは引退だからな」


 達也は哀愁を漂わせるような顔で言った。


「その後は辛くて苦しい受験勉強が待ってるってわけね。想像するだけで憂鬱になって来るわ」


 晴香は肩を落として嘆息する。


「じゃあ、原稿のデータも渡しましたし、私は帰って良いでしょうか?」


 そう切り出したのは留美だ。


「ああ。暑い中、部室に来てくれてご苦労だったな。外は日差しがキツイし、熱中症には気を付けて帰れよ」


 達也はパソコンをシャットダウンするとそう言った。


「はい」


 留美は小さく返事をすると椅子から立ちあがった。


「引き留めるようで悪いんだけれど、留美ちゃんはこの三崎市で殺人事件が多発してるって言うのは知ってる?」


 晴香の何気ない感じの言葉に留美はビクッとする。


「殺人事件が起きたのは知ってます。警察にそのことで質問されたりしましたから」


 そう説明する留美は警察官が口にした《化け物》という不吉な言葉を思い出していた。


 ちなみに、修一の高校の時のクラスメイトがバーで起きたガス爆発で死んだらしい、という話は母親から聞いていた。


 でも、その事故を報じるようなニュースは全く流れていない。


 普通だったら、例え殺人事件でなくても、大騒ぎになっているはずなのに。


「でも、ニュースじゃそんな話は一切聞かないのよね。ネットのニュースサイトでは話題になったりしてたけど、今日見たらその記事も全部消されてるし」


 晴香は眼鏡のフレームを指で持ち上げながら言葉を続ける。


「何か大きな圧力でも働いているのかしら?」


 晴香の疑問に達也が腕を組みながら応える。


「そう言えば、今朝、通学路を歩いていたら、自衛隊の制服を着た奴らが道を塞ぐようにして立ってたな。あれは何だったんだろう?」


「確かに居たわね、自衛隊の人たちが。しかも、装甲車のような物まで道路に止まってたし」


 晴香は難しい顔をしながら更に口を開く。


「ひょっとしたら、私たちの知らないところで何かとんでもないことが起きているのかもしれないわよ?」


 晴香の臭わすような言葉を聞いた留美は心がざわつくのを感じながら、文芸部の部室を後にした。

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