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エピソード1 これからの目標

〈エピソード1 これからの目標〉


「あっという間にAランクの冒険者になれたな。これで、ギルドのほとんどのクエストは受けられるようになった」


 ゴブリンの討伐を終えた俺はAランクの冒険者になった。


 そのことで、俺は大きく浮かれていたのだ。


 が、イブリスはSランクの冒険者になれるくらいのギルドポイントはもらえていたと言う。


 そうならなかったのは、キャップという機能が働いているかららしい。


 キャップというのは定められている数値より、レベルやランクが上がらないようにする機能のことだ。


「俺もゲームは好きだし、レベルキャップの機能くらいは知っていたが、この世界でもそれが適応されているとはな」


 俺は煩わしいものを感じながらぼやく。


 現在の俺のレベルは二十四。


 が、レベルが三十以上にならないようにレベルキャップが付いている。


 幾ら大量の経験値を手に入れても、レベルキャップを解放しない限り、レベルは三十以上にはならないのだ。


「それよりも、フレイム・ソードはちゃんと貰っておくべきだったんじゃないの? 自分で使えなくても売れば大金になったわけだし」


 イブリスは不平を口にする。


 フレイム・ソードを扱うには、まず自分の体をバリアの魔法で包まなければならない。


 でないと、自分が持っているフレイム・ソードの熱で焼かれてしまう。


 当然のことながら、俺はバリアの魔法なんて習得してないし、それだとフレイム・ソードは満足に扱えないのだ。


「良いんだよ。多少の同情はかけておいた方が恨まれなくて済むし、貰うのは伯爵のメダルだけで十分だ」


 ロッシはショックから立ち直れないような顔をしていたし、今回の件はあいつにとっては良い薬になっただろう。


 これに懲りたら、心を入れ替えて清く正しい冒険者になってくれることを願うばかりだ。


「欲がないわね。そういう性格をしているといつか大きな損をすることになるわよ」


「もう十分すぎるほど損はしてきたさ」


 俺は自分の人生を振り返りながら言った。


「でしょうね。ま、アタシとしてはあんたのそういうところは嫌いじゃないわよ」


 イブリスはふっと微笑した。


 俺たちが宿屋の食堂でそんな話をしていると、エリシアがやって来る。その顔にはやや疲労感が残っていた。


「おはようございます」


 そう朝の挨拶をするエリシアの桃色ブロンドの髪には寝癖が立っていた。


「おはよう」


 俺はエリシアの寝癖を笑いたくなりながら挨拶を返した。


「二人とも起きるのが早いですね。私は昨日のクエストで疲れていたので、なかなか起きられませんでした」


「無理はしなくて良いんだ。俺だってイブリスが早く朝食が食べたいって騒がなかったら、起きられなかったし」


 まあ、腹が減っていたのは俺も同じだったので、文句はなかったが。


「早起きは三文の得って言葉もあるからね」


 そう言うと、イブリスは続けて俺のマウントを取るような言葉を発する。


「私の目の黒い内はシュウイチに自堕落な生活をさせるつもりはないわよ」


 イブリスは何とも得意げな顔をした。


「そうですか。それで、私たちはこれからどうすれば良いんでしょうか。私には特に目標のようなものはありませんし、シュウイチさんは?」


 エリシアの言葉に俺も少しだけ考え込む。


「俺もこれといった目標はないし、楽しくて刺激的なクエストが受けられればそれで良いと思っているよ」


 俺はやんわりと言いながらも、切り返すように口を開く。


「ただ、ドラゴンは倒したい」


 ドラゴンという言葉には並々ならぬ力が籠っていた。


「どうしてドラゴンなんですか?」


「ドラゴンを倒せるくらい強くなる頃には、俺は自分の世界に戻れるからだ」


「自分の世界、ですか?」


 エリシアは疑問符を浮かべているような声を発する。


 俺もこの世界は嫌いじゃないが、自分の世界にはちゃんと戻らないとな。


 自分の体がいつまでも機械に繋がれたままって言うのも、マズイし。


 それに、クライスター社から支払われることになっている報酬には期待をしているのだ。


「ああ。俺はこの世界に長居できる人間じゃないし、できるだけ、悔いは残さないようにしたい」


 そう思っているからこそ、ドラゴンを倒したいという気持ちも抑えられずにいたのだ。


 だが、ドラゴンを倒すには最低でもレベルが五十以上、必要になるらしい。


 そのためには、特定のイベントをこなしてレベルキャップを解放しなければならない。


 それには、大きな苦労が伴うはずだ。


 俺はどこか物寂しい気持ちになりながら言葉を続ける。


「少なくとも、ドラゴンを倒せば、俺も心置きなく自分の世界に戻れると思う」


 俺がそうしんみりと零すと、すかさずと言った感じで、イブリスが口を挟んでくる。


「でも、そうとは限らなくなってきたわよ、シュウイチ」


「どういう意味だ?」


「チート・スキルのせいで、あんたのレベルは通常では考えられないくらい早く上がるようになったからね」


 イブリスは顎に指を這わせながら言い募る。


「このままだと時間的に、ドラゴンを倒せる頃になってもテストプレイは終わらない可能性があるわ」 


「そうか。なら、もう少し長い目で見る必要があるな」


「ええ」


 イブリスが神妙な顔で頷くと、エリシアが再び入れ替わるように口を開く。


「にしても、シュウイチさんが別の世界から来られたというのは初耳です。よろしければその世界のことを詳しく教えてくれませんか?」


「口で説明するほど変わったところはないよ」


 例え説明しても、この世界の人間が理解できるとは思えない。良くも悪くも文明のレベルが違い過ぎる。


「と言うと、精霊界や魔界から来たと言うわけではないということですね? その二つの世界は人間が暮らせるようなところではないと聞いていますし」


「ああ。俺がいたのはちゃんと人間が住める世界だ。だから、そんなに心配そうな顔はしなくて良いって」


「そうですか。なら、私もその世界に行ってみたいです。時が来たら、私をその世界に連れてってもらえませんか?」


 エリシアの宝石のような緑色の瞳が瞬いた。


「それはできないと思う」


「どうしてですか?」


「俺のいた世界にはイブリスだってついて来ることはできないんだ。だから、誰も連れて行くことはできない」


 何とも心苦しい説明をしてしまったし、エリシアの気分を害さなければ良いなと思う。


「分かりました。では、私もシュウイチさんと共に居られる時間を大切にします」


「そうしてくれると嬉しいな」


「はい。その間に、シュウイチさんの世界に行ける方法も見つかるかもしれませんし」


 そう退かないような態度で言うと、エリシアは食堂のテーブル席に腰を落ち着ける。


「意外と頑固なんだな、エリシアは」


「よく言われます」


 ゴブリンを退治した時にも感じたことではあるし、エリシアはこうと決めたことは必ず実行する性格なのかもしれない。


 エリシアは顔の表情を綻ばせながら言葉を続ける。


「もう少し融通の利く性格をしていたら、婚約の話を蹴っても王宮から追い出されることはなかったかもしれませんね」


 エリシアの声には少しだけ自嘲のようなものが混じっていた。


 現実の女の子ではないはずなのに、この血の通ったような反応には感嘆させられるな。


 とてもAIの仕事とは思えないし、むしろ、現実の世界の女の子の方が、よっぽど機械みたいに思える。


 AIが人間の頭脳を超えるのも時間の問題かもしれない。


「エリシアは今のままで良いんじゃないか? 少なくとも、俺は今のエリシアが一番、魅力的に思えるよ」


 俺が口説くようなことを言っていると、宿屋の主人がサービスのつもりなのか、頼んでもいないジュースの入ったコップを俺たちの前に運んできた。


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