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エピソード4 ゴブリン・ロードの討伐と勝負の行方

〈エピソード4 ゴブリン・ロードの討伐と勝負の行方〉


 俺とエリシアは馬車に乗ってクエストの紹介文に記されていた《エフタ村》を目指していた。


 エフタ村は徒歩で半日はかかる距離にあるが、足の早い馬を使った馬車なら二時間ほどで到着することができた。


 が、俺たちが村に辿り着いた時には、既にあちこちの建物から火の手が上がっていた。


「ゴブリンどもは一匹残らず殺せ! 村の住民はわざわざ助けてやる必要はないぞ。いいか、ゴブリンを殺すことだけを優先しろ!」


 燃え上がるフレイム・ソードを振るいながら、俺たちよりも先に村に到着していたロッシが叫んでいた。


 ロッシの仲間たちも次々とゴブリンを屠っていく。


 やはり、Aランクの冒険者だけあって、彼らの戦い方は洗練されていた。


 だが、村人たちは逃げ惑っていて、中にはゴブリンの攻撃を受けて倒れる者もいた。


「ようやく来たか。だが、ゴブリンたちの半数は俺たちが始末してやったぞ。あとは、洞窟を見つけて、その中にいるゴブリン・ロードを殺すだけだ」


 ロッシは惨忍な目をしながら、やってきた俺に対して高らかに言った。


 俺たちもできるだけ急いで来たんだけどな。でも、武器選びに時間を取られたせいで、出遅れてしまった。


「ゴブリン・ロードの居場所が掴めていないのなら、勝敗がどちらに転がるかは、まだ分からないと言うことだな」


 俺は剣を片手に、ロッシの顔に敵愾心をぶつけた。


「ああ。ゴブリンたちを森からいぶり出し、数を減らしてやったのは、Aランクの冒険者である俺のありがたいサービスだと思え」


 そう不遜に言うと、ロッシはフレイム・ソードを掲げて、近づいてきたゴブリンたちの群れに斬りかかる。


 ゴブリンを無理にいぶり出したせいで、村人たちが犠牲になった。


 だが、当のロッシはそんなことは全く意に介していないようだった。


「シュウイチ、ゴブリンが住み着いている洞窟の場所ならマップに乗っているはずだわ。早く確認しなさい」


 ロッシが目の前からいなくなると、イブリスが急かすような声で言ったので、俺は空中にマップを表示させる。


「本当だ。村と村の周辺にあるものの地図がちゃんと完成してる。これなら、ロッシたちの先を越せるぞ」


「ええ。さっさと洞窟に行って、ゴブリン・ロードを倒しちゃいましょう!」


 イブリスは握り拳を突き上げた。


 が、すぐにエリシアが強い覚悟を決めたような顔で口を開く。


「シュウイチさんは先に洞窟に向かってください。私は傷ついている村の人たちに回復魔法をかけて回ります」


 エリシアの言葉を聞いた俺はすぐに彼女の意志を汲むように頷く。


「そうか。助けを必要としている村の人たちを放っておくわけにもいかないからな」


 ロッシに勝ちたいなら、村人などに意識を割いている暇はない。でも、純真なエリシアはそれができないようだった。


 こういう時に人間の本質のようなものが試されるのかもしれないな。


「はい!」


 エリシアは芯の通った返事をした。


「じゃあ、この場はエリシアに任せる。が、くれぐれも無茶をするなよ」


 まあ、Bランクの冒険者のエリシアなら散り散りになっているゴブリンを相手に不覚を取ることもないだろう。


 であれば、ここは彼女の意思を尊重してあげるべきだし、俺は自分の為すべきことを為そう。


「新手のゴブリンたちがやって来たわよ、シュウイチ。くれぐれも毒の塗られた武器による攻撃は、受けないようにしなさい」


 イブリスが新たに現れたゴブリンの群れを指さす。


「分かってる。俺も思う存分、新しい剣の切れ味を試させてもらうさ。ロッシみたいな奴に負けちゃいられない」


「ええ。ゴブリンたちは剣の錆にしてやりなさい」


 イブリスが息を巻くように言うと、俺はゴブリンたちに斬りかかる。


 レベルがたくさん上がったおかげで、アクア・ドレイクを倒した時よりも、格段に剣の腕は上がっていた。


 竜巻のような斬撃を浴びたゴブリンたちは次々と屠られていく。


 ゴブリンたちも負けまいと臙脂色の毒が塗られたナイフや短剣を突き出してきたが、俺には掠りもしなかった。


 こうして俺の前に立ちはだかったゴブリンたちは全員、血だまりに沈んだ。


「ゴブリンなんかじゃ、まるで歯応えが感じられないな。ゴブリン・ロードはもう少し強いと思いたいが」


 そう言うと、俺はマップを空中に表示させながら、村の奥にある森へと足を踏み入れる。


 獣道を通っていくと、あまり時間をかけずに洞窟の入り口を発見することができた。


「ここがゴブリンたちが住処としている洞窟みたいだな。まだ入り口なのに、酷い臭いが漂ってきやがる」


 岩肌にある洞窟の前まで来ると、俺は顔をしかめながら言った。


「私も鼻が曲がりそうだわ。やっぱり、ゴブリンなんて生かしておけるようなモンスターじゃないわね」


 イブリスも眉間の皺を寄せている。


 俺は悪臭を我慢しながら洞窟に足を踏み入れる。洞窟には光る石が幾つも転がされていて、視界の確保はできていた。


 そして、俺たちは洞窟の一番奥にいる、鎧で身を固めた不格好なゴブリンと相対する。


「お前がゴブリン・ロードだな。お前に恨みはないが、村人たちのためにも、ここで息の根を止めさせてもらうぞ」


 俺は剣の切っ先をゴブリン・ロードに向けた。


 ゴブリン・ロードは大きな槍を手に、猛然と俺へと突きかかって来た。が、鎧が重いせいか、全くスピードがない。


 身の丈に合わない立派な鎧が、ゴブリンが本来、持っている俊敏さを失わせていた。


 なので、迫り来る槍の穂先をかわすのも簡単だった。


 俺は拍子抜けしたような顔をすると、剣を一閃させる。


 その鎧を断ち割るような一撃で、ゴブリン・ロードの体は袈裟懸けに切り裂かれた。


 倒れたゴブリン・ロードはピクピクと痙攣している。


「こんなものか。ま、アクア・ドレイクに比べれば何てことはないモンスターだったし、これでロッシとの勝負は付いたな」


 俺がゴブリン・ロードの体を見下ろしながら、剣についた血のりを振り払っていると、背後から人の気配が近づいて来る。


「まさか、こんなに早く洞窟に隠れていたゴブリン・ロードを仕留めるとはな。Bランクになったばかり冒険者だと思って、お前を侮っていた」


 現れたのは能面のような顔をしているロッシだ。


「でも、これで俺の勝ちだろ?」


「そうかな。それなりに腕は立つようだが、モンスターの息の根を完全に止めない内に、気を緩めるのは頂けないぞ?」


「何だと?」


 俺は眉を持ち上げる。


 すると、いつの間にか起き上がっていたゴブリン・ロードにロッシの投擲したフレイム・ソードが突き刺さった。


 その瞬間、ゴブリン・ロードの体が勢い良く燃え上がる。ゴブリン・ロードの断末魔が洞窟内に響き渡った。


「これでゴブリン・ロードを倒したのは俺と言うことになったな。約束通り、エリシアは貰っていくぞ」


 丸焼けになったゴブリン・ロードの体からフレイム・ソードを引き抜くと、ロッシはニヤリと笑う。


 反対に俺は痛恨の表情を浮かべていた。


「幾らなんでも、それは卑怯すぎるんじゃないのか? ゴブリン・ロードを叩きのめしたのは、俺だったんだぞ?」


 俺は負け惜しみのようなことを宣う。


 今回は油断していた俺の方が悪いということを自覚しながら。


「そう言うと思ったぜ。なら、勝負の方法を変更してやる。今から俺と一対一の勝負をしろ」


 ロッシは炎を纏ったフレイム・ソードの切っ先を俺の方に向ける。


「お前と勝負だと?」


「そうだ。お前が勝ったら、約束通りの報酬をくれてやる。もちろん、エリシアにも手は出さない」


 ロッシは癇に障るような笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「だが、お前が負けたら、今後、エリシアとのあらゆる接触を禁止させてもらう。それで、どうだ?」


 ロッシは不敵な笑みを浮かべながら言った。


「分かった。受けて立とうじゃないか」


 俺は動揺を振り払って剣を構えた。


「その意気や良し、と言ったところか。やはり、お前は普通の冒険者とは、どこか違うな……」


 ロッシは気迫の籠った顔をして口を開く。


「では、行くぞっ!」


 そう叫ぶと、ロッシは炎を巻き上げるフレイム・ソードで斬りかかって来る。その剣を真っ向から受け止めると、俺はグッと唸る。


 フレイム・ソードから物凄い熱が伝わって来たからだ。


 俺は刀身が真っ赤になった鋼の剣を見て、長期戦は危険だと悟る。


 何度も打ち合えば、鋼の剣が壊れてしまう。


「どうやら、このフレイム・ソードの力を見て取ったようだな。魔法の剣ならともかく、ただの鋼でできた剣など簡単にへし折れるぞ」


 そう言うと、ロッシは炎の渦を纏ったフレイム・ソードで果敢に斬りかかって来る。


 Aランクの冒険者なだけあってロッシの剣の腕前もかなりのものだった。


「フハハハハ、さっきから防戦一方じゃないか! 威勢が良いのは最初だけか! もっと俺を楽しませて見せろよ!」


 ロッシはフレイム・ソードで俺の剣を何度も薙ぎ払う。


 俺は鋼の剣の刀身が歪んでいくのを見ながら、一か八かの攻撃に打って出ることにする。


「どうやら、ここまでのようだな。その鋼の剣じゃ、もう俺のフレイム・ソードとは打ち合えんぞ」


 ロッシは自信に満ちた顔で言った。


「打ち合う必要はないさ。次の一撃で勝負を決めるからな」


 俺は頬から汗を垂らしながらも、強気な態度で笑う。


「この追い詰められた状況で、一撃で勝負を決めるだと? ハッ、面白い! そんなことができると言うなら、やって見せてもらおうか!」


 ロッシが鬼気迫る顔しながらフレイム・ソードで斬りかかって来る。


 俺はレベルが上がることで習得した剣の技を使うことにする。


 これが通用しなかったら、俺の敗北は確定だ。


 だが、俺は自分の力を信じる!


「「「ライトニング・ペネトレイト!」」」


 俺がそう叫ぶと、流れるように繰り出された神速の突きがフレイム・ソード刀身にぶち当たる。


 その瞬間、フレイム・ソードはロッシの手からもぎ取られて、クルクルと宙を舞った。


「ば、馬鹿な……。こんな、こんなことが……」


 武器を失ったロッシはそう声を漏らして愕然とする。その喉元に俺はすかさず鋼の剣の切っ先を突きつけた。


「言っただろ、一撃で勝負を決めると。これで正真正銘、俺の勝ちだ!」


 俺は会心の笑みを浮かべながら、ガックリと膝を突いたロッシの顔に笑いかけた。


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