エピソード3.5 繰り返される世界
〈エピソード3.5 繰り返される世界〉
仮想世界のデータは《動画》のようなものだ。
動画は普通、最初から最後まで《決められた内容》の映像が流れる。
仮想世界で起こることも最初から最後まで《既に》決まっているはずなのだ。
そして、修一が仮想世界に入り、ドラゴンを倒せるくらい強くなるまでのデータは既に《完成》している。
康太は修一が活躍している部分のデータを《閲覧》し、その部分を切り取って、それを動画サイトにアップしている。
修一の行動を《リアルタイム》で見ているわけではない。
修一の冒険は既に終わっており、また《完結》しているはずなのだ。
後は確認したい《部分》をデータとして閲覧するだけ。
ところが、仮想世界のデータは初めから動かすと、決まっていたはずの内容が大きく《変化》することがある。
そこが普通の動画とは違うし、その変化も無視できるものではない。
動かしていない状態の《静》のプログラムと動かしている状態の《動》のプログラムは同じようで、その実、全く違うのだ。
少なくとも、プログラムを動かしている状態でなければ、仮想世界の住人は死んでいるのも同じだった。
一方、会社側は修一が仮想世界に入り、ドラゴンを倒せるまで強くなるデータを《繰り返し》動かしている。
動画で言うなら何度も《再生》しているのだ。
これは言うなれば、《ループ》。
修一は気付かない内に仮想世界で何度もループする生活を繰り返しているのだ。
その上、仮想世界と現実の世界では流れる《時間の早さ》も異なる。
康太も先日、動画サイトにアップした修一がドラゴンを倒す映像は何度も見ている。
が、仮想世界のデータを初めから動かす度に、《様々》な変化が生じる。
修一が辿り着く結末も、《マルチエンド》のように変わるのだ。
そこに康太は《未知》の可能性のようなものを感じていた。
とにかく、クライスター社は仮想世界を何度もループさせるように動かし、その度に起こる変化を《観察》していた。
◇◆◇
「繰り返される世界の記憶を保持しているのはイブリス様だけだ。にもかかわらず、あのお方は桂木修一の傍を一時たりとも離れようとしない」
修一の姿が映っているモニターを見ながら、白衣の老人、ライラス・ランフィールド教授は独り言ちる。
「あのお方が何を考えているかは、私と言えども、完全に理解することはできぬ。まあ、どんな好機を待っているかは想像がつくが……」
ライラスが顎をしゃくると携帯の着信音が鳴る。携帯を確認すると、メールでの報告が上がっていた。
「市内で殺人事件が頻発し始めたか。《元始の言葉》による侵食が始まった証拠だな。もはや、警察では手に負えんか」
ライラスは瞑目しながら言葉を続ける。
「このままでは【創造神】の軍勢も動き出す。そうなれば、この町、いや、この世界は消えてなくなるかもしれんな……」
ライラスは憂いのある顔で、モニターに映る修一の姿をじっと見詰めた。




