エピソード3 鋼の剣とミスリルの鎖帷子
〈エピソード3 鋼の剣とミスリルの鎖帷子〉
「ここが、王都で一番、品揃えが充実している武器屋か。本当にたくさんの剣が置かれているな」
俺は王都のメイン通りの一角にある武器屋の中にいた。
そこには多種多様な武器がずらりと並べられていて何とも壮観だった。
やっぱり、武器を見ると心が高揚するな。
「最低でも鋼の剣くらいは買っておいた方が良いわよ。今のところ、お金を出し惜しみする意味はないし」
イブリスは置かれている剣の刃を指でなぞりながら言った。
「鋼の剣か」
俺は顎に手を這わせながら呟く。
「ええ。ゴブリンたちと武器で打ち合えば、初期装備のアイアン・ソードなんてすぐにボロボロになるだろうし、耐久力のある武器が必要だわ」
無理してアイアン・ソードで戦う意義は見出せないな。
「そうだな。まあ、ミスリル・ソードは欲しいが、値段は八百万ルビスか。これはちょっと手が出ないな」
美しい輝きを放つミスリル・ソードは俺の心を捉えて離さない。
だが、あいにくと所持金で買えるミスリル・ソードはどこにも置かれていなかった。
「オリハルコンの剣なんて二千五百万ルビスだからね。チート・スキルがなかったら絶対に買えない値段だったわよ」
伝説の金属と言われているオリハルコンで作られた剣は、もはや美術品だな。
「ああ。となると、鋼の剣を買うしかないな。鋼の剣なら最上級の物でも百二十万ルビスで買えるし」
鋼の剣だって立派なものだ。
アイアン・ソードとは刀身から放たれる輝きが違うし、戦いの最中に折れると言う危険性はまずないだろう。
「防具も買っておいた方が良いんじゃないの?」
イブリスは金属の鎧が置かれている棚を指さした。
ここは武器屋だが、防具もそれなりに置いてあるんだよな。
「でも、防具は重たいからな。初期装備の皮の鎧でも、いざ、身に着けるとだいぶ動きづらくなるし」
戦いにおいて一番、大事なのはスピードだ。
攻撃力なら良い武器を装備することで簡単に補うことができる。が、如何せんスピードだけはどんな装備をしようと上げようがない。
装備が増えれば、スピードは失われる一方なのだ。
「なら、ミスリルの鎖帷子なんてどう? ミスリルは物凄く軽い割には、鋼よりも強度があるしオススメよ」
イブリスは美しい銀色の輝きを放つ鎖帷子の上に浮かんだ。
「じゃあ、ミスリルの鎖帷子も買うことにするか。二百五十万ルビスなら何とか買うことができるし」
「それが良いわね。後は重い防具が嫌なら、木と皮で作られたバックラーなんかも買っておくと良いわよ」
「バックラーは十万ルビスだし、買って置こう」
小ぶりな盾であるバックラーは、手で持つのではなく、腕に装着するタイプのものだ。
しかも、軽いので大きく動きを阻害される心配もない。
「エリシアは、レイピアが欲しかったんだよな。俺の所持金は百万ルビスくらい余るし、お金を出してあげても良いけど」
俺はその場に棒立ちしていたエリシアに声をかけた。
「そこまでしてもらうわけにはいきません。レイピアは自分でお金を溜めて買います」
エリシアの声と表情は硬かった。
「でも、今度のゴブリン退治は骨が折れるだろうし、武器は絶対に必要になると思う」
ここはつまらない意地を張るべきではない。
「そうよ。魔法だけじゃ、咄嗟の時に身を守ることができないわ。ここはシュウイチの言葉に甘えておくべきなんじゃないの?」
イブリスも会話に割り込むようにして言った。
「ですが……」
エリシアは何かに耐えるような顔をして俯いてしまう。
「同じパーティーの仲間なんだし、こういう時は助け合おうぜ。じゃなきゃ、またパーティー壊滅の憂き目にあうかもしれないぞ」
俺の背中を押すような言葉を聞いて、エリシアはふっと顔の表情を緩めた。
「分かりました。では、この場はシュウイチさんのご厚意に甘えることにします」
「それが良い」
「でも、借りたお金はちゃんと返しますから」
エリシアもその点は譲らなかった。
「分かった。ま、百万ルビスもあれば、けっこう質の良いレイピアが買えそうだし、エリシアがレイピアで戦っている姿は見てみたいな」
俺が煽てるように言うと、エリシアはふふっと笑った。
「そういうことなら、私の得意とする力は魔法だけじゃないことを証明してあげますね」
エリシアのレイピアを扱う腕前には期待しておこう。
「その意気だ」
俺は小気味よく言って言葉を続ける。
「これで所持金はほとんどなくなるし、是が非でもロッシとの勝負には勝たなきゃいけなくなったな」
ゴブリン退治のクエストは、ロッシたちと共同で取り組むという形になっている。
が、勝負に勝った方が、クエストの報酬を全て受け取れる約束になっているのだ。
その報酬の額は三十万ルビスなので、いざ渡されれば三千万ルビスにもなる。
それだけあれば、どんなミスリル・ソードだって買える。
「はい。私もあのような男性とパーティーを組むのは絶対に嫌です。だから、必ず勝ちましょう!」
エリシアは奮起するように言ったし、俺も心に並々ならぬ闘志が沸くのを感じた。




