エピソード2.5 バーチャル・マシン
〈エピソード2.5 バーチャル・マシン〉
「ライラス教授、このバーチャル・マシンはいつになったら世間にお披露目できるんでしょうね?」
スーツを着た四十歳くらいの男が、白衣の老人にそう声をかけた。
「分からない。が、仮想世界を作り上げているプログラムは最新のスーパー・コンピューターで動かしている」
白衣の老人、ライラスは淡々と言葉を続ける。
「もっと性能が低いマシンで動かすことができよるようにならなければ、仮想世界の一般的な普及は難しいだろうな」
この電算機室には冷蔵庫よりも大きいスーパー・コンピューターが三十台も並べられている。
が、仮想世界のデータが丸ごと収まっているメイン・サーバーのコンピューターはまた別の場所にあるのだ。
「そうですか。でも、まさか、このバーチャル・マシンのテストプレイに幼馴染の修一が選ばれるとはなぁ。奇遇と言えば奇遇だ」
修一と高校まで友人として接していた杉浦康太はモニターに映し出されている人間の体を見る。
その体は紛れもなく修一のもので、その頭には白くて近未来的なフォルムを持つ巨大なマシンが取り付け付けられていた。
それは、まさに人体実験と呼ぶに相応しい光景だった。
「バーチャル・マシンのテストプレイには危険が伴う。古い友人が実験に使われているとはいえ、つまらない私情は挟まないことだ」
ライラスはそう冷淡に言うと白衣の裾を翻して電算機室から出て行く。
「……修ちゃんよぉ。せめて大学くらいはちゃんと卒業していれば、人体実験に付き合わされるほど、苦しい生活は送らなかったはずだぜ」
康太は機械に繋がれた修一を見ながら独り言を続ける。
「推薦で身の丈に合わない大学になんて行かないで、素直に僕と同じ大学に進学しておけば良かったんだよ。そうすれば幾らでも助けてやれたのに……」
そう嘆かわしそうに言う康太は仮想世界の中で得られた映像の一部を動画サイトにアップしていた。
その配信されている動画によって生じる利益は修一の銀行口座に送金するようにしている。
これも修一の体を人体実験に使っている罪滅ぼしだ。
もちろん、仮想世界にいる修一から提供される有益なデータの報酬は、ちゃんと別口で支払っていた。
修一の両親も苦しい生活をしているようなので、そのお金は大きな救いになるだろう。
康太はもう一度、修一の姿が映るモニターを見ると、罪悪感に胸が押し潰されそうになりながら電算機室を後にした。




