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エピソード2 追放された第三王女と伯爵の子息

〈エピソード2 追放された第三王女と伯爵の子息〉


 ギルドの広間に辿り着くと、俺とエリシアは大きな掲示板の前に立つ。


 掲示板にはクエストを紹介する紙がところ狭しと貼られていた。


 この中から、自分に合ったクエストを見つけ出すのは、けっこうな苦労だ。


「良いクエストを選び取るのも冒険者に求められる技量だと言うからな。俺も早くクエストの目利きができるような人間になりたいもんだ」


 そうぼやきながら、俺が何か良いクエストがないか張り紙を見ていると、隣にいたエリシアの肩を一人の男がグイッと掴んだ。


 それを見て、俺は男の顔を睨みつける。


 女の子の体にいきなり触るなんて、どんな男であっても許せるものではない。


「よお、エリシア」


 漆黒の鎧を身に纏った金髪の男が粘り着くような声で言った。


「あなたは……」


 男の顔を見ると、エリシアは何とも不快そうな顔をする。


 互いに面識はあるみたいだが、友人というわけではなさそうだな。


「お前が引き連れていた仲良しこよしのパーティーが壊滅したそうじゃねぇか。それも、たかがアクア・ドレイクを相手によぉ」


 そう言って、せせら笑う男の後ろには立派な装備で身を固めた四人の男女がいる。一目で腕の立つ冒険者たちだと言うことが分かった。


「ロッシ様、死んだ仲間のことを侮辱するのは止めてください」


 エリシアがキッとした目をする。


「ふん、俺は本当のことを言っただけだ。で、今はそこにいる冴えない男とパーティーを組んでいるわけか」


 ロッシは俺が驚くような言葉を発する。


「地に落ちたな、王女エリシア」


「王女だって?」


 そう上擦った声を上げたのは俺だ。


 すると、ロッシと呼ばれた男が鼻にかけるような嫌な笑い方をする。


「お前、そんなことも知らなかったのか。なら、説明してやるが、その前に俺の自己紹介が必要だな」


 嫌味な男、ロッシは仰々しい身振りで言葉を続ける。


「俺はロンターナ伯爵の子息、ロッシ・ドォ・ロンターナだ。今は力試しをするためにAランクの冒険者パーティーのリーダーをやっている」


「貴族のボンボンってわけか。なるほど、どうりで態度がでかいわけだ」


 俺は意趣返しをするように言って、口の端を吊り上げた。


「口の利き方には気を付けた方が良いぞ、Bランクの冒険者、カツラギ・シュウイチ」


「どうして俺の名前を?」


「腕利きの情報屋を使えば、その程度の情報を掴むのはわけないさ」


 ロッシは得意げに言って、更に口を開く。


「まあ、そんなことはどうでも良い。説明するのはエリシアのことだ」


 ロッシはニヤニヤしながらエリシアの身の上話を始める。


「エリシアは父親である国王によって王宮から追放された第三王女なんだよ。追放された原因は、エリシアが他国の王子との縁談を受け入れなかったからだ」


 ロッシの言葉にエリシアは俯いた。


 俺もその衝撃の事実に、どう反応して良いのか分からなかった。


 その一方で、俺の隣にいたイブリスは、少しも驚いた顔をしていなかった。


「お前はエリシアが王女だってことを知ってたのか?」


 俺はイブリスの体を肘で突っつきながら尋ねた。


「さあね」


 イブリスは惚けたような顔をする。


 この顔を見るに、こいつはエリシアが王女だってことを知っていたんだろうな。


 でも、敢えて内緒にしておくことで、俺に新鮮な驚きを提供しようとしたのだろう。


 それもゲームの世界の醍醐味ってやつだ。


 ロッシは俺とイブリスのやり取りは無視して、話を続ける。


「馬鹿な女だろう。王子との縁談を受けていれば、今までと変わらない贅沢三昧の生活ができてたって言うのによぉ」


 ロッシは理解に苦しむように言ったが、結婚する相手を自由に選べないのはある意味、地獄かもしれない。


「ま、パーティーが壊滅したのは良い機会だ。エリシア、そんな男と組まないで、俺のパーティーに入れよ。悪いようにはしないぜ?」


 ロッシはエリシアの肩をポンポンと叩く。すると、エリシアはその手をサッと払った。


「お断りします。あなたのような男性と冒険者をやるくらいなら、私は初めから王子との縁談を受けていました」


 エリシアは豪胆な態度を見せながら、そう言い張る。


 それを受け、ロッシは今まで以上に嫌な笑い方をしたし、その顔には子供のような幼さが垣間見えた。


「言ってくれるじゃねぇか。なら、ここは一つ俺と勝負をしないか?」


「勝負?」


 オウム返しに言ったのは俺だ。


 いつまでも、エリシアを言葉のサンドバッグにさせておくわけにはいかなかったからな。


「ああ。この王都から、徒歩で半日ほど歩いた場所に、そこそこ大きな村がある。その村をゴブリンの集団が襲っているんだ」


「それは一大事じゃないか」


「ああ。確かにゴブリンは弱いが、それなりの数がいるとなると退治するのは面倒になる」


 その上、ゴブリンは厄介な毒も使うらしいからな。だから、イブリスもゴブリン退治には強い懸念を示していた。


「集団になった時のゴブリンの怖さは、俺も聞いている」


「なら、話は早いし、ゴブリンたちの軍団を率いているのは、武器だけじゃなく鎧まで身に着けたゴブリン・ロードだ」


「そのゴブリン・ロードは力だけじゃなく知性もありそうだな」


「そうだ。だからこそ、歯応えもあるだろうし、そいつをどっちが早く打ち取れるか勝負しようぜ」


 ロッシは挑発するように言って顎をしゃくった。


「勝負を受けるメリットがありません」


 きっぱりと言ったのはエリシアだ。


「メリットなら、それなりにあるさ。もし、俺が先にゴブリン・ロードを打ち取ったら、お前は俺のパーティーに入る」


 ロッシは腰に下げている剣の柄に手を置きながら口を開く。


「反対に、もし、お前とシュウイチが先に打ち取ったら、俺はレッド・ドラゴンの爪を鍛えて作った、フレイム・ソードを譲っても良い」


 フレイム・ソードの強さは俺の知識じゃ計れないな。


 ロッシは更に特典を追加してくる。


「ついでに、あらゆる場所で優遇的な措置を受けられる伯爵のメダルも渡してやろう」


 ロッシは首にかけられたメダルをこれ見よがしに持ち上げながら、ここぞとばかりに言い募る。


「フレイム・ソードの価値は三千万ルビス以上だ。伯爵のメダルはもっと価値がある。悪い話じゃないと思うんだがな」


 そう言って、ロッシは鞘からフレイム・ソードを抜き放つ。


 すると、刀身が轟々と燃え上がり、離れたところに立っている俺のところまで熱が伝わって来た。


 これには、俺たちの様子を遠巻きに見ていた野次馬のような冒険者たちもざわめく。


「良いだろう。その勝負、受けて立つ」


 俺はそう返答していた。


 フレイム・ソードにはあまり興味がなかったが、エリシアにこれ以上、難癖をつけられるのは嫌だったからな。


 下手に退くような態度を見せたりすれば、事あるごとに絡まれるだけだし、俺自身、売られた喧嘩は買う主義だ。


 少なくとも、昔の俺はそういう心意気を持っていたし、それは、今も変わってはいない。


 とにかく、生意気なロッシの鼻っ柱は叩き折ってやりたいな。


「良い度胸だ。気に入ったぜ」


 ロッシが喜悦を感じているような笑みを浮かべて言った。


「シュウイチさん!」


 エリシアは悲痛な顔で、俺の方を振り向く。


 俺が負けた時に自分がどうなるかを考えているような目じゃないな。


 察するに、自分のせいで、俺が面倒ごとに巻き込まれてしまったことに心を痛めているのだろう。


 俺も彼女のこういう優しさは気に入っているのだ。


「ここは任せて置け、エリシア。俺は絶対にこんな奴には負けない」


「ですが」


「大丈夫だ、俺の力を信じろ」


 アクア・ドレイクと戦った時にあった胆力と同じものが、今の俺の心の中にはあった。


 そうでなければ、こんなにも自信に満ちた態度は取れなかっただろう。


「……分かりました」


 そう言いつつも、エリシアは不安の拭えない顔をする。


 なので、俺も彼女に向かって不敵に笑って見せた。


 エリシアとパーティーを組んだ時から、何があっても彼女は守ってやると決めていたからな。


 その初志を忘れるようなら、エリシアと共にいる資格は本当にない。


「この程度のことで逃げているようじゃ、有益なデータを提供することなんて、できやしないからな。ちょうど良い肩慣らしだ」


 俺はゲームの開発者たちには、できるだけ良いところを見せなきゃな、と思いながら自分の心に闘志を漲らせた。


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