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エピソード1 仮想世界で迎えた朝

〈エピソード1 仮想世界で迎えた朝〉


「朝からこんなに美味しい料理が食べられるとはね。獲得する数値が全て百倍になるチート・スキルがあって本当に良かったな」


 俺は宿屋の一階にある広めの食堂で、朝食を食べていた。


 この宿屋は元々、エリシアのパーティーが拠点として利用していたのだ。


 かなり良い宿屋で一泊、二万五千ルビスも取られる。しかも、食事代は別と来た。


 もっとも、俺の所持金は五百万ルビスもあるので、その程度の支払いは苦にはならないが。


「言い忘れていたけど、この世界のお金の額と価値は、日本のお金に合わせられているのよ」


 イブリスは小さな口で果物のブドウを齧りながら言った。


「そうなのか?」


 俺はナイフとフォークを動かしながら、興味を感じているような顔をする。


「ええ。だから、ジュースは一杯、百二十ルビスくらいで飲めるし、普通の食事なら千ルビスくらいで済ませられるわ」


 俺が今、食べている朝食は少し高めの千二百ルビスだ。


 だから、味の方も文句はない。


「それなら、ギルドから渡された報酬が百倍になってなかったら、生活には結構、困っていたかもしれないな」


 俺はベーコンエッグを口に運びながら言葉を続ける。


「仮想世界でも普通に腹は減るし、夜になると眠りたくもなるから」


 他にも、トイレに行ったりもしなければならない。


 この仮想世界の開発者には、そんなところまでリアルにする必要があったのか、と問いかけたくなるな。


「そうね。少なくとも所持金が五万ルビスだったら、こんなに良い宿にはおいそれと泊まることはできなかったわね」


「その通りだな。ま、今はチート・スキルとかは気にせずに、地道にコツコツとギルドのクエストをこなすさ」


「それが良いわね。テストプレイの期間は限られてるし、有益なデータを会社に提供するためには、悠々自適な生活をしているわけにはいかないわ」


 イブリスの言葉に俺も真剣な顔で頷く。


「まあ、幾らこの世界で大金を手に入れても、それを現実の世界に持って行けるわけじゃないからな」


 ちなみに、アクア・ドレイクを倒した経験値を手に入れた俺のレベルは五から十八になっていた。


 だが、ステータスはレベルに見合ったものになっている。


 イブリスが言うには、《獲得する数値》と《上がる数値》は別々の処理のされ方をしているらしい。


 なので、経験値などの獲得する数値は全て百倍になるが、逆に上がる数値に当たるレベルやステータスは百倍にはならない。


【創造神の加護】も全ての面でチートぶりを発揮してくれるわけではないのだ。

 

「おはようございます、シュウイチさん。昨日は私のために、こんなに高い宿に泊まってくれてありがとうございました」


 朝食を食べているとエリシアが桃色ブロンドの髪を揺らしながらやって来る。


「別に良いさ。エリシアは大切な仲間を失ったんだ。悲しみに暮れる君を一人にさせておくほど俺は朴念仁じゃないよ」


 女性の扱い方なんて心得てはいない。


 が、それでもエリシアの傍を離れてはいけないということだけは分かっていた。


 それすら分からないようなら、俺は本物のクズ男になってしまう。


 そんな男になることだけは、断じて許すわけにはいかない。


「そうですか。でも、シュウイチさんがお酒に付き合ってくれたおかげで、私も心を持ち直すことが出来ました」


 エリシアは口元を綻ばせながら言葉を続ける。


「今日から気持ちを新たにして、またギルドのクエストをこなしていきます」


 そう口にするエリシアの目にもう暗い影はなかった。


「それができるなら良いんだ。でも、無理はしなくて良いし、辛い時は辛いって言ってくれよな」


 俺としても可愛い女の子に頼られるのは悪い気はしないからな。


 もっとも、幾ら外見が若いとはいえ、俺は大人、それも中年の男だ。


 なので、エリシアのような年端も行かない少女に手を出したりはしない。


 あと、この国では十五歳以上なら誰でもお酒が飲める。


「分かっています。でも、今は亡くなった仲間の分まで、頑張りたいんです」


「なら、俺も付き合うよ。俺たちは一緒にパーティーを組んでいるんだからさ」


「そうですね。私もアクア・ドレイクとの戦いでレイピアに罅が入ったので、新しいレイピアを買えるように頑張ります」


「そうか。俺ももっと良い武器が欲しいよ」


 俺は手持ちのアイアン・ソードでは心許ないものを感じながら更に口を開く。


「五百万ルビスもあれば良い武器も買えると思うし、メイン通りにあった武器屋も覗いてみるかな」


 そう言うと、俺は剣を目に見える形で陳列していた立派な武器屋のことを思い出す。


 イブリスが言うに、鋼の剣はそこそこの質の物でも一本、三十万ルビスもするし、良い物は八十万ルビスもする。


 ミスリル・ソードに至っては普通の物でも、一本、三百万。良い物だと八百万ルビスもするらしいのだ。


「その武器屋なら私も知っています。信頼の置ける良い武器が売られていますよ」


「そいつは良かった」


「はい」


「まあ、イブリスも冒険者の格は持っている武器で決まるとも言っていたからな。ギルドの連中に馬鹿にされないためにも立派な剣が買うか」


 武器のことばかり考ながらぼやく俺だったが、一応、防具のこともちゃんと考慮している。


 ただ、鎧も金属製の物は百万ルビスを超えるものがほとんどなのだ。


 鎧の下からでも身に着けられる鎖帷子は安い物なら十五万ルビスくらいで購入することができるようだが。


 と、言うような話を昨日の夜、宿屋の部屋でイブリスに教えてもらった。


「やっぱり、Bランクの冒険者ならミスリル・ソードくらいは持ってないと箔が付かないわよ、シュウイチ」


 イブリスの言葉に俺も乗せられる。


「箔ねぇ。そういうことなら、尚更、武器には金を惜しまないようにしないとな」


 俺はワクワクするものを感じながら、朝食を食べ終える。


 それから、もう少しじっくりとクエストを紹介する張り紙を見たいと思い、またギルドに行くことにした。

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