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エピソード2 未来を変えるために

〈エピソード2 未来を変えるために〉


「遅刻ギリギリだぞ、桂木」


 教室に入るとホームルームを始めようとしていた教師がそう言った。


「すみません」


 俺は担任の教師である小林先生のことを思い出しながら頭を下げる。


「さっさと席に着け。これから、来週の日曜日に行われる体育祭の話をしなきゃならんからな」


「はい」


 小林先生の声を聞いた俺は窓際の一番後ろにある自分の席に着く。


 先生も懐かしく思えて仕方がない体育祭の話を始めた。


 しかも、先生は走るのが早い俺に、リレーの走者になってくれと言ってきたので、俺も困ってしまった。


 そして、休み時間になると、俺の席に子供の頃の康太がやって来る。


「生活態度には人一倍、気を遣ってる修ちゃんが、遅刻しそうになるなんて珍しいじゃん」


 未来の康太と何ら変わらない今の康太の声を聞いて、俺は涙すら流しそうになった。


 が、いきなり泣いたりするのは恥ずかしいので、必死に涙を堪える。


「まあな。でも、ギリギリセーフだったから良いだろ」


「そうだけど、昨日は徹夜でゲームでもしていたのかい?」


 康太はニマニマと笑いながら言った。


「お前じゃあるまいし、違うって」


「美少女ゲームを嗜んでいる時点で、修ちゃんだって、僕と同じ立派なオタクだろ」


「それはそうだが」


「ま、良いさ。ところで、何でそんなに難しい顔をしているんだい? 何かあったって、顔に書いてあるよ」


 康太の洞察力は大したものだ。


 俺よりもよっぽど頭が良いのに、こいつは家から近いからというだけで、そこまでランクの高くない三崎大学を選んだ。


 それをかつての俺も大いに惜しんでいたのだ。


「突然で悪いが、お前に大事な話がある。昼休みになったら、一緒に屋上に行こう」


 俺は掌が汗ばむのを感じながら言った。


「別に構わないけど、今じゃ駄目なの?」


「誰かに見られたくないんだ」


「その顔を見るに、かなりヤバイ感じの話に思えるね。でも、犯罪に関わるような話なら乗らないから、そのつもりで」


 康太は持ち前の鋭さで、すぐに俺がする話の重要性を察したようだ。


「分かってる」


 俺は目力を最大にして返事をした。


「なら、今日の昼ご飯は、屋上で食べることにしよう。本当は食堂で大盛のカツ丼が食べたかったんだけどね」


「悪いな」


「別に良いさ。購買で売ってるカレーパンも、なかなかに捨て難いからね」


 この時の康太は小太りな体形をしていた。なので、食べ物にも目がなかったんだよな。


 大学に進学してから急に瘦せたと聞いているが、女にでもモテたくなったのか?


 その後、午前中の授業が終わり、待ちに待った昼休みになる。


 授業の内容はまるで頭に入らなかったが、今の俺にとっては些末なことだ。


 俺は康太と連れ立って、誰もいない屋上へとやって来る。


 日差しがきつい屋上は、まだ夏の気配が消えていなかった。


「で、屋上に来たけど、話って何なのさ?」


 どこまでも広がる蒼穹の空をバックに、俺は重い口を開く。


「お前、元始の言葉って知ってるか?」


「知ってるよ。世界各地の遺跡で発見されている謎の言葉だろ。修ちゃんの口から、その名前が聞けるなんてね」


「そうか。やっぱり、知っていたか」


 未来の康太が、なぜ、俺をこの時代にタイム・リープさせたのか。


 その意図みたいなものを何となく理解することができた。


 たぶん、今の康太でなければ正しい判断ができないのだと、未来の康太は考えたに違いない。


「ま、考古学マニアの僕なら知っていて当然の知識だけどね。僕は将来、考古学者になって世界中の遺跡の発掘に携わるつもりだから」


 この浮かれている康太には、ガツンと言ってやらなければならない。


 それが俺の使命だ。


「システム・エンジニアとかには興味はないのか?」


「一応、そっち系の道も模索はしているよ。僕はコンピューターのプログラム関係にも強いからね」


「そうだったな」


 この頃の康太は自作のノベルゲームを完成させたって喜んでいたっけ。


「そろそろ、本題に入ってくれないか、修ちゃん。さっきから、空腹でお腹が鳴りっぱなしなんだ」


 康太は痺れを切らしたように言った。


「分かった。なら、これを見ろ」


 俺はファイアーボールの魔法を使用して、掌に炎の玉を作り出した。


「掌から炎を出した! これって何の手品?」


 康太は怖々とした顔で、炎の球を矯めつ眇めつする。


「信じられないかもしれないが、これは魔法だ」


 俺は揺るぎのない芯の通った声で言った。


「そんなアホな」


 康太はどうしても信じることができないのか、据わった目をする。


 なので、俺も今度はアクア・ジャベリンの魔法を使って、水の槍を生み出して見せる。


 水の槍は空中でプカプカと浮いていた。


「今度は水の塊が出てきた! 確かに、これは魔法だよ!」


 さすがの康太もびっくりして腰を抜かしそうな顔をしていた。


「信じてくれたか」


 俺は水の槍を生き物のように動かしながら言った。


「うん。でも、こんな力をどうやって手に入れたんだい、修ちゃん?」


 康太は当然の疑問をぶつけて来る。


「これからする説明をよく聞いてくれ」


 俺は全ての事情を康太に語って聞かせた。


「そんなことって……」


 全ての話を聞いた康太は血の気が引いたような青い顔で言った。


「信じられないのも無理はないが、全て事実だ」


 ここは、何としてでも事実として、受け入れてもらわなければならない。


 でなければ、未来の康太の意志が無駄になる。


「そうか。なら、僕は元始の言葉の扱いにもっと注意を払えば良いのかい?」


「その通りだ。読み方や発音の仕方すら分からなかった元始の言葉を解読できたのは、お前の功績らしいからな」


 世界中にある研究チームでも元始の言葉の解読はできなかったのだ。


 その解読を成功させた康太は凄いとしか言いようがない。


 もっとも、そのせいで、元始の言葉の力を独占していた魔法使いの秘密結社に命を狙われたりしたらしいが。


 まあ、それはまた別の話だ。


「そりゃ凄い」


 康太は上擦ったような声で言った。


「ああ。だからこそ、その元始の言葉で仮想世界を造ろうなんて絶対に思うな。そんなことをすれば、また世界が滅びることになる」


 創造神の裁きの鉄槌が、今のこの世界に振り下ろされない保証はない。


「分かったよ」


 康太は今までに見せたことがないような真剣な顔で頷いた。


「なら、これから一緒にライラスさんのところにも行こう。ついて来てくれるな?」


 俺一人では、さすがに心細い。


「もちろんだよ。漫画やアニメのような壮大なスケールの話に巻きこまれているんだ。ここで途中下車するつもりは毛頭ないよ」


 康太の言葉は実に頼もしかったし、こいつが親友で本当に良かったと思う。


「この頃のライラスさんは三崎大学で、教授職を務めているはずだ。自分の国とかに戻らない内に話を付けて置かないとな」


 そう言うと、俺と康太は学校を抜け出して、三崎大学へと向かった。


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