エピソード2.5 救われた町
〈エピソード2.5 救われた町〉
留美たちはセーフティー・ゾーンに攻め込んできたモンスターたちと懸命に戦っていた。
が、モンスターの数はあまりにも多かった。
もう、ラズエルやサマエルの力だけでは、セーフティー・ゾーンにいる人たちを守りきれなくなっていた。
このままでは、また、たくさんの人たちが死ぬことになる。
どうにもならない。
ところが、そのモンスターたちが急にフッと掻き消えてしまったのだ。まるで夢、幻だったかのように。
これには留美たちの傍に居た国連の部隊も驚き惑っていた。
留美も幻覚でも見せられているのかと自分の正気を疑ったくらいだ。
「見ろよ。モンスターたちが一匹残らず消えちまったぞ」
ラズエルはモンスターが血だらけで倒れていた場所を見る。が、そこには、もう血の跡すら残ってはいなかった。
「修一さんがやってくれたんだ!」
留美は花でも咲かせるような笑顔で言った。
「でも、そうなると修一は死んでしまったってことか……」
ラズエルがしょんぼりした顔で下を向く。
「自分の命と引き換えに、この町、いや、この世界を救ってくれたんだよ」
モンスターとの戦いでは一番、力を振るっていたサマエルがそう言った。
「おいらたち天使が動いていながら、ただの人間に全てを背負わせてしまうなんて」
ラズエルは猫の足で地団駄を踏んだ。
「修一なら神が救ってくれるさ。だから、僕たちは僕たちの仕事をしよう。それが、修一に対する弔いになる」
サマエルの声には、狡猾だと思われる蛇には似つかわしくない温かみがあった。
「本当にそう思えるのか、サマエル」
ラズエルは煮え切らない態度で言った。
「僕と修一の出会いは偶然なんかじゃなかったのかもしれない。神は最初であり、最後でもある。創造神なら、全ての結末を見越していたんじゃないかな」
サマエルの何かを悟ったような声は青い空へと吸い込まれていく。
「結局、全ては神の掌ってやつか」
ラズエルは不満を滲ませながら言った。
「だと思うよ」
サマエルはひょうきんな顔で首を竦めた。
「私が再び修一さんと会う未来はあるのかな?」
二人の会話に口を挟んだのは留美だ。
「あると思わなければ、やってられないだろ」
ラズエルは心の底から悔しがっているような声で言った。
「うん。僕たちにできることと言ったら、修一や留美の家族を救い出すことだけさ」
サマエルの言葉を聞いて、留美は自分たちの戦いはまだ終わっていないことを再確認させられる。
修一が命を張って救ってくれた世界を良いものにするのは、この世界の人間に架せられた命題だ。
「ああ。日本政府には高い代償を払わせてやる。もちろん、日本政府に与した連中にもな」
ラズエルは鬱憤を晴らすように獰猛な笑みを浮かべた。
「まだまだ仕事は山積みってわけだね」
サマエルはとぼけたような声で言った。
「そういうことだし、これから、みんなで自衛隊の本部に殴り込みをかけに行くぞ」
息を巻くラズエルはセーフティー・ゾーンの外へと足を踏み出す。
それを受け、留美はおもむろに天を見上げる。
「……修一さん、本当にありがとう」
留美は抜けるような青い空を見詰めながら、修一に対する感謝の念を祈るように口にした。




