エピソード3.5 別れ
〈エピソード3.5 別れ〉
「行っちまったな……。せっかく再会できたんだし、お前は一緒に行かなくて良かったのか?」
ラズエルが棒立ちしている留美に向かって、そう言葉を投げかけてきた。
が、修一の後姿を見送っていた留美は、すぐには反応できず、少し間を置いてからポツリと言葉を漏らす。
「……私には私の戦いがある。だから、お母さんたちを助け出すことに尽力するよ」
留美は今の自分が修一と一緒に居ても、足手まといになるだけだということを悟っていた。
だから、ついて行きたいという衝動を押し殺し、断腸の思いで送り出したのだ。
「そうか。それが分かっているなら、おいらが文句を言える義理はないな」
ラズエルはフワリとした優しげな笑みを浮かべた。
「でも、これが今生の別れになるかもしれないし、もう少しだけ、話していたかったな」
それが隠しきれない本音だった。
「お前、修一に惚れたのか?」
ラズエルの言葉にはからかいの響きがあったが、留美は否定しない。
「かもしれない。だって、今の修一さんは本当に格好良いし、好きになっても全然、恥ずかしくないよ」
修一は自分が会いたいと思っていた通りの人間だった。
いや、自分の理想など完全に超えていた。
そのおかげで、自分の心がどれだけ前向きなものになったか分からない。
「でも、あれは幻のようなものだぞ。どんなアクシデントで消失してもおかしくない危うい存在だ」
本当の修一は生体コンピューターになっているし、もう人として生きているとは言えない。
「分かってるよ。それでも、私は修一さんと会えて嬉しいの。この想いは、誰にも否定させないよ」
留美の目に揺るぎはなかった。
「そっか。まあ、イブリス、いや、サタンに勝っても負けても、修一には絶望的な未来しか待っていない気がするな」
ラズエルは天を仰ぎながら言った。
「だとしても、修一さんはやるべきことはやってくれるよ。私には分かる」
今の修一は物語に出て来る勇者みたいに思える。
おそらく、自分の命を犠牲にしてでも、この事態を収めてくれるに違いない。
それが分かっているからこそ、留美も余計なことは言わずに笑顔で送り出した。
心の中では修一に全ての重荷を背負わせている罪悪感を感じながら。
「そう思いたいところだし、そろそろ、おいらたちも行動を起こそうぜ。一天使として、人間ばかりに良い恰好はさせられないからな」
ラズエルは気合を入れ直したような声で言った。
「うん。じゃあ、さっそくセーフティー・ゾーンがあるっていう場所に行くよ」
「お前や修一の家族を助けるためだな?」
安全な場所に引き籠るためではないことはラズエルも分かっていたようだ。
「そうだよ、国連の部隊や天使たちには、お母さんたちを助ける協力をしてもらわなきゃならないからね」
留美は自分にできる戦いをしなければと思いながら、決意の眼差しで、その場を後にした。




