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エピソード3 明かされた真相

〈エピソード3 明かされた真相〉


「サマエルから聞いたぞ。危ない目に遇いながらも、ずっと俺を探してくれたらしいな」


 俺は泣き止んだ留美の両肩を掴みながら言った。


「私にはそれしかできなかったから……」


 留美は涙を何度も拭いながら言葉を吐き出す。


「でも、大した行動力だし、どうして俺なんかを探してくれたんだ?」


 彼女が危険を冒してまで俺を探す理由はないはずだ。


 血の繋がった親戚ではあるものの、言葉を交わした記憶はほとんどないし。


「分かりません。ただ、修一さんの部屋の掃除をしていたら、だんだん修一さんがどんな人なのか知りたくなったんです」


「あの汚い部屋を掃除してくれたのか。こいつは感謝しないといけないな」


 俺は頭の後ろに手を回すと苦笑いをした。


 まあ、見られて困る物は置いてなかったはずだから、別に良いけど。


「感謝なんていりません。私も修一さんのお母さんから、たくさんお小遣いをもらいましたし」


「そっか。でも、せっかく掃除してもらったのに、アパートは焼けちまったな」


「火事があった時、ノートパソコンとスマホは一応、持って出たんです。でも、ノートパソコンはモンスターに壊されてしまいました」


 留美は俺のスマホを差し出してくる。が、充電をしていなかったせいか、画面には何も映らなかった。


「別に気に病む必要はないぞ。パソコンには大事なデータなんて入れてなかったし、ちょうど買い替えようと思ってたところだ」


「そうですか」


 留美はほっとしたような顔をした。


 事情はどうあれ、俺のせいで留美には無理をさせ過ぎてしまったようだな。


「俺もお前とはもっと話しておくべきだったって思うよ」


 俺はアメイヤを相手にしている時のように留美の頭を撫でながら言葉を続ける。


「でも、俺は無職のニートだったし、親戚とはいえ、可愛い女の子に声をかける勇気はなかったんだ」


 祖母の葬式には恥ずかしさを堪えて何とか出席できた。が、それ以降の親戚の集まりには、もう顔を出す気にはなれなかった。


 自分が親戚の連中にどう思われているのかは知っていたし。


「そうですか。私もこんなことがなければ、修一さんの存在を身近に感じることもなかったかもしれません」


「だろうな」


 こういう時に、血の繋がりの大切さを実感させられる。


「修一さんの家族も私の家族も自衛隊に連行されてしまいました」


 留美は口を引き結びながら言った。


「助けには行きたいが、モンスターならともかく武装した自衛隊とは戦えないな」


 銃やロケット砲が相手では、さすがに分が悪い。


 魔法の力を使えば応戦はできるが、それをやれば俺は人殺しになる。


 この世界で、罪人になることだけは避けたい。


「家族は私たちが助けます。これから、国連の部隊や天使たちがいる場所に向かうつもりなので」


「大丈夫か?」


「ラズエルたち天使の力があれば、きっと大丈夫です」


「だと良いんだけどな。あいにくと、俺には天使たちが味方なのかどうかが、今一つはっきりとしないんだ」


 俺がそう言うと、金色の猫がにんまりと笑う。こいつが、サマエルの言っていた天使の同僚のラズエルか。


 留美をここまで連れて来れたのなら、今後の行動も任せて良さそうだ。


「そうですね。とにかく、私もこの事態を引き起こした杉浦康太さんから詳しい話は聞いています。まずは杉浦さんの話を聞くのが先決かと」


「康太が一体、何をしたって言うんだ?」


 俺はいきなり高校時代の親友の名前が出てきたことに戸惑う。


「それを説明するためにも、杉浦さんは修一さんにメニュー表にあるマスター・コールを起動させて欲しいそうです」


「マスター・コールか。そういえば、メニュー表にそんな項目もあったが、結局、今日まで一度も使わなかったな」


 俺はメニュー表を出すと、マスター・コールの項目を見つける。それから、緊張しながらマスター・コールのアイコンをタッチする。


 その瞬間、空中に浮かぶタブに男の顔が映り、音声も聞こえてきた。


「よう、修ちゃん。こうやって話すのは高校の卒業式、以来だな」


 白衣を着た中年の男がにこやかに言ったし、こいつが現在の康太か。


「そうだったか? もう随分と昔のことだし、俺はお前の顔も憶えちゃいないよ」


 でも、康太の柔和な表情には懐かしさが感じられるな。


「だろうね。僕としては同窓会くらいは出席して欲しかったよ。僕も修ちゃんに会えるのを楽しみにしていたんだぜ」


 康太は砕けた感じに言って、ニヤッと笑った。


「勘弁してくれ。同窓会なんて、恥の上塗りをしに行く場所だ。特にクラスメイトだった女には絶対に会いたくない」


 そもそも、同窓会の誘いがいつ来たかも、記憶にないんだよな。


「そう言うと思ったよ。でも、まずは謝りたい。修ちゃんの体を勝手に人体実験に使ったことを」


 康太の表情が打って変わって厳しいものになった。


「別に良いさ。おかげで面白い体験がいっぱいできたからな。むしろ、体の治療をしてもらったんだから感謝しないと」


「そう言ってもらえると、僕も救われる。でも、ゲーム好きだった修ちゃんなら、あの世界を気に入ってもらえると思ってたよ」


「そうだな。あの世界で得たものは大きいし、俺も人生観が変わったよ」


 エリシアやアメイヤなどの存在は特にそうだし、あの世界は、俺にかけがえのないものをたくさん与えてくれた。


「僕もあの世界で成長していく修ちゃんを見られて、本当に嬉しかったよ」


「そっか」


 恥ずかしい場面を見せた憶えはない。だから、監視されるように見られていたとしても、別に怒るようなことではない。


 行動データの提供は、俺も初めから承諾していたわけだし。


「うん。修ちゃんの活躍する姿を見ていると、あの世界を造って良かったと心から思うことができる」


 康太の言葉は自分に言い聞かせているようだった。


「お前の言いたいことは分かった。が、あまり時間があるとは思えないし、そろそろ全ての事情を説明してくれないか」


 時間が経つほど状況は悪くなるような気がする。


 久しぶりの再会だし、世間話に興じるのも良いが、本題を忘れてはいけない。


「分かったよ」


 康太は顎を引いて頷くと、今までの経緯を詳細に説明し始めた。


「なるほどな。メイン・サーバーとなっている俺の脳を破壊すれば、モンスターたちも消えるかもしれないってことか」


 今の俺は雲を掴むような話を聞かされ、感情が麻痺してしまっていた。


「この件については本当に悪かったと思ってる」


 康太は頬を掻きながら説明を続ける。


「でも、修ちゃん脳は大きなダメージを受けていたし、そのままなら、一生、目を覚まさなかったかもしれないんだ」


「それで、俺の脳を最先端の技術で、生体コンピューターに改造したってわけか」


 それはさすがに、法律を無視しすぎているだろう。もし、表沙汰になったら、警察に逮捕されるぞ。


「ああ。修ちゃんの脳は生体化した量子コンピューターになり、仮想世界の全ての情報を収めることができる巨大サーバーになったんだ」


 人間の脳を利用して造られた量子コンピューターの性能は、凄いものがあるみたいだな。


「事情は理解した。俺の脳を勝手に弄くったのは業腹だが、こうして俺は五体満足に生きている。だから、許してやるよ」


 俺は不思議と怒りを感じなかったので話を進める。


「でも、やっぱり、イブリスはサタンだったんだな」


「気付いていたのかい?」


「イブリスという名前を聞いた時から、何となく疑ってはいたよ」


 伊達に聖書を熟読していたわけではない。


 イブリスはイスラム教では悪魔を指す名前だし、キリスト教ではサタンを意味する。


 イブリスという名前を聞いた時から、絶対に何か裏がある奴だとは思っていた。


「そっか」


「でも、イブリスは仮想世界にいた時の俺を本当に良く支えてくれた。だから、敵だとは思いたくなかったんだ」


 イブリスの親切心が嘘だったとは、どうしても思えない。


「僕もイブリスを根っからの悪者だとは思っていないよ。責められるべきは彼女を中途半端な形で生み出し僕たちだ」


「イブリスの怒りようが目に浮かぶな」


 イブリスはプライドの高い奴だったし、勝手に自分を生み出した康太たちを恨んでいても何ら不思議ではない。


「だろうね。何にせよ、イブリスは修ちゃんの本当の体があるサーバー・ルームにいるはずだ」


「サーバー・ルームね」


「うん。この町にモンスターが現れ出した時から、イブリスは誰も入れないようにサーバー・ルームに強力な結界を張っていたし」


「俺の本当の体があるサーバー・ルームは第二本社ビルの地下にあるんだったな」


 クライスター社の本社ビルは景色から消えていた。以前だったら、ここからでも、本社ビルを眺めることはできたのに。


 モンスターにビルを破壊されても、康太が無事でいてくれたのは僥倖だったな。


「ああ。本当の体の脳が破壊されれば、イブリスも消える。でも、今の修ちゃんも消えるかもしれないんだよ」


「ヘビーな話だ」


 俺は思わず嘆息していた。


「久しぶりに聞いたな、その口癖。確か、有名なタイムトラベルの映画に影響を受けたんだよね」


 康太は憧憬を感じているように笑った。


「そうだったな。お前もそんな小さなことまで、よく憶えているよ」


 俺のことをそこまで詳細に憶えていてくれる康太には、他の人間にはない親しみを感じる。


「僕は思い出を大切にする人間だからね」


 康太は微苦笑しながら言葉を続ける。


「だから、高校生の時と変わらぬ姿をしていられる修ちゃんが羨ましいよ。僕なんて、もう中年のおっさんだし、結婚だって一度もしたことがないんだ」


「良くも悪くも、お互い歳を取ったな。でも、お前とは昔みたいに親友同士でいられると思いたいが」


「うん。僕は今でも修ちゃんのことを親友だと思ってるよ」


 康太の澄んだ声を聞いた俺は柄にもなく目頭が熱くなるのを感じた。


「そっか。とにかく、俺はイブリスに会いに行く。元の体の脳を破壊できるかどうかは、土壇場になってみないと分からない」


 俺を支え続けてくれたイブリスと戦うことになったらと思うと背筋が寒くなる。


 だから、話し合いで解決できることだと思いたい。


「それで構わないよ。悪いのは全ての原因を作った僕やライラス教授だ。結果、サタンによって世界が滅ぼされたって文句は言えないさ」

 

 そう嘯くように言うと、康太の上半身が映っていた映像はスーッと薄れて消えた。

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