30. デシレの実
今、湖から一体のカラクリアン、ヘビンが這い出てきた。
土器から作った新たなヒト――最初のヒト、カワラケが湖の近くの森にいる。
その離れたところで木の実をとっているもう一人、カワラケノアバラにヘビンは近づいた。
「やあ、お嬢さん。美味しそうですね」
「はい。これはとてもおいしいです」
「ちょっと、見て。あっちにあるあの黄金に煌めく木の実はもっと美味しそうですよ」
「あれはだめです。あのデシレのミは、けっしてたべてはいけないと、かみさまがおっしゃいました」
「えー? 本当にそんなことおっしゃいました?」
「ほんとうです」
「どうして食べてはいけないと?」
「それは……かみさまはただ、たべてはいけないと」
「なるほどねえ。それはきっと、あの実は凄く凄く美味しいから、神さまが独り占めするために、言ったんじゃないかなあ」
「え?」
「ひとりで食べるために、あなたたちには食べるなと」
「……そんな」
「デシレの実。食べてみればわかりますよ。美味しいのがわかります」
「まさか……」
「さあ、食べてみればわかります」
* * *
わかっていて,新たな世界の創造神オルガは彼らを見ていた。
人類最初の〝罪〟。
その繰り返しを、オルガは見ていた。
――試してみるがいい。
果たして同じようになるのか。
ならないのか。
しかしまた新たなヒトたちがいずれ欲望の果てに悩み、心の行き場を失ったとき、救済を求め、わたしをさがすだろうか。
わたしと繋がろうとするだろうか。
わたしは彼らを見ている。
わたしは彼らと、この宇宙の記録を見ている。
どうか彼らも、わたしを見ていてほしい。
【おわり】




