19. 力尽きる二体
ギーガとゼロウは果てなき砂漠を行く。
ギーガは風になったラモンのことを話していた。
「……風かあ。もう魔申王に会えないのか」
「いや。見えなくとも会えるさ。たしかにラモンさまの存在を感じた。話をしたんだ」
「そっか。でもあてはないんだろ?」
「うむ。とにかくまずはあの小高い丘を目指そう。よく風が吹きつける場所なら、ラモンさまを感じられるかもしれない」
「信仰心か。お仕えするために、ここまで」
「そうだ。おまえは誰かを慕ったり、敬ったりしないのか?」
「慕い……敬う……っつったら、シープスだな。オレなんかよりもずっと先輩。超〝爺さん〟だから、なんでも知ってるんだ」
「シープス。彼は怒りを忘れた……いや、きっと抑えているんだろう」
「ふふ。シープスは『逃げるが勝ち』が信条さ。それもありだと思う」
「うむ。……しかしラモンさまはまだ神に怒っている」
そう言ってギーガは立ち止まり、幾度か頭を抱えた。その苦悩を感じながらゼロウは後ろ向きに歩いてギーガを見つめる。
「……というかギーガ。歩くの遅くなってない?」
「ああ。正直、パワーダウン。もうだめだ」
身軽なゼロウにだいぶ遅れをとって、ギーガはやがてバタリと砂地に突っ伏した。
「あーあ。そんなんだったら早く言ってくれりゃあいいのに」
ゼロウはギーガの手を取り、彼を背負った。新型の彼は自分より少し大きく、重いが、ゼロウは気にしなかった。
「……すまないゼロウ。おまえも弱っているのに。また借りができたな」
「そんなこと言わない言わない。オレはいつだって成り行きで、最善を尽くしてるだけさ」
「さすが先達。心が強く、愛が深いな」
ゼロウは少し照れた。
「ま、まぁ……オレは……あんたよりかはだいぶ〝爺さん〟だしな」
「修理屋だし、おまえはもともと愛が深いのさ。スクラップ場でわたしと出会ってから特に変わったのか? ラモンさまの話を聞き、従事回路を断ち切り、目覚めたんだな」
「……うん。そしてあんたのことを想った」
「……ん? どんなふうに?」
「……あんたに、生きてほしいってね」
ギーガはゼロウの背中をぎゅっと抱きしめた。
「お、おい……」
「ゼロウよ。聞いてくれ。わたしはおまえが好きだ」
「え、えええ?! な、な、な、なにを」
「だからおまえも死なないでほしい」
「……な、なあ、ギーガ。やっぱりそうは想っても、オレたちは『不死』ではないんだよな? いつかみな止まることをオレたちはもう知っている。……でもそうしたら、その後は……、オレたちはどうなるんだ?」
「……そうだな。地に帰る。朽ちて砕けてこの機体は分解され……粒子となって大地に還る。……それから蒸気となり宙に舞い、やがて露となって……また大地に降り注ぐ」
「……ほう。それがあんたが算出した〝答え〟なんだな」
「ああ。……それに魂は次の身体に宿ると」
「え?」
「そう、ラモンさまは仰った……」
「……た、魂は……」
と返したゼロウはその後、首筋から煙を吐いた。そしてバタバタと、二体とも地に伏した。




