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本当にあったとても怖い出来事

前記:ホラーではありません(多分)が、ある意味ホラーな短編です。元ネタは多分十年も前に聞いた小話からなので、オリジナルではありません。

楽しんでいただけたら幸いです


世の中には、現在の科学では説明できないことが沢山ある。

思春期の少年少女なら誰も夢見たであろう、特殊な能力を隠し持つ己が闇の結社と戦い、裏で世界を救うようなストーリーではないが、実を言うと俺もそういうギフトを持っていたりする。


霊感と言うものなのだろうか。俺は幼い頃から亡霊の気配に敏感で、たまに目視できたりするという能力をもっている。別に陰陽師や神主の家系でもなし、そのような中途半端な能力を持っていてもしょうがないし、誰も信じてくれなかったりするので、俺は割と普通な少年時代をおくり、祖国の徴兵制度によって、海兵隊に入れられた。


アレは兵役の三年目だった。一日の鍛錬や仕事を終え、俺はいつものようにシャワー室に行って身体を清めることにした。


皆さんもご存知だと思うが、そういう場所には個室などがなく、皆同じ大きなシャワー室で済ませるようになっている。最初の頃は鍛錬の疲労で野郎の裸を気味悪がる気力もなかったし、今ではもう慣れたもので、誰かが変な踊りをしていようと明鏡止水の構えを貫けるくらいにはなった。


あの日は何故かシャワー室がやけに人気がなく、俺の前に入っていた名前の知らない奴もすぐに出ていき、いつのまに貸し切り状態になってしまった。


そういう日もあるだろうと、俺は気にせずベンチに座り、身体を濡らす。石鹸で身体を洗おうとしてたら、多分一年目の新兵一人が入ってきた。


「先輩!乙っす!」


後輩くんが爽やかな笑顔で挨拶してくる。


他では知らないが、俺がいた海兵隊では、大体そういう後輩に「フ〇〇ク!小便くさいガキは隅っこですっこんでな!」とか、「まるでそびえ立つクソだぜ」とか、罵倒で返す風習があるのだが


後輩の身体をさりげなくスキャンしておく。ふむふむ、約百九十センチある身長と、ムキムキ鋼のような筋肉。ジョジョかこいつは?


ごっほん。俺は親しみやすいキャラで通しているので、このような下賎な返しはいたしませんことよ。


「うむ」


無難に返事して、俺は後輩の身体から視線を外す。


その時、俺は見えてしまった。

そう、恐ろしき亡霊を!


無駄に長い髪と胸辺りの膨らみから女性の亡霊で相違ないだろう。彼女は貞子のような風貌をしており、白い貫頭衣に朱色の斑で、生前相当悲惨な目に遭ったことを想像できてしまう。


我が祖国では、鬼火のような人魂が一番弱い亡霊とされており、怨念が強く、冥府に赴くことを拒絶した悪霊が初めて、白衣を身に纏うことが許されるという。


そして、赤く染まる服を着る亡霊には、容易く人間一人を呪殺する怨力を持ち、生者に強い憎しみを持つのが殆どと言われている。


彼女は、まさに白衣から朱衣に進化する途中の、極めて危険度の高い悪霊だったのだ。


本音を言うと、俺はすぐにでもその場を離れたかった。だが、亡霊にとって物理的距離はさほど障害ではない。亡霊を縛る法則は、生者のそれと全然違うのだ。難しい話は割愛するが、とにかく、俺が彼女を視認できてしまった時点で、すでに俺と彼女の間に逃げたところで切れない「縁」ができてしまい、無闇な行動は逆に彼女を刺激しかねない状況になってしまっていた。


幸い、俺はそういう目を持つことで、亡霊に関する知識も人よりは豊富だ。無理矢理自分を落ち着かせ、石鹸で身体を洗おうとするが、緊張で何度も床に落としてしまう。


俺が石鹸を何度も落としたのを、あの後輩クンが察知し、恐る恐る聞いてきた。


「先・・・先輩?石鹸を落として、もしかしてナニか暗示してらっしゃるので?」


ぬ、こやつ、気づきおったか


「うむ。気づいたか」


「え・・・マジっすか?・・・」


後輩くんのお顔が真っ青になってしまい、ナニかとは言わないが全体的にしゅんと縮まってしまった。


後輩くんは一度たりとも亡霊貞子二号(暫定名)に視線を向けてなかったので、見えてはいないと思われるが・・・


なるほど!貞子二号の殺気で気づいたわけか!確かにエリート海兵って顔をしているだけあって、中々鋭い奴だ。


「ま、マジで先輩、そーいう人だったんっすか?・・・」


後輩くんがちょっと出口を確認し、恐る恐る口を開く。退路の確認か、人間相手ならば正解だが、亡霊には通じぬ。


まだまだ甘いな・・・


「うむ。まぁ、いつもは隠しているがね。君も知っていると思うが、軍ではそーいうのが(注1)うようよしているのだ(注2)。やつらに目をつけられたら面倒なのでな、いつもは一般人のふりをしている」


命のやり取りをしている軍では病院や墓などの次に亡霊が跋扈する。まったくもって危ない世の中だぜ。


「あ・・・そーっすね、確かに軍ではソッチ系(注3)が多いとキキますわ・・・(注4)」


後輩くんが冷え汗を滝のように流し、なんとか相槌を打つ。


分かるぞ、恐ろしかろうとも。俺でも正直生きている気がしないのに、亡霊慣れしてない後輩からすれば針の筵に座る思いであろう。


ぬ、そういえば、この前身体の穴位を解し、一時的にとはいえ、一般人にも天眼(注5)を覚醒させられる術を覚えたんだった。ついに一般人相手に試す機会が恵まれなかったが、これを後輩くんに使えば、彼も貞子二号を見えるようになるのではないか?


「後輩くんよ、君は初めてかね?普段では見えない世界に興味があるならば、俺が解して開花させてやろう。痛くはせんから」


「い、いやいや、けっけっけっ結構っす!」


後輩くんが身体を縮めて後ずさる。よっぽど怖かったんだな・・・あの術を試せないのが少々残念ではあるが、素人を無理させるのもよくないだろうと渋々断念する。


しかし、貞子二号はさっきからずっと俯いたまま動かないし、後輩くんがすっげぇビビっておるし、シャワー室の空気は最悪と言っていいだろう。


ここは、俺が先輩として彼の緊張と恐怖を紛らわせておかねば


その時、後輩くんの目から俺への恐れ的な感情を僅か察知してしまった俺。まさか、亡霊だけではなく、亡霊が見える異能力を持つ俺も彼にプレッシャーを与えてしまっているのか?


「もしかして、後輩くんは我々のような人間が気味悪いと思っているのかね」


「い、いいえ!ぜんぜん?!そ、そーいうの、べつに、さべつは、よくありませんし?!」


そうか。少しは気味悪いと思っているのだな。俺も幼い頃はよく言われるから分かる。


とはいえ、後輩くんは頑張って歩み寄ってくれているのだ。ここは一つ、霊感男(自称)の良さをアピールしていくべきか。


「ここだけの話、山田一等兵も俺と同じだぞ」


「何?!山田一等兵先輩も?!」


なにを隠そう、三年兵のみならず、新兵の中でも人望高い山田一等兵も俺と同じく、霊感の高い人間なのだ。この前同じ亡霊を見かけて、「もしかして、見える?お前も?」って感じで仲良くなったのだ。


「意外だったろう?休み時間ではよく集まって交流を深めていたものだよ、俺たちも」


「えー・・・意外っす、山田一等兵先輩まで・・・」


「そうそう、そういえば俺たちこの前法具も買ってみたのだ。こう、長い棒的なヤツ」


「え?!!!@!@#先輩たち、道具も使うの?!」


え?そこで驚くん?金剛杵こんごうしょなど、悪霊にはめっちゃ効くって有名なのだが。アレを持っているだけで、古い退魔師になったような気がして楽しい気分になれるのだ。


「うむ。自分のモノに名前をつけたりしてな、結構イイ気分になれるんだぞ」


「え?自分のモノに名前つけたりするんっすか?!おかしくないっすか?!」


「そうか?山田一等兵のモノは細長いから”如意棒”と名付けられ、俺の太いヤツは”降龍棍”と名付けてやって、打ち合って遊んでたものだ」


「う・・・ウチアイ?」


ちなみに、俺が買った法具はまさに金剛杵で、太くて硬い棒みたいな形状の法具であり、山田一等兵のは孫悟空が使う棒のような法具だった。明らかに俺のほうが強そうと、山田一等兵のチョイスセンスを嘲笑ってやったものだ。


「そうそう。でも山田一等兵のアレは細すぎて脆いからな、俺も少し力加減を誤ったから、あいつのを折ってしまったよ」


「お、おったぁああ???大丈夫だったんすか?!!病院行きじゃ・・・」


「なぜ?普通にくっつけばまだまだイケるだろ。まぁ、アレから山田一等兵のヤツがちょっと歪になってしまったが、実を言うと俺のもちょっといびつなのだ」


「そ、そりゃ・・・皆いびつでしょ・・・(ぼそ)」


どうやらいい感じに後輩くんの緊張を紛らわせられたみたいだ。


安心も束の間、急に貞子二号が頭を上げて、後輩クン方向に向いた!俺もすぐに後輩くんに危険を知らせようとベンチから立ち上がった


「後輩くん!見たまえ!タったぞ!アレがタチあがってしまったぞ!」


後輩クンが明らかに怯えてしまい、赤子のように目をキツく閉じて頭を横に振る


「い、いやです!アレがタツのを見たくないっす!」


後輩クンの行動が何かのトリガーを引いてしまったのか、貞子二号の長髪に隠れた両目が宝石のように朱く灯り、ゴゴゴゴゴと擬音が幻視できるくらいのオーラを放っている。


「見て!後輩くん!アレが充血して君を見つめているぞ!」


「むり!むりむりむむむむりむrみrうぇrwmtr」


後輩くんがわかりやすくテンパってしまい、貞子二号が後輩くんを襲おうと空を浮かぶ。後輩くんの身体を乗っ取るつもりか!この俺の目が黒いうちに、貞子二号めの好きにはさせぬ!


何故か勇気が湧き上がり、俺は貞子二号に向けて両手を広げ、大きく咆哮した


るなら俺が相手だ!かかってこい!」


「いやあああああああああああ!!!」


後輩くんが錯乱を起こし、真っ裸のままシャワー室から出て行った。死を覚悟した俺だったが、貞子二号は何故かなにもせずに、その場を去っていった。


恐らく貞子二号に呪われてしまったのだろう、その後後輩くんが病院送りとなり、精神不安定という理由で海兵隊から脱退したのであった。


今思い出しても、誠に恐ろしい霊体験だった。


皆も銭湯などではちゃんと気をつけておくのだぞ!


注1:悪霊のこと


注2:当然のことですが、軍には一般人では殆どお目にかかれない、人を殺めた経験を持つ人間がたくさんいます。そういう因果があるため、他の所と比べて悪霊がつきやすいと言われます。


逆に、悪霊は軍の殺伐とした雰囲気を恐れるので、逆に寄ってこない説もあります。一応私は後者の方を推しますが、まぁ、前者を否定できる材料はないのでどっちとも


注3:ホの方のこと。阿部さん


注4:軍では男女分かれるので、ピー欲が貯まりやすいとされます。女子高では百合カップルができやすいのと似た理屈となります。


ちなみに、恐らく同じ理由で、男色の戦国武将が結構いたとされます。


注5:陰陽眼とも言う。霊的なものが見える特殊な目だが、一説では幼い子供ならほぼ全員持っており、年を取ると自然にその能力が失われるとされている。


亡霊は大体グロい外見しているので、持っていて楽しいものではないらしい。

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