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第九話 脱出せよ!

「いたか!?」

「おい、あの茂みが動いたぞ!」

「よし、回り込みながら移動だ、滑落に気をつけろ! キャプチャーガンも使え! この辺りは俺達の庭だってことを教えてやれ!」


 大量の光が重なりながら俺を探して動き回る。まるで山狩り、いやエサに群がる飢えた獣な殺気──状況的に作戦は成功と見ていいだろう。かなりの人間がこっちに引き寄せられたはずだ。

 職員室に灯りが点いた時点で正直詰みだと悟った。無駄な足掻きで独断専行だったかもしれないがどうやら最悪ではなかった。

 光が点いた時点で日吉が見つかっていたら意味を成していない、ただ二人バレただけ。陽動だってすぐに発覚されただろう。

 なにせこれは向こうの動き便りの突発的で杜撰な作戦だった──

 見張りの近く目掛けてドローンの銃撃を数発地面に撃ち音を鳴らす。

 すると見張りはその方向に懐中電灯を向ける。

 その先に俺を置く。奴らにとっては黒いシルエットにしか見えない。誰かまではわからない──だが侵入者を発見。

 今に至る。

 警戒の高さは園長に指示されたからだろう。想像以上に釣れてしまった。

 俺がすべきことは山林を駆けて行く奴らとの距離を取り過ぎないように維持しながら逃げ切ること、すぐに完全に姿を消してしまったら日吉側の警戒が高まる可能性が高い。用はエサとなって引き寄せることが役目。

 援護ができなくなって申し訳無いが、後は日吉の能力に期待するしか無い。


「このままだと川にまで行きそうだな、施設近辺で下流側に向かえる者は急いでくれ!」

「了解した!」


 奴らはここの土地に完全に慣れている。普通に鬼ごっこしても勝てる気はしない。

 だが、このスーツにはUCI光学迷彩機構がある。脱皮直前のカニみたいに自分の表面にUCIを纏わせ周囲の風景に馴染ませることが可能。ワープリのサブユニット『カメレオン』と同系統だがより高性能に特殊改造された品。コレに何度助けられたことか……

 しかし、使っているところを見られたら意味が無い。周囲に馴染むまで3秒近い時間が必要。また周囲に砂なり石をばら撒けば違和感を頼りに特定される。

 この機構を使うのが脱出の鍵となる。

 坂道を降り切ると川原にまで着いてしまう。マズイな……大小様々な石の絨毯で動けば音が目立ってしまう。何より遮蔽物が少ない身を隠せる大きな岩が幾つかあるが見られた状態で隠れても意味が無い。


「追い詰めた! とっ捕まえて正体を暴くぞ!」


 流石は子供兵士計画の疑惑が上がるだけはある。連携陣形は叩き込まれているようだ。

 奴らの立ち位置は緩やかな鶴翼──このまま追い込んで囲い込むつもりだ。これがワープリなら一人倒したところで容赦なく撃ち抜かれてダウンだな。

 だが、これは容赦の無い実戦──殺しが選択肢に入らないだけでそれ以外なら何でもやる!

 まずは!


「っ!? ──投擲物だ! UCIシールドを使え!」


 想像通り相当準備を整えていたなこれは──あのシールドはワープリで使う物と同様、設定次第で実銃を防ぐ強度を獲得することもできる。炸裂弾が直撃しても多少怯む程度で無傷で済むだろう。

 しかし、無駄だ──俺はその強みも弱みも完璧に理解している。形と強度の設定は完璧にし、視野の確保の為に透明にしているだろう。

 だが、それこそが弱点。その壁じゃあ衝撃や破片を防げても──光を防げない、加えて闇に慣れた目に閃光は強烈に映るだろう?


「うおっ!? 閃光弾!? 目がぁ!?」


 成功!

 この隙に急ぎ川へ向かう──これが俺の選んだ逃走ルート。森に潜んだって獣道を駆けあがっても奴らの地の利を越えることは不可能。だが川の中はどうかな?

 ドボン──! とわざとらしく音を鳴らして踏み入れる。

 この時期でも川の水の冷たさは中々染みてくる。


「っ!? この音? 川に逃げたな!?」

「下流側で包囲しろ! 逃げるのには限界がある! 追いかけるぞ!」


 ……ジッと目立たないように動きを止め、川と一体化する心で待機する。

 俺を狙っているだろう水面に着弾する音が何度も聞こえる。だが、この闇夜に紛れた黒の格好、狙える訳が無い。水中に潜れば完全に姿を消せる。

 俺はジッとしているだけでいい。相手が必死になればなるほど逃げ切れる。離れていく足音。ひんやりしてくる俺の足。

 数分も経たずに水の流れる音と虫の声や風で揺れる葉の音だけで満たされる。どうやら鬼ごっこは俺の勝ちらしい。

 数歩進んで川原へ戻る。賭けだったがうまくいって良かった。

 閃光弾で視界を川縁の岩の陰に隠れて光学迷彩を起動、川に入った音は川原の大きめの石を拾って中心近くに放り投げた音。あいつらは一番マズイ状況を瞬時に把握して動いてくれた。優秀過ぎたおかげで杜撰な作戦は頭に思い浮かばなかったようだ。

 さて……これ以上はやぶへび、撤退するしかない。出来る限りのことはできたが日吉も何とか脱出できるだろうか?



 ──よし、コピー完了! 先輩が稼いでくれた時間が役に立った。

 後はこの狭い机から出て一気に脱出するだけ。焦らずに最高最短のルートを探そう。

 ドローン操縦権も僕に譲渡してくれたから上手く使えば脱出できるはず。

 それでもこの警戒の強さ……隠れて脱出はもう不可能な気がする。

 重要なのはこのメモリを東雲さんに届けること。それができれば任務完了。ここの人達はメモリの存在は知らない。いや、知っていても僕が持っていると判断する。

 なら選択肢は決まってる。

 ドローンを所定の位置へ移動させ、二つの命令を設定し──実行、これがスタートの合図!


「ん? ……フェ……ハックション!? 何だ!? 鼻がハックシュ!?」

「いきなり──ヘクシュッ!?」

「何が起きた──ヘブシッ!」


 ドローンに搭載したピペリン剤──通称コショウ爆弾。

 潜伏時には使うことはないけど、発見され逃走時には強力だ薄い煙幕に加えて多少の目潰しと強烈なクシャミ、足が止まる。

 窓から飛び出て最短最速でバイクに向かう。パニックに乗じたおかげで迫る足音は無い!

 さらにドローンの向かう先をバイクまで設定済み。後はメモリを装着して自動帰還モードを起動。高く飛び上がり闇に紛れながら合宿所まで向かい始めた。残る僕の役目は──


「職員室からゲホッ……! 誰か、出てきた!」

「バイクに乗りやがった! 車をヘクシッ! 出せ!」


 東側(合宿所とは逆)へ逃げること!

 合宿所と委員会は無関係だと、別の拠点があると印象付けないといけない。なにより、西側には合宿所から戻ってくるめぶき園の車と正面で出会いかねない。車道を塞がれたらその時点でお終い。滅多に人が来ないであろう田舎道、長年住んでるあの人達なら迷わずスライドブレーキで車道を塞ぐだろう。

 だからこの道の選択は間違っていない。

 風を切り、法定速度を超えて無灯火で走り続ける。けれど、嫌な予感がどうにも振り切れない。確かにこの道はしばらく一本道。東種ヶ崎に到着するまでこの道しか進めない。グネグネと蛇みたいに曲がりくねっているが逃げ場の無い一本道──

 でも、スタートの差がある。追いつかれはしない。自転車から大型車までドライビングテクニックを鍛え上げられた、この書道の達人の如き丁寧なライン取り!

 後ろからハイビームの灯りが届く、流石に光の速さには敵わない。ただ後ろを見て相手の車を理解した瞬間に鼻で笑ってしまいそうな勝ちを確信してしまう。ワゴン車余計な心配だったと。

 こっちの改造バイクと相手のワゴン車。峠を攻めるのに相応しいのかは一目瞭然。コーナー一つ曲がる度に距離を離してみせる!


「ん……こんな時間に対向車? ……まさか──!?」


 闇を照らすライトがよく目立つ。山沿いに作られた道を走っているからこそ先が見えてしまう。さらに嫌な予感が心臓をドキリと鳴らす。えてしてこういう時の嫌な予感は当たってしまう。それも絶望的であればあるほど──

 こっちに向かってくるあの車がめぶき園の物だという確証は無い。でも、もしそうだとしたら最悪──袋の鼠に向かって最速で向かっているようなもの。

 横向きに止められるだけで通路が防がれる。僕には壁走りのような曲芸走法は会得できていない。

 かといって180度ターンをしても後ろから迫る車に対応される。

 バレずに逃げ切るための方法はたった一つ──!


(スピードを上げた? ヘアピンカーブ気味のこの先、曲がり切れないぞ!?)


 地上がダメなら空に逃げるしかない──

 アクセル最大、最高速度で風を切る。バイクの唸り声も獅子の如き。

 カーブを曲がる気なんてない。ガードレールとガードレールの細い隙間、そこを目掛けて僕は最高速度で駆け抜ける。

 バイクが地を掴む感覚が無くなり空転する。

 無重力、星空へ向かって飛んでいく。でも、無敵のような高揚感は消えて現実に引き戻される。空から地へ落ち始める。

 この時僕はWWP委員会潜入捜査官の逸話を思い出していた。

 昔、この仕事はまるで怪盗みたいじゃんとノリノリで装備を提案していた方がいた。その人はこうも言った「やっぱり怪盗と言ったら空から華麗に脱出だよな」と。

 その意見が採用されたのかわからないけど、今は感謝しかない──漆黒のハンググライダーを展開し空を流れる。

 空気の壁に顔を叩き続けているような感覚がフッと消えて撫でて流れるような感覚に変わる。迫る緑の床もゆったりとなる。

 木々が砕ける大きな破砕音が下から聞こえ、本当に申し訳ない気持ちで満たされる。それに、バイクの修理費とかどうなるんだろう? 事が事なだけに給料から天引きされていくかもしれない。

 気分が落ち込むと同時に高度も下がっていく。木々にぶつからないように避けて進み。

 そして、無事に休耕地に着陸することができた。道路の方を見てみると車のライトが飛び降りた辺りで止まっている。懐中電灯の光が見当違いな崖下の方を向いている。よし、完璧に逃げ切れた!

 達成感から強く拳を握り締めて掲げる。「勝った」それ以上の言葉はいらない。

 後は無事に脱出できたと連絡すれば──あれ? 連絡すれば……無い? 通信装置が無い? まさか……落下の時か羽を広げた時に通信装置が滑り落ちた!? なれないことをしたから不測の事態を招いたってこと!?

 ここから合宿所まで相当距離がある。日が昇るまでに戻れる気がまるでしない……土の中に沈んでしまいそうなぐらい心が落ち込んでしまった。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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