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第四話 家出少女、ギャルに捕まるの巻

「ふぃ~今日もよく働いた働いた……!」

「店の戸締りよろしくね」

「はぁ~い!」


 うわっ! 夜になってもあっついあっつい──クーラーの効いた店と比べたら外はもう別世界ったらない。こんな日はあっつあつの身体をクーラーの効いた部屋でひんやり麦茶を一気飲みしてキメるのが最高なんだよねぇ……! 大人が暑い日にビールを飲みたくなる気持ちがわかる気がするわぁ。ん──?


「…………わぁ──!」


 なんかショーケースガン見してる娘っ子がいる。この辺じゃ見たこと無い子だけど、目をキラキラさせてこの夏一押しを食い入るように見てる。

 うんうん、わかるなぁ~その気持ち、良い服を着ている自分を想像するんだよねぇ、このデザインの良さったらもう自分の潜在魅力が花開く感じで……じゃないじゃない!


「良いワンピースっしょ?」

「わわっ!?」


 よっぽど集中して見てたのかウチの声にネコみたいに跳ねながら驚いてる。ん~カワイッ! パっと見た感じ小学四年か三年の女の子かな? こんな時間にこんな場所に一人で来るなんて田舎町とはいえ異常事態っしょ。わる~い大人の良い餌になっちゃう。正義のギャルとしてウチがどうにかしないとね!


「どしたん? もしかして迷子?」

「いえ、わたしは! ──迷子じゃありません旅行の途中です!」


 得意顔で堂々と胸を張って答えてくれる。確かに旅行者ならこの田舎町で見たこと無いのは事実だけど、旅行で来たなら夜に子供一人はありえない。周囲に両親の気配は無し。

 古ぼけた小さいリュック、ズボンや靴が葉っぱが付いてて妙に汚れてる。服装もシンプルでちょっとアンティークに片足突っ込んでてオシャレ感は無い。それに汗もけっこうかいてる。

 まさかこれは……!


「いーや、嘘800だね! この天才的な頭脳の前には通じないっしょ! 君の正体はめぶき園の子供!」 

「ど、どうして……!」


 この言い訳で通じると自信満々だったのか本当に驚いてる。ウチとしても八割位カンだったけど見事に命中!


「こんな田舎町、観光客の子供が一人で出歩くことはない。この辺の子供だったらウチが知らない訳が無い、後はそうめぶき園の子が脱走したとしかありえない! というわけで確保──家出はナイナイして報告しようかね」


 両脇に手を通してキャッチ。相当驚いていたのか簡単に捕まえられちった。これで何時でも持ち上げられる! 年が倍違う力の差を思い知るがいい!


「しまった──!? まって! まってください! 今だけなんです、今がお母さんに会いにいけるチャンスなんです! 戻ったらもうこの作戦は使えなくなります! 離してください!」

「ん……? 訳アリなん?」


 この必死な様子……なんというかその場しのぎの嘘吐いてる感じはしない。あそこは良い評判ばっかり聞くけど意外と何か闇があったりするのかも?


「本当のお母さんに会いに行くんです。良い成績を何度も取って園長先生に何度もお願いしたのにあわせてくれなくて。だから強行突破するしかないって」


 ここで報告して引き取りに来てもらうのは本当に簡単。だけどもだけど、何かそれはもったいないというかつまらない気がする。内容が内容だけに小さい子にとって一夏の大冒険が今始まってる。

 まだ序章も良いところ。うん、ウチ的にはここでエンディングは流さないことしよう!


「う~ん……大人のお姉ちゃんとしては報告するのが一番なんだけど。ウチはロマン派なところもあるからなぁ~よし、わかった! 今晩は協力したげる、このままじゃ熱中症で倒れるかもだし今日はウチの家に泊まって明日の朝行くっしょ!」

「え……? そんなこと言って家に監禁して報告して差し出すつもりじゃ!」

「ふっふっふ、ウチにバレた時点でキミに選択肢は無いのだ! このまま逃げたら素直に報告する。大人しくウチの言うことを信じるしか生きる道が無い事を知るのだよ!」

「うぅ……綺麗な服に見惚れてこんな目に会うなんて……」


 それに、趣味が一緒な子の力になりたいのは当然じゃん?


「ちょっと裏で待ってて。もう少しで仕事が終わるから」


 王手されて観念したのか大人しく店の裏に移動してくれた。

 という訳でタイムカードも切って家へ案内。この時間帯は外歩いてる人もそんなにいないから堂々とお手て歩いてもすれ違うことはなかった。一応気が利くギャルとしては警戒はしてたけどね。

 ただこの子はずっと警戒してたのかチベスナみたいな目でこっちを見てた。


「ただいまぁ~っと」

「おじゃまします……」


 やっぱり明るいところで見ると結構汚れてるなぁ。めぶき園からお店まで1km以上離れてるけどこんな風に汚れることってある? よっぽど過酷な脱出劇をした証拠じゃんね。

 この格好でお昼に外歩いてたら誰だって声かけるねこれは。


「とりあえず麦茶でも飲んどいて」

「あの、他に人はいないんですか?」

「今ウチ両親水入らずで旅行中、弟は勉強合宿。だからウチだけ、安心していいよ」


 そうだから誘うって選択肢が出てきたわけだけど。

 この子は何だか凄いキョロキョロと周り見てるね。こういうのが借りてきた猫ってわけだ。麦茶を渡すと喉が渇いていたのか一気に飲み干した。


「今更だけどウチは金田麗香(かねだれいか)、花も恥らう女子高生。キミは?」

「わたしは鬼灯八(ほおずきはち)です。9歳です」

「なるほどはっちゃんね。やっぱりめぶき園の子でいいんだよね?」

「はい、めぶき園でお世話になってます」


 9歳の割りにはすっごいしっかりしてるなぁ。こんな風に言葉使った記憶無いよ、ウチがこの頃って木の棒もって山の中走り回ってばっかりじゃなかったっけ? 

 さて、詳しい話を聞くべきだと思うけど……とにかく今はお腹減ってきた。腹が減ったらオシャレもできないもんね。


「ウチこれから晩御飯食べるけどはっちゃんも食べる」

「家出する前にちゃんと食べてきましたからだいじょうぶです!」


 と言うけど、クーっと何か音が聞こえる。ウチのお腹からじゃない。ウチのお腹はこんなかわいく鳴くことはできなくなってるし。


「な、何で……!? ちゃんと食べたのに」

「答えは簡単、育ち盛りってことっしょ! あそこからここまでの移動でカロリー消費しまくってペコペコペコちゃんになった。全くウチの黄金の頭脳が恐ろしいっしょ……」

「黄金……? 確かに髪の毛キラキラしてるしドリルみたいにクルクルしてる」

「そういうことじゃないけど、まぁいっかぁ! ウチのクックテクをお教えしよう……!」


 という訳で調理開始──!

 バイト前に仕込んでおいた冷蔵庫でキンキンに冷えて味が染み込んだ夏野菜のたっぷり煮浸しとウチお手製の塩を少し大目のトリガラチャーハン。そしてインスタントのコンソメスープ。う~ん完璧に完成!


「いただきま~す!」

「本当に食べていいんですか? お金も払わなくていいんですか?」


 申し訳なさそうな顔でサイフを取り出そうとしてくるけど、そんな顔は見たくないんだよなぁ~教育が行き届いてるみたいだけど親切の押し売りにマネーが関わるのはウチのギャル道に反しているんだよね。


「それはお母さんに会いに行くための虎の子っしょ? ウチがはっちゃん無理矢理連れ込んだんだからソレ位は当然当然!」

「そうですか…………じゃあ──いただきます…………! あっ、おいしい──食べたことない味です」

「そうなん? もしかして実はあんまり食べれてないとか?」

「ううん、沢山食べられてるけど健康的に身体を作る料理とかばっかりで味もこんな風にキリってしてなくて楽しくないです。大体薄味、でも食べ切らないと怒られます」

「ほ~ん、けっこうめぶき園って不思議なところなんだね」


 どゆことだろう? 確かに肌に髪、体型をパッと見しても飢えてる印象は無い。食べられてるのは本当だと思う。というかむしろかなり健康的な部類じゃない? 脇に手を通した時も骨皮しか感じないこともなかったしぽっちゃり感もない、でも色白。太陽浴びながら動き回ってたわけじゃないってこと? この季節?

 でもまっいいか美味しそうに食べてくれてるし……食器の使い方も丁寧でマナーいいね。


「毎日こういうお料理作っているんですか?」

「まぁね! ──って言いたいけど。一人だとここまではしないかなぁ? もっと簡素だし洗い物増やさないように一つの皿に丼みたいに纏めたりするし。誰も見てないと極限まで手を抜くのがウチ!」

「……何というかごめんなさい」

「いやいや、あやまることないって、むしろこっちがありがとうっしょ! 正直言ってちょっと寂しかったんだよね。一軒家って一人だと広くてさおまけに静か、外から虫の声が聞こえたりするけど基本的に無音なんだよね。一人で食事すると自分の音だけがやたら耳に届いて病みそうになるんだよね」


 意味も無くテレビを点けたりして賑やかしにしてた、内容なんて右から左で覚えてない。


「でも大人って感じで憧れちゃいます。めぶき園の食事はなんだかんだにぎやかで、訓練後だと皆疲れてて静かだけど──あっ」

「訓練? 何か大変そうなこともやってんだね」

「──そうなんです! ちゃんと社会で生きていけるようにって!」


 何か慌てふためいてるような気がするけど、訓練かぁ……厳しいけどそれが愛情ってやつなんだろうね。色々な事情の子がいるから教えなきゃいけないことも多いんだろうね。


「さぁ今日の試合のハイライトです。メディアスターズとミーティアズの初戦は7対3でメディアスターズの勝利から始まりました。深山選手のグリフォンが効果的に機能したのが勝因でしょう」

「あっ、ワープリのニュース……!」


 何時もの癖で点けちゃってたけど今まで全く反応無かったはっちゃんが何か食い付いてる。


「好きなんワープリ?」

「ご、ごめんなさい食事中にテレビ見るなんて……」

「いやいや、ウチが点けっぱなしにしてたし。殆ど食べ終わってるし見たかったら見てもいいっしょ」

「実はこういう風に見ることって無かったんです」


 どうやらテレビ関係は厳しそう。チャンネルの争奪戦が起きてたりするのかな?

 ウチにはピンと来ないけどプロワープリの試合ってそんなに面白いもんなのかねぇ~? 確かにアクション映画みたいな映像が沢山流れて来て見応えはあるんだろうけど……花が無いっしょ! お茶の間に届けるならも少し彩りが欲しいところ。

 そんなウチとは対照的にはっちゃんは「なるほど」とか「意外と難しいのかな?」とか色々言葉を漏らしてた。こりゃやってんねぇ、めぶき園でもワープリができるってことなんだね。

 ワープリが終わって次のニュースに映ると興味を失ったのか、前のめりだった身体が背もたれに身体を預け始めた。わかりやすくて笑いそうになっちゃう。


「じゃあ次はお風呂入るけど、はっちゃんも一緒に入る? ウチの広いから二人ぐらい余裕だよ?」

「お風呂も済ませてあります!」

「まぁ汗めっちゃかいてるから問答無用なんだけどね──!」

「そんなぁ……!」


 おっ!? 抱っこすると余計に健康的ボディが伝わってくる。これは相当大事に育てられててめぶき園相当がんばってる証明じゃんね。

 お風呂場に連行してヌギヌギさせて背中とかを見る。

 服の下に痣とかもないから虐待から逃げ出したって訳でもなさそう。お母さんに会いに行くってというのに嘘は無いって決めて良さそうかな?

 お風呂の使い方も教えたらすぐに使えるようになってるし使い慣れてるってことじゃんね。


「……お姉さん?」

「どしたんそんな初対面な顔をして?」

「顔が……凄い地味に──」

「真の姿を知ったからには生かして帰すわけにはいかなくなったな……」

「じ、自分から見せてる気がします!」

「はっちゃんも化粧を覚えるとこういう変身ができるようになるよ」


 なんというかウチに妹がいたらこんな感じだったりするのかなぁ? ってちょっと思う。

 お風呂から上がるとウチが昔使っていたパジャマを貸してあげて、下着ははっちゃんが着替えとして鞄に入れてたのを履いてもらった。用意いいね。


「これが普通の人の部屋なんだ……」

「ギャル道は王道とは違うからそうでもないっしょ?」


 服飾系の道に進むためにオシャレの本やミシンが置いてあるのがウチの部屋。だから普通の女子の部屋とはちょっと違うオンリーワンな部屋。


「さて、ポンポンも満タン身体もキレイキレイ。詳しい話を聞かせてもらおうかな?」

「……はい。と言ってもさっき言ったことが全てなんです。わたしとお母さんは今離れて暮らしています。お父さんが亡くなって金銭的な理由もあって生活できない状況になってわたしはめぶき園に引き取られました」

「ほんほん……」


 めぶき園には様々な理由で親と一緒にいられなくなった子供が集められている。

 はっちゃんの場合は金銭的な問題か……。


「ここから先のことは秘密にできますか?」

「ん? いや、秘密にしたいことなら話さなくてもいいよ。確か園長先生がお母さんに会っちゃダメ的なことを言うから無理矢理家出した。でもダメって言われる理由ははっちゃん知ってるの?」

「それがわからないんです。「話すことができない」の一点張りで……だから余計に気になっちゃって元気に生活しているのか知りたいんです」


 何かしら理由はあると思うんだけど話さない理由ってなんだろ? はっちゃんの頭脳的に正しく理解できそうだし……まさか!? 金銭的な問題ってことは怪しげな取引をして普通じゃ会えないような場所にいるってこと!?


「なるほど……そもそもだけどお母さんがいる場所ってわかってるん?」

「前一緒に住んでいた場所は調べました!」

「そこに今も住んでいるのかなぁ?」

「だとしても、隣の人が何か知っているかもしれません! めぶき園にずっといても手がかりは手に入りませんから!」


 はっちゃんの目には決意が漲ってる。必ずお母さんを見つけ出すって強い決意が!

 ウチがとやかく言っても意味無し、だったら楽しくなるほうに賭けた方がウチとしても気持ちがイイ!

 お母さんに会えるに全賭けするのがベスト!

 という訳で押入れから封印されし服達を大放出!


「よしわかった! 小さい頃のウチの服あげる!」

「えっ!? いきなりなんです?」

「あの格好のままうろついたらウチみたいに優しい人的には心配するっしょ。だから私は無敵でオシャレって雰囲気を出しとかないと「めぶき園へ戻る」のマスを踏みかねないっしょ」

「無敵でオシャレ……でも、いいんですか? お姉さんの大事な服じゃ──」

「誰かに着られたほうが服達も嬉しいっしょ。なにより変装にもなるじゃん? きっと職員さん達がうろついてるはずだから堂々と正面突破できれば何よりのショートカットっしょ!」

「大丈夫かな?」

「世の中堂々としてたら意外とバレないもんだって! ウチは実際はハタチ越えてても堂々とギャル女子高生できてるし」

「ええっ!?」

「ウソだよ~、流石にハタチ越えたらささやかギャルにスタイルチェンジしてかないとね」

「思わず信じそうになりました……」

「それは老けてると言いたいのかい、ウリウリ~!」


 首根っこを抱きしめて頭をヨシヨシしてあげる。


「お、落ちついているというか頼れるからですぅ!」

「ならよし──! さて、はっちゃん的にはどういうのが着たい?」

「いいんですか……?」

「いいともさ!」


 ふっふっふ、ウチにははっちゃんの気持ちは手に取るようにわかる。口では遠慮してるけどそのチラチラした目線は着てみたいな~って語ってるって。


「実は……めぶき園だと誰か特別にオシャレなことってできなかったんです。サイフにしてもメガネにしても皆同じ形で個性を出すってことはできなかったんです」

「なら、今宵ははっちゃんのファッションショーの開幕っしょ! この子達も人肌感じられて喜ばしいって言ってる!」

「なんだかそれはちょっと気味が悪いですね……」


 ナイトファッションショーの開幕! 主役ははっちゃん!

 寝落ちするまでこの宴は続けられたとさ。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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