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第三十二話 新しい世界へ

 鉢谷達也及び金田麗華の事後確認について。

 鉢谷達也氏については完璧に施されたと断定して問題無いと判断できます。特に重要なWPSに関する記憶はプロコーチ試験に向けて勉強を続けていることから覚えていない様子。

 18日を再びやり直す作戦は上手くはまり、合宿最終日に睡眠薬を仕込み、数時間の睡眠の間にスクホの設定を直し一日経過させたかのように錯覚させる作戦は完璧に終えました。

 シンプルに言えばタイムリープ──彩八華達に出会わなかった世界線を進んだということです。

 次回似たような事態が発生したら参考にする余地はあり。

 続き、金田麗華氏に関して。

 彼女はSNSを利用していることもあり、常に監視の目を光らせてはいたが問題は無いと判断できます。

 しかし、気になるのは彼女のデザインした服に鬼灯が描かれていること。記憶処置を境にそういったデザインが増えています。

 名前だけが印象に残っている?

 ですがこういった現象は処置後の人間には多く見られる傾向があります。重要なのはWPSについて思い出さないか。仮に記憶が戻ったとしてもWPSの印象が薄く普通に忘れていれば御の字でしょう。

 ここからは懸ノ木彩八華の処置について説明します。

 長時間かつ二度目の記憶処置ということで懸念すべき要素が大変多い。絶対に設定しなければならないのは──

 母親に殺されかけた記憶。

 夏の冒険の記憶。また、それを思い出させるような記憶。

 この二点。

 また、記憶改竄後はめぶき園から卒園させます。思い出させる記憶があまりにも多く危険。

 それに伴いめぶき園自体の記憶も埋めます。

 新たに用意する記憶は母親に捨てられ親戚の誰かに拾われたということにします。残酷だと非難を浴びせるのも結構。彼女にとっては母親は忌避するものだと印象付ける必要があります。

 その母、懸ノ木いろはについては現在も精神病棟で入院中。娘との再会によって意識が活性化しましたがまた沈静化しました。後に欅安曇(けやきあづみ)さんの実家で監視兼療養する模様。

 ──話を戻しますが親戚役はWWP委員会の加藤竜、当然子育てをしたことないような男に全てを任せるのはNG、サポートはWWP委員会に任せることになります。

 ここまでの改竄はどれだけのリスクが発生するのか不明である。しかし、行わなければ自死を目指す少女に陥るかもしれない。

 そして、これから話すことは全員に共通することでは無い。と前述しておきます。

 懸ノ木彩八華は記憶改竄の影響により頭脳が発達した可能性が非常に高い。

 彼女は死の危機に陥ったことで脳に多大な負担が生じ、後に回復が行われた。記憶処置によりストレスの原因に蓋がされ、修復時に能力が上がった脳により天才的な頭脳を発現したと考えられる。

 鬼灯八の頃よりその片鱗は見えていました。

 これから行う処置に関しても条件は似ています。以上──



 3年後── 

 季節は夏、この季節になるたびにあの日をどうしても思い出す。

 初めてこの子に会った日を。


「鈴花、話がある」

「どしたんそんな改まって?」


 あの日預かることになった子が中学受験を考える時期にまで成長した。名前は鬼灯八から野茨(のいばら)鈴花(すずか)として生まれ変わった。

 そう、生まれ変わった。記憶処置が行われた時から変化ははっきりと現れていた。

 おかげであの日見たあの子とは到底結びつかないような成長を続けている。

 記憶処置が驚くぐらいに上手くいった影響なのだろうか、自殺に向かうような気配は微塵にも見せていない。

 めぶき園の職員から予め聞いておいた趣味やらなにやらは殆ど意味をなさず、喜ぶべきことなのかわからないがギャルスピリットに覚醒していた。

 オシャレに気を使い、困った人を助けると言ったあのギャルを思い出す姿に。

 それはともかくとして俺は一冊の入学案内を彼女に差し出す。


「ここを目指してみないか」

「ほんほん……白華女学園? 知ってるし! すっごいお嬢様学校じゃん! 女の子なら一度は憧れるって──え、まさかウチが受けるん?」


 白華女学園はメテオショック以降に造られた中高一貫の名門女子校。最高峰のセキュリティという安全に加え文武両道、世界へ通じる淑女へと教育する学校。

 有名企業のご息女や資産家のお嬢様が多数入学し、毎日鎬を削るエリートの巣窟。


「正直言って鈴花の才覚は恐ろしいものがある。普通の学校じゃあ明らかに浮く、何よりお前も色々物足りないと感じているんじゃないか?」


 本人は疑問符を浮かべているようだが、学力という面では一切心配していない。  


「でもここってお金凄いかかるんじゃ?」

「お金について心配するな。と言いたいがこれを見てくれ、特待生制度──六年間の学費及び寮費が無料になる制度だ他にも生活のサポートも受けられるらしい。相当難しいと思うが、今の鈴花ならやりがいのある高い壁だと思う」


 合格者が毎年現れているわけでもない、大変難しい制度。白華の授業料程度委員会の力を借りれば問題は無いが節約できれば節約すべきだろう。

 なにより、ここは鈴花の救いになるかもしれないのだから。


「……本気出しても嫌われたりしない?」

「本気出しても通用しないかもしれないがな」


 この言葉に獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべた。

 元の能力か副作用なのかわからないが頭脳が発達しすぎていた。抑え込まれ圧縮された領域を埋めるかのように知識を埋めていった。今年で中学受験だが、高校受験を受けたって合格してしまいそうな頭脳を会得してしまった。

 おかげで小学校でも浮いてしまった。頭脳だけでなく、見てくれも良く、運動能力も高い、オシャレにも詳しいと隙の無い女子小学生。

 同年代では何もかも相手にならずどこか退屈そうにしていた。住む世界が違う心情と常に付き合っていたのだろう。

 その原因の一端としてWWP委員会側も半分好奇心混じりに進学校の教科書や専門書、外国語教材と与え続けたり暇人が教えたりしたのもあるはず。

 ただ──ワープリだけは教えていない。めぶき園側との約束でもある。彼女はワープリと関わり過ぎていた。子供兵士計画を思い出せば連鎖的に思い出しかねない。だから俺の仕事も当然教えていない。教えたがりの連中も仕事については隠している。

 

「ふ~ん、やりがいありそう──寮もあるってことはウチもとうとうここを出て行く時が来たかぁ……おじさんには本当にお世話になったね」

「気にするな、東雲さんや健朴さんの力が無かったらまともに世話しきれなかったからな」

「確かに! おじさん無理してウチを引き取ったんでしょ? わかるって」


 あっけらかんと言ってのける。悲しみとかそういうのはなく──

 彼女の中で俺は捨てられた自分を引き取ってくれた親戚のおじさんでしかないのだろう。

 本当の子育てをしたことが無いのに年頃の女の子を育てるのは無理な話だった。

 同性の東雲さんと子育て経験ありの健朴さんがいてようやく成り立っていた。俺にできたのは精々金を使う程度、欲しい知識を得るために必要な資料を与えてやる程度だ、親として特別なことができたわけじゃない。行事にはなるべく参加はしたが会話もまともにせず仕事に逃げて、食事の世話は家事サポートアンドロイドに任せっきり。

 ごっこ遊びでしかなくても俺は父親にはなれないのが身に染みてわかった。それに罪悪感もあった。本来得るはずだった幸せを消し去り、本来出会うであろう相手からその座を奪った。


「困ったことがあれば何時でも帰って来い」

「気が早すぎるし! もぉ~まだ願書も出してないのに気が早すぎっしょ」

「すまんな」


 彼女は聡い。

 ここに自分の居場所が無いと感じ取ってしまっている。何時かは離れる、それを理解して生活をしていたのかもしれない。真面目に勉強し続けたのもきっとそのため。

 白華に入学する時が自立する時だと自分の中で決まったのだろう。

 そうして、時は流れて俺は何も心配することが無く特に応援する必要も無く、彼女は特待生となって合格した。


「まさか白華特待生になれるなんて思ってもなかったよ」

「いやぁ~流石はウチかな?」

「ですねぇ、入学するだけでも凄いのに特待生ですからね、鼻が高いというものです」


 東雲さんと健朴さんは和気藹々と褒めている。

 今日は彼女が家を離れる日だ──

 こういう時になって3年の日々を思い出す。

 そもそも俺が引き取るというのも問題があると思っていた、短い時間だが接触していた。適任なのは顔も声も知られていない健朴さんと日吉のはずだ。しかし、委員会の中で状況を誰よりも理解している点と引き取り手に相応しい貫禄で決まった。

 互いに手を伸ばして繋いだ関係じゃない……それでもまるで走馬灯のように。

 風邪をひいた時は右往左往して任務中の日吉に電話かけてしまった。全教科100点のテストを持って来た時には素直に褒められなくてケーキを買いに行った。授業参観の為に潜入任務を速攻で終らせて向かった。運動会じゃ暇な委員会が沢山紛れこんでいた。イジメの相談を受けたときは頭が真っ白になったなぁ、東雲さんが護身術教えてひねることを教えたら無くなったらしい。裏では潜入員が証拠をその親に送ったとか。

 本当に色々あった。


「それじゃあね、おじさん」


 俺は器用な人間じゃない。笑顔で手を振り新たな世界へ進もうとするあの子に気の利いた言葉一つすぐに出せない。

 何せ俺だって施設育ちで子供兵士計画の被検体だった。愛情の注ぎ方なんて学んじゃいない。効率的に鍛えることばかり学んだ。

 子供の頃に言われて嬉しかった言葉も思い出せない。

 正解なんて知らない──いや、今日まで過ごしてきた日々は正否で決められるものじゃない。


「土産話、待ってるからな──」

「──わかった、沢山持って帰るね」


 俺はただ祈るだけだ。無事に学園生活を送ってくれることを。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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