第三十一話 記憶改竄~金田麗華の場合~
金田麗華の記憶処理に関して。
重要視するべきは長時間接触しているということ、一日だけの処理では足りない可能性があり、家出直後から設定する必要が高い。
アルバイトをしていた記憶で埋めるにしてもケガをしているので違和感無く設定する必要がある。
また、バイト先にも根回しをしておくのも忘れないように。
なにより重要なのは、状況から推察するに彩八華は麗華の家に泊まっている。彼女の家に手がかりが残っていればそれが記憶を呼び覚ますきっかけになるだろう。
徹底的に証拠を隠滅すること。
彩八華はめぶき園時と宿泊後でファッションが大きく変更されていることから着替えが行われている。それらの回収および整理を忘れないように。
自室が汚くて元の状態がわからない? 子供服をしまっておけば問題ないでしょう? え? 服飾系の勉強をしているから資料の可能性が高い? なら机周りの服には手を付けないほうが良さそうですね。
彼女はギャルです。変装の為にファッションショーをしている可能性があります。子供サイズで派手目な服をしまえば安泰でしょう。
「ここどこだし……?」
見慣れない白い天井。白い布団に周りはカーテンで仕切られてる。え? マジでどうなってるの? ウチは飛び起きた。服は入院着、しかもなんか点滴うたれてる!?
ここもしかしなくても病院!?
「目が覚めましたか?」
「うぇっ!? 看護婦さん? ここって病院!? それでどこのなん!?」
ここが病院ですよ~って証拠みたいに白衣の天使さんが目の前に現れた!
ヤバイ、記憶がマジで無いウチに何が起きたし?
「ここは西種ヶ崎病院です実はあなたは仕事の途中で熱中症になってしまったのです。身体のケガも倒れた時にできたものです」
「え──ケガ!?」
腕を良く見ると点滴のケーブルだけじゃなくて包帯も巻いてあった、膝にも何かペッタン貼られてる。
「あ、本当だちょっと痛いし……え、今日は何日?」
「8月19日です、こちらに運ばれたのが8月17日、18日はずっと眠っていました」
指折り数えると一日スキップ!? おぉ~浦島太郎というか時をかけるというか……凄い貴重な体験っしょ。
でも、熱中症でここまでなるのかと不安で一杯にもなる。
「えぇ……ウチ大丈夫なん? 熱中症で倒れたら大変って聞いてるけど」
「脳に影響は出ていません。処置が的確で運が良かったのです」
「ほぇ~……あ、じゃあ退院できるん? ちょっと痛いところあるけど全然健康な気がするし」
「ええ、最後に診察を受けて終了です」
という訳でウチは診察もあっさり終わってすぐに帰ることができた。水を飲むぐらいにあっさりで本当に大丈夫なのか逆に心配を覚えるレベル。
まぁ、距離的には電車で一駅。近いもんだね。気になったらまた後でいけばいっか、と気楽に構える。
太陽の日差しは真上。今日はバイトがあるけど流石に包帯ファッションしたままじゃ出られないっしょ。
治療費か何かは既にお店側から払われているらしくて何だか申し訳ない。お仕事中にケガしたようなものだからローサイが発生したっぽい? う~ん、でも何で熱中症になったのかマジでわかんない。基本冷房効いたお店で作業していたはずだし水分補給忘れて動き回るほどウチそこまでアホの子じゃないし、なにより貧弱でもない。
でもまぁ大自然を前にしたらウチはちっぽけな存在だし効きが弱い倉庫の中で動き回ったりしたからその時だったのかな?
というか記憶を失うぐらいだからマジで怖い。もしも一人きりで倒れたらお終いだった。先輩にもお礼言わないとなぁ。
「ただいま~っと」
家の中は静か。娘が倒れたっていうのにまだ旅行から帰ってこないなんて薄情もいいところ。弟はまだ勉強合宿中だからいいとして。
「ふぅ……師匠が帰る前にデザイン考えとこう」
意識を切り替えないと──スキップしたってことは一日がバイバイしちゃったってこと。
ウチの夢はファッションデザイナー。
都会の仕事に疲れて逃亡してくるトップデザイナーの水蓮さんに見てもらえるチャンスは本当に貴重。
こんなのお金払ったって体験できることじゃない! 決まった日数いるわけじゃないんだから何かしら見てもらわないと。
っと、焦る気持ちで部屋に戻ると何だか違和感がある。
何か小奇麗? 前の状況ハッキリ覚えてる訳じゃないけどな~んか違う気もする。一日スキップしたからそう感じるだけかな?
ふと勉強机を見ると見覚えが無い服が置いてあった。
「この服は……?」
テーブルの上にポツンと置いてあるシャツと短パン。
シンプルなデザインで古ぼけている。最低限着る機能しか持っていないような服。
資料用で買った記憶も無いし、ウチがキッズの頃の趣味じゃない。
匂いを嗅いで見ると家の洗剤で洗濯はされてる。でも年季が入っているのか独特な匂いもする、家の匂いじゃない何か。嗅ぎ覚えがあるようなないような……?
「サイズ的に10歳ぐらいかな? それか9──8……」
今何か変な気がした……? 8? この数字に何かビビって来た。何で? 数字フェチ?
ナイナイ──真面目に考えよう。
ベッドの上に上下繋げるように置いて見ると何か思い出しそう、ウチはこの服を知ってる? ここにあるってことはウチが知ってなきゃいけないこと。ただのボロ服じゃない。
ポイって捨ててもいいことだけど、今のウチはどういうことかこれを適当にしちゃいけないと思ってる。本気で考えよう──
資料用ならバイト先のパドミニで買ったほうが勉強になる。
じゃあ何? こんな服を着た子をウチが連れ込んだ? 覚えてないのに? 年下趣味はナシよりナシ。
もしかして……第二の人格が現れて乱暴した? いやいや、流石にそんなことしたらウチはお縄になってる。
じゃあありえるのは……?
浅く考えると着替えさせた? ウチのギャルスピリット的に似合ってないから着替えさせた? となるとウチの子供服の何かが消えてる? 子供の頃の服が入っている箱を取り出そうと押入れを空けると──
「どういうことだし……?」
ウチのお古を纏めてある押入れの中が移動してる!?
まさか予想が予想じゃない? 実際にここを動かすようなことがあった?
掃除もまともにしてなかったから埃の跡でわかる。歪な引きずったような跡が残ってる。こんなところは滅多なことじゃ動かさない。まさか本当に誰かの為に着替えさせた!?
焦る、これは焦ってくる。というかむしろ泥棒に入られた方が説明できそうな気がするし……!
他の部屋の確認と思ったけど靴箱の向きが違うことに気付いた。まさか……もしかしてプレミア狙いでこれを!?
急いで中を確認すると──
「え……?」
ウチが大事にしすぎて履けなくなっていた靴に汚れがこびりついてるし傷が沢山ある。
一体誰が……? これって履いて使わないとできない汚ればかり。
右手で掴むとズキリと痛み、思わず手放してしまい床に落ちる──前に再び手を伸ばすと──
「あ……!」
妙な光景が頭に浮かんできた。靴はポコンと床に落ちて、片方はベッド近くに転がる。
ウチはこんな風に落ちそうな誰かを助けようとした。この靴を履いた誰かを!
仮にウチが着替えさせたならこの靴に合いそうなコーデをウチの手持ちから作ったはず!
子供服をまとめた箱を取り出して考える──
ウチならどうする? そんなのすぐわかる! やっぱこの季節になるとスポーティ目でカワイくないとね。オフショルダーにスカパンはこっち、靴下は動き易い方で!
「最後にお化粧して、ヘアアレンジ。サイドにまとめて──あれ? 何で化粧とか……あっ! 思い……だした──!」
ウチが全身コーデしてあげたあの子、はっちゃん! いや、あやちゃん──!
小さなあの子とお兄さん共に戦った夏の争奪戦。
最後は悲しくわかれ……──
そうだ最後、ウチの最後! どうなったか思い出したら心臓がドキドキと激しく鳴る。注射された、そんでこうなった? 今日は8月19日、思い出したってことがバレるとまた記憶が消される?
ヤバイ!? 次は容赦ないかも!? ダメだ、落ち着けないけど落ち着かないと!
というかなんでこんな簡単に戻るし!? 消去じゃないじゃん!? 仕事が甘すぎる。逆にウチが優秀すぎた? 消去の原因になったWPSとかこっかかん? こうしょうなんたらけんも少し頭に残ってるし!?
バレなきゃいいにしても、思い出したらジッとしてられない。ウチが戻ったならあの二人も……!
でも連絡先とか何にも知らないんだよねぇ。
そもそも唯一の手がかりのめぶき園には多分いないかも。ちゃんとした理由が無いのに行ったらまた記憶改竄されちゃいそう。はっちゃん、じゃなくてあやちゃん──でもなくなってるかも?
オニーサンはどうなんだろう? 帰ったりしてるのかな? 連絡先交換しとけば良かった……でもあやちゃんに貸した服がこうも戻って来てるなら交換しても消されてそう。
……考えれば考えるほどウチにできることが何も無くない?
昨日はまるで夢かと思うぐらい、昨日に繋がるモノが断たれてる気がする。
ヤバイぐらい濃厚でアゲアゲな一日が、部屋の電気を消すみたいにスンって日常に戻らされた気分になる。
とりあえず、思い出したからってウチの身に何かが起きるってことはなさそうで落ち着いてきた。
さっきまでのウチは完全に二人の事を忘れてた。二人も同じ状況ならもう一度会ってもすぐに友達になれない?
思えばウチがはっちゃんに手を貸そうと思ったのは単純な親切心だけじゃなかった、どこか退屈なウチの日々に彩りがほしかった。特別な経験がデザインに刺激をくれるかもって思ってたお母さんを探すロードムービーの主役級になってみたかった気持ちもあった。
色々あるけどはっちゃんが好きな気持ちは本物だけどね。
「そうだ……!」
オニーサンが言ってた。違った形で再会とかどうとか。
もう一度会うために動こう、二人にとってもあの走り回った瞬間はずっと心に残ってるはずだから。それを思い出すなにかをウチのやりかたで──
すると、自然と視線は机に向いた。頭にデザインが浮かんできた、やるべきこともわかってきた。
デザイナーになって、あやちゃんの心に響く服を作ればいい!
あやちゃんにギャルスピリットがしっかり受け継がれてることを信じてギャルに響きそうなデザインで記憶を揺さぶるようなデザインで行こう!
オニーサンはプロのコーチになるって言ってたから、何時かは普通に見つかりそうな気がする。一応調べておいた方がいいかもだけどね。
そんな訳で驚くぐらい筆がノリにノって今まで書いた自分のデザインはなんだったのかと思えるようなのが出来上がった。
次の日師匠に見せてみると──
「な~んか変わったわね」
「え?」
いつもだったら椅子に深く座ってつまんなそうにチラリと見ているだけなのに……!
「以前まではトーシロに毛が生えた程度だったけど、今回のは意図というか意識があるわ。着せたいイメージがしっかりしてる……いいわね、面白い。エッグガールがピヨピヨガールになったところね」
「あざます水蓮師匠!」
「色々あったみたいだし──ってこれはオフレコだった」
「?」
ウチのバイト先パドミニのトップデザイナーで社長の水蓮師匠。滅茶苦茶若くてセンターで別れた黄色と白の二色の髪色がチャームポイント。超絶有名な白華卒業生で頭もいいしスタイルも良いとんでもレディ!
だけども多忙すぎて逃げ出す癖もあるらしくて、ここにお店を構えた本当の理由は都会の喧騒から離れたり、秘書的な人から逃げるためっぽい。
「で、なんで鬼灯なの? もっと大衆向けな花はあるでしょ? 花言葉だって「偽り」っていうのもある。ちょっと学がある人からすれば疑問を持つわ。いくらポップなデザインで花と実のなんというか花の一生を八つも書いてるみたいだけど」
「他にも「自然美」や「心の平安」? って言うのもあります。でも、それよりも大事なインスピレーションがウチの心にアゲにアガって入ってきました!」
鬼灯八。シンプル! 気付けばわかる、ギャル向けのデザインと合わされば誰が作ったか絶対にわかる! ウチはあやちゃんがウチのスピリットを継いでくれることに賭ける!
「でしょうね、強いこだわりがここにあるもの。アタシの蓮の花みたいにね。だからこのまま描き続けなさい。着せたい人のイメージもあるみたいだしその心を忘れないようにね」
「了解しました、がんばります!」
凄く嬉しい……!
尊敬される人に少しでも認められるとこうも心が震えてくるんだ!
「さてと、アタシの休暇もここまでかしらね、本社の方に戻らなきゃ」
「ええ!? そんな悲しいこと言わないでくださいよぉ!? もっと見てもらいたいです!」
ウチのデザイン帳を返すと荷物の整理を始めて、本当に帰る気なのがマンマンだ。
折角もっと見てもらおうと思ったのに……でも、こういうマイペースさが心を掴む服を作る原動力になるのかも?
「アナタのおかげで良い情熱を貰ったわ、また休憩したくなったらこの店に来ると思うから。後これ名刺、超えたい壁にぶつかったら連絡しなさいな。力貸してあげるわ」
「……ありがとうございます!」
道は途切れてない! きっとこれは信頼の切符だ……!
ウチはやるよあやちゃん、オニーサン。ウチの作った服や小物が世に出てそれを手に取ってもらう時がきっと再会になる。
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