第二十六話 暴かれた本性
パワードスーツで公道を走る。左側車線を守りながらローラースケートのように足につけられたタイヤを回転させて坂を上っていく。コクピットの保護機能として冷房が効いているが夏の日差しも相まって熱が常に入って来ている。
そして、到着する。最後の決戦の舞台へ──
「おい! 見てみろよアレ!!」
「わぁ~スッゲェ……パワードスーツだぁ……!」
「本物!? かっこいい」
完全に頭から抜けていたがめぶき園は通常運営中だった。
パワードスーツが珍しいのか子供達の注目を凄い受ける。なんなら興味に勝てないのかジリジリとにじりよってくる。流石に無関係の子供を巻き込むことはできない。移動先に子供がいないことを確認し、通行の邪魔にならない位置で停止してから操縦席から降りる。
「おじさんが操縦してたの!? すっげえ」
「何しにやってきたの!?」
「事件? なにか事件があったの!?」
無邪気に近づいて来ている子は子供兵士計画とは無関係な子だろう。何度も見たことがある、初めて見る好奇心に満ちた子供の目をしている。遠巻きに観察しているのは計画に参加している子だろう。アテナで様々な体験をしているのか楽しそうな印象が伝わってこない。
「これはこれは、お待ちしていましたよ」
この落ち着いた声が聞こえた瞬間、ゾクっと寒気が走る。
その声の先へゆっくり振り返ると──
「東条……昭雄さん──」
穏やかな顔をしているボスがそこにいた。
ルプトゥーラへ一瞬視線を移動させたがまるで揺らいでいない、アポ無し突撃でも予約済みだと言う胆力。
俺がここまで来るということは戦闘員は殆ど全滅していることを理解しているはずなのに。
「さぁさぁ皆さん、珍しいからって余り注目してはいけませんよ? 教室に戻ってください」
「はーい」
児童養護施設の仮面を被った声。あまりにも優しい声色で裏の顔を知っている俺は怖気を感じた。
不満げな声と共に施設に戻っていく子供達、外には俺達だけとなり、一触即発の重い空気に満たされる。
「さっ、行きましょうか。戦う気が無いのはわかっていますよ」
「話が早くて助かる」
無関係な子供は巻き込みたくない。その利害が一致しているようでまずは安心。
園長室へ向かう途中に何人かの職員とすれ違い冷たく殺意の込められた視線で歓迎されていないのが伝わってくる。
到着したのは子供達の声はわずかに聞こえてくる園長室。
そんな微笑ましさやのどかさを無視し食いつぶす重さでここはまるで別空間のように空気が違っている。ソファーに腰をかけ、お互いに向き合う。
「チェックメイトって言ったところか?」
「どうでしょうかね?」
ふてぶてしい微笑みを浮かべているが内心限界のはずだ。頼れる仲間はもういない、俺を押さえ込んでも意味が無い。大型パワードスーツは遠距離でも操作が可能、妨害電波で防ぎきれない距離で操作すれば暴れられる。
こめかみに拳銃を押し当てているのはこっちだ──!
「昨日と違って手札はきっちり揃えてきた。もう誤魔化しは聞かない、何より貴方にもここまでの情報は全て共有されているはずだ」
「いいでしょう、聞かせてもらいましょう」
スクホを起動しノートPC並に大きく作った画面に証拠を提示する。
「まずは子供兵士を育成する訓練場の場所は見つかった。その内部情報も確認済みだ、巨大なジムにトイの調整室、さらには薬学的アプローチによって子供を強化しようと企んでいるとはな」
この情報を会得してきたのはまさかの東雲さん。
彼女は裏方でサポートがメインだと思っていたから前に出て潜入活動ができるとは思ってもいなかった。一部の写真はブレたり角度があってなかったりと相当大変だったのが伝わってくる。
この致命的な証拠を前に東条は──
「その写真、捏造なんじゃないですか? どこか別の場所の写真をわざわざこうして持ってきた。それなら簡単ですからね」
「何……?」
「ただの背景、私共の職員が混じっている写真はどこにもありません。証拠的能力は明らかに低い」
冷静だ。内部構造を知る者が少ない、ネットの海にも上がっていない公式で発表している訳ではないからこそ使えるすっとぼけ。
なるほど、口が回る。
「ならば、こちらにいる児童に聞いてみましょう。この写真の場所に覚えがあるか」
「かまいませんよ」
全員教育済み、もしくは単純に知らないか? この写真の場所がすぐそこにあると証明は不可能? 俺が中に入れば捕獲されかねない。方向性を変えろ──
何か無いかこの中に……?
写真の中にある物体とめぶき園に繋がる何か……!
装着型パワードスーツ……施設内で着ているわけがないから違う! 警備ロボット……製造コードさえわかればどこ用に送ったのかわかるが残念ながら映っていない。そうだ……!
「さて、無意味な証拠とにらめっこですか?」
「いいや、意味はあった。それは薬品入ったダンボールだ。雑に管理を任せすぎたな。コードが残っていた──」
どうやら聡い彼はすぐに理解してくれたようだ。
「安全保障の面から薬品メーカーは常日頃厳しいチェックを行っている。どこにどれくらい送ったかな。ここにあるコードをメーカーで検索をかければ」
「なるほど、確かにどんな薬を何本、どこに送ったかわかるでしょう」
「もしもそれがここの住所であれば」
「甘いですね、めぶき園は育ち盛りの子供達が多い場所です。薬を保管していてもおかしくない。箱を映したところで意味は無い」
手ごわい……! 確かにコレだけの施設だ、不意の怪我人に対処するために必要となるだろう。証拠能力は低い。
ただ、その薬は。
「成長剤も必要なのか?」
「何……?」
「それも人間用だ、これは一体何に使うんだ。住所も調べればここだとわかるだろうな。所持しているだけで問題だ」
「ふぅ……確かにこればっかりはどうしようもないですね。人体実験を行っているとあらぬ疑いをかけられるぐらいならば、子供達を育成していると認めた方がいいでしょう」
自白──? いや、認めているが諦めている様子は無い。手応えが無さ過ぎる。まだ腹の底に何かを仕込んでいる。
だが、攻めを緩める訳にはいかない、ここで本題に入る!
「子供をWPSの兵士の為に育成するのはもうやめろ。貴方達の育成では発展しない、精々強い選手止まり。世界大会には通用しない」
「それが理由でしたね。私達に食って掛かってきた理由は、そのエビデンスは?」
「現時点でも卒園した少年少女達がU-18の選抜メンバーには殆ど選ばれていない。さらに言えばその周囲の誰かが選ばれているわけじゃない」
あれから少し詳しく調べてもらった。
めぶき園の狙いは卒園生達を使って日本のワープリレベルを引き上げること。皆がメンバーに選ばれるもよし、切磋琢磨し関わった誰かが選ばれることでも上々。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
結局彼達は大事な発展期にめぶき園の中で完結してしまっている。元プロやらの実力派から指導を受けてはいるが、あの青年のような圧を放てる指導者はいない。特異な技術は得られず、どこか普通、平均的に高い程度。
誰かを魅了したり、目を惹くような尖った何かが無い限りスタープレイヤーにはならない。残酷な話だがスターが一人いるかいないかでチームの強さや意識はまるで違う。
毎年何かしらの化け物選手が生まれる彩王蓮華であったり、女子特異点の金剛紫──特に金剛紫は女子選手の人口を爆発的に増やす偉業をしでかした。
「なるほど。しかし、中学高校とレギュラーメンバーにはなれている。確実に強さの質は上がっている」
「平行線で語り続けても意味が無い。俺達が貴方の精鋭達に勝利した、つまり力で支配することも可能だが、ここは綺麗に決着を付けるためにある条件を提示する」
俺達はヤクザでもマフィアでもない。
確かに要求を通すために力を振るっているが、より良い未来の為に仕方なくだ。
「WWP委員会が選んだトップクラスのチームとめぶき園の育成選手を対決させる。無論、同年代でそろえる。断ったりしないよな?」
「ほう……? 正直その提案は願ったり叶ったりですよ。育成環境はどこよりも優れていると自負していますが、やはり児童養護施設の部活的な印象しか与えらず、強豪と戦いたかったのですが上手く行かないものでしてね」
U-18世界大会は少年少女達にとって最高峰の舞台。そこで勝ち抜くと宣言している以上、相手は選んでいられない。
この提案を待っていましたといわんばかりに彼の表情は好奇心が感じられ、どこか素の感情が見えている気さえする。
「俺達のチームが勝てば計画は改変、WWP委員会の介入を受け入れてもらいもっと健全にワープリを行ってもらう」
「そのチームがどれだけ健全に育成されたかはわかったものじゃないですがね」
多少耳が痛いな。
「私達が勝利したらいかがするつもりですか?」
「委員会は手を引く、加えて練習相手のパイプラインを担ってやる。中堅から強豪まで合宿所を誘致したチームの宿泊施設にでもして手厚いサポートを加えてな」
「なるほど、悪くない」
それはこっちの思惑でもある。勝てば文句無しだが仮に負けたとしても充分改革に近づく。全く別の色を持った相手とのバトルは為になる。
外と関わることで自分達の実力を正しく認識し課題を見つけることができる。
「さて、中々興味深い対決になりそうですが──そもそも実現すると思っていますか?」
「何?」
「WWP委員会は守る者が多いそうですね。故に抑えるところは抑えさせてもらいました。ハッキングされているとわかった時点で動かせる兵力は病院前に集めています。伝えたのでしょう八さんの母が入院していることを? それを逆手に取らせていただきました」
この落ち着きようは既に策を立てていたからか……最後の最後で要所を抑えることができれば勝ち。
ルプトゥーラで移動中に情報交換したので彼女達が病院に向かっているだろうとは聞いている。だから東雲さんが裏口から潜入することができた。
東条さんはスクホを起動し、通信を開始した。この妨害電波の中でも普通に使えるあたり自分達は問題なしってことか。
数秒の待機音の後、繋がる音が聞こえる。
「もしもし?」
「東条です、八さん及び協力者達の捕獲は済みましたか──」
望んだ報告を待つかのようにどっしりとソファーに背を預けている。
俺も緊張して喉が鳴る。
「もしもし、こちらはWWP委員会の日吉です。不審な動きをしていた連中は捕まえました」
「すいません、東条さん……! 病院の近くに来ていたのは見えたのですが──やられてしまいました」
「なっ!?」
「よしっ!」
こっちも上手くいった!! 真面目な場だが思わず拳を握り占めてしまった。流石の東条も予想外だったのかうろたえた顔を見せる。
「……病院に誰か残っていますか?」
「いえ、集まった全員やられてしまいました」
「日吉、今どこだ?」
「先輩もそこにいるんですか!? 現在職員連れてめぶき園戻ってますよ、今橋を渡り終えました」
「だ、そうだ──」
病院まで行けたってことはあの暴走機関銃車も振り切れたってことだ。
どうやら無事に要求を通せそうだ……ん?
なんだこの追い詰められたような表情は? 両手で頭を抱えている。いや、追い詰めているのは確かだけど何故? こうも余裕が無い、全員捕えて大逆転だやったーみたいな作戦に縋る男じゃあない。
「最悪に備えて動きます。スクホ──ダメだあの子は持っていない。なら、こちら東条です。妨害電波を停止してください」
「いいんですか?」
「緊急事態です、急いで!」
「わかりました、しかし完全に繋がるようになるには五分はかかります」
「やむなしですね」
この慌てようは一体なんだ? 俺が完全に眼中に無い。
もっと別の何かの為に動いている。いや、最初から変わっていないのか? この男が動く理由、合宿所にまで来た理由。
「鬼灯八──か?」
「……ええ、その通りです。彼女の捕獲を最優先に動いていましたが、悉く失敗しました。ままならないものです」
ソファーから立ち上がりつま先の落ち着かなさで苛立ちや焦りも伝わってくる。
おかしい、俺達は彼女が子供兵士計画の証言をさせないために必死に動いているのかと思っていた。俺達もそのつもりだったが本来探していた訓練場の発見に加えて、米山の自白もあってか八は必須ではなくなった。
ただの訓練兵にここまで感情を揺らされるものなのか? 計画がバレることを恐れていただけじゃないってことなのか? なにより、残された状況はたった一つ。
「何故子が母と会うのをそこまで阻止する? 家出する程の意志を見せているのに?」
「それが私に託された使命、児童養護施設の園長として果たさねばならないもの!」
鬼灯八が母親と会うのを断固として止めるつもりなのか!? 計画がバレるよりもそれを止めることの方が重要ってことなのか!?
「そうだ──日吉とか言う男と繋げて引き返させて無理矢理でも止めるんだ!」
「いきなりなんだ?」
この追い詰められて焦った姿も演技なのか?
それを選択すれば人質を取られて大逆転になる。
戸惑いが身体を支配している。何が正しいんだ? そんな俺に対して痺れを切らしたのか目がすわった顔で胸倉を掴み──
「手っ取り早く話してやる。鬼灯八君は──────!」
その事実を聞いた瞬間に「嘘だろ」? としか漏らすことができなかった。
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