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第二十五話 本当の名前と記憶

 お姉さんはきつねうどんと親子丼、お兄さんは唐揚げ定食、わたしはオムライス。お兄さんがまとめてお会計をしてくれた。


「大事な話をする前にまずは食べさせてほしいっしょ」

「空いたお腹に染み入るなぁ……レイさん食べすぎじゃないか?」

「ケガを治すのには栄養が必須っしょ!」


 お姉さん達はよっぽどお腹が空いていたのか早いペースで食べ進めている。

 わたしはどうしてもさっきの話が気になりすぎて──


「病院の食堂だから減塩食的なのかと思ってたけど全然味しっかりしてるじゃん。もしくはこれはお腹減り過ぎて何でも美味しく感じる的な?」

「気を使ってはいるだろうけど。考えられてるって感じだな職人のこだわりが伝わってくるな」


 でも二人が美味しそうに食べているのを見ていると食欲が湧いてきた。一口二口食べるとちゃんと味わえた。

 二人のホッとした顔がチラリと映る。

 わたしが食べやすい空気にしてくれたのがわかった。本当に気を使わせてばかりだ。 

 お皿の上が空っぽになると、お姉さんは特に満腹でご機嫌になってた。よっぽどお腹が空いていたみたい。

 こうして食べ終わるとそれはわたしもいっしょだったみたいで、余裕みたいなのが今はある。

 ランチタイムもここまで、ここからはわたしとお母さんの謎を解き明かす時。

 お姉さんが先に口を開いた──


「早速だけど婆ちゃんのお名前はなんて言うん?」

「そうだね、欅安曇(けやきあずみ)それがお婆ちゃんの名前だよ」

「聞き覚えがあるようなないような……?」


 名前はともかく苗字の方もピンと来ない。


「最後にあったのは三年以上前だからねぇ。それにずっとお婆ちゃんだったからね」

「無理も無いっしょ、皆がお婆ちゃん言ってたら名前使うこと珍しいし。ウチだって小さい頃はわかってなかったもん」


 お姉さんの言うことも一理ある気がする。名前って呼ばないと覚えないしわからない。小さい頃だったら名前の文字を見たことあっても読み方がわかんなかったら知らないと同じだもん。


「情報の刷り合わせをしましょう。お互いが血縁者であるなら共通の思い出か忘れられない決定的な出来事があるはずです」

「イイネ! マンガとかでよくある偽物暴きのやつっしょ!」


 流石はお兄さんだ。それをお互いに用意することができたら信用できる。

 この人はお母さんのお母さんらしい。なら知っていてもおかしくない情報。


「それなら……お父さんについて知っていることを話してください」

「はっちゃんのパパさん──!」


 お姉さんは両手で口を塞いで物理的に言葉が洩れないようにしてくれた。うん、そう知っているなら答えられる。


「……その記憶はちゃんと覚えてるんだねぇ。あの人は本当に国の為──ううん、みんなの為に最後まで戦ってくれた。町の皆を守るためとはいえ土砂災害に巻き込まれて亡くなられた……本当に立派だったよ彩八華ちゃんを最後に守り抜いて」

「はい……その通りです──」

「「え──?」」


 本当にわたしのお婆さんなんだ……知っていなきゃ言えない。お父さんの最後はわたしを土砂から守るように覆いかぶさってくれた。

 お姉さん達は目が点になって言葉が出ないみたいだった。


「やっぱりわたしは彩八華なんだ……」

「パパさんのことは少し聞いていたけどそんな壮絶な過去があったなんて……」

「そのニュースは俺も覚えてる。災害対応ロボを使って救助をしていた男性。UCIのキャノピーに守られていたけど耐え切れなくて子供は守りきった……まさかその時の子が八さんだったなんて」

「今ニュース見てみたけど……あったよ! 名前は懸ノ木(かけのき)(ひろむ)……? 子供の名前は書いてないけど……色々話を合わせると──」


 懸ノ木いろは。懸ノ木宏。懸ノ木彩八華。

 不思議だ……パズルのピースに綺麗にはまったみたいに清々しい気分。


懸ノ木(かけのき)彩八華(あやか)──それがわたしの名前……!」


 でも、心の奥にある開けてはいけない扉にピッタリとはまる鍵が見つかった感覚でもあった。この嫌な予感の正体はわからない。


「じゃあこれからは『はっちゃん』じゃなくて『あやちゃん』って呼ばないといけないね」

「切り替えはあっさりすぎて尊敬すら覚えるぞ」

「だってズットモなのは変わんないもん。根っこが変わってないならいっしょいっしょ!」

「お姉さん……!」


 その言葉がどこまでも嬉しく感じる。怖さの原因はこれだった? もしも『彩八華』に戻ったら『八』の時に積み重ねていたもの手に入れたものが全部消えちゃうかもしれない怖さが心のどこかにあったんだと思う。


「八さん、じゃなくて彩八華さんの記憶に何か変化はあるか? こういうののお決まり的に名前を思い出したら色々思い出すんじゃないかと思ったんだけど」

「……? いえ、得にわからないです……」


 ただ彩八華の方がスッとしているみたいな感じ。


「まぁまぁ──ってそうだ! 鬼灯いろはで見つからなかったら懸ノ木いろはなら見つかるんじゃない!? ウチ天才!」

「そうなりますね」


 お姉さんの言う通りだ──

 真の名前を思い出すために来たんじゃなくて、お母さんに会うためにここに来たんだった! 本当の名前が必要だったのはまったく考えてなかったけど。


「まぁ待って。あの子は旦那さんが亡くなった後にね、精神状態が良くなくて入院することになったんだもう三年近くは入院したままさ」

「そんな……!」


 先生達が言っていた「援助」きっとそれはお母さんの入院費だったんだ……頑固に会わせないって言ったのもただのケガとかじゃなくてお父さんがいなくなった心の傷が原因。


「状況的にそれがあやちゃんがめぶき園に行くきっかけになったみたいっしょ」

「私も年だし、爺さんもケガしていたからねぇ。あの時はあやかちゃんを受け入れる余裕も無くってめぶき園って施設で預かってもらえることになったんだよ。まさかそんなことになるなんて思ってもなかったよごめんねぇ……」

「いえ、謝らないでください──!」


 お婆さんが本当に申し訳無さそうな顔で頭を下げてくれた。当時の状況はわたしもよく覚えてないけど大変だったはず。


「何か変だな……お婆さんはいろはさんが入院していることを知っていた。でも、彩八華さんは知らなかった。お婆さんは八さんがめぶき園に行くことは知っていた。だけど彩八華さんじゃなくて八さんになっていて貴方の顔もあまり覚えていない状態。なんだかチグハグな気がする」

「確かに変っしょ……時系列的にはあやちゃんはお母さんの入院を知っていなきゃ変っしょ?」

「本当だ……!? なんでわたし前住んでいた家でずっと生活していると思ってたんだろう? お婆さんのことだって全く思いつかなかった。完全に忘れてた──!」


 変だ……知ってなきゃいけないことを忘れてる。

 お兄さんの言う通りお母さんの入院は絶対に知ってるはず。でもわたしの記憶だとお父さんが亡くなって、生活が大変になって、めぶき園に預けられたって……あれ? そもそもわたしってどんな風にめぶき園に来たんだろう?


「忘れてる……? まさか──!?」


 お兄さんが何かに気づいたのか驚いた顔をしてる。それも何だか怖いみたいな気持ちを伝わってくる。


「何か思いついたん? 今は何でも言った方が得だよ」

「……あくまで予想なんだが──記憶改竄装置だ、彩八華さんは既に一度記憶を書き換えられているんだとしたら?」

「え?」


 頭が真っ白になって固まる。きおくをかいざんさせられた? 突拍子も無いただの予想だけど、それが綺麗に収まってしまう。

 お兄さんの言葉を飲み込めば『鬼灯八』は作られた存在?


「わぁ……否定したいけど否定しきれないっしょ──実際なんで、はっちゃんになっていたんだろう? 状況的にめぶき園に入園してからってことだよね?」

「記憶改竄装置の存在は私も知ってはいるけどねぇ、あれって確か条件があったんじゃなかったかい?」

「教官は確か医療的な目的で使われると言っていた。彩八華さんの身に何か大変なことがあってその記憶を消す必要があった」

「お父さんが亡くなったことっしょ。それが辛くて大変だから隠した!」

「悪くない線だけどお婆さんの情報と彩八華さんの情報に矛盾が無かった。辛い記憶だけど消す程のものじゃなかった。その近辺が近いのは確かだ」


 お父さんが亡くなってからわたしがめぶき園に入園したのは2ヶ月も無かったと思う。その期間にわたしの身に何かがあった。

 多分一度改竄されたのは本当──でも、何がどうなったのかわからない、自分のことなのにわからない。本当にわからない──でも、消去法で考えれば。


「だったら……お母さん?」


 彩八華になってからもお母さんに会いたい気持ちは今も変わらない。


「でも生きてるっしょ?」

「あの子はね……精神病で入院しているんだ。旦那さんを失ったショックでね。恋愛結婚でもあったから余計にだったんだろうねぇ」


 覚えてる……お父さんとお母さんはとても仲が良かった、いつも隣同士で今思えばあれがイチャイチャしているってことだったのかなぁ?

 後はそうだ……わたしがお父さんに抱っこされていたり頭を撫でられていた時、お母さんが「私も!」なんて言ってた。 

 お母さんとお父さんと過ごした日々はちゃんと記憶にある。だからわたしはここまで来た。会いたい理由があった──


「……ひょっとしたらその時のお母さんの姿がトラウマになっているのかもしれないな。大切な人を失ったお母さん、彩八華さんだって心に傷を負っている。受け止めきれなくなってもおかしくない」

「彩八華ちゃん自身が自分を守るためにその記憶を封じた? その上で改竄装置で蓋をした?」

「ありえない話じゃないねぇ、あの時のあの子の取り乱しようは凄かった、家が空き家になった後見に行ったら部屋は荒れていたしで、ちゃんと生活できていたかもわからなかったもの」

「つまりははっちゃんのお面を与えることで辛いことを思い出させないようにしてたってこと? ヤババかと思ったけど実は良い所だった? いやでもなぁ──」


 改竄を受けた理由も三人の話を聞くと納得できてくる。

 多分、その時のままだったら今のわたしには絶対なれないぐらい酷い状態だったんだと思う。


「となると……お母さんに会うのは少し危険かもしれないな──」

「お兄さん……?」

「隠された記憶が彩八華さんに悪影響を及ぼすかもしれない。めぶき園の人達が必死なのもそれを予期していたからなんじゃないか?」


 お兄さんはわたしの身を本気で心配して口にしているのが伝わってくる。

 でも、心はそうじゃないって言ってる。悪いことならもっと嫌な予感がしてくるはずだから。


「オニーサンの案も間違ってはないと思うけど、もしそうだったらあやちゃんは会いたいと思ってここまで来ないんじゃないかな? それにめぶき園の人達にウチ達殺されそうになったじゃん、改竄だってあやちゃんを好き勝手したいからじゃない?」


 わたしが信じたいのはお姉さんの方だ。


「私としては会って欲しいと思っているねぇ、心を閉ざして虚ろに日々を過ごしているあの子を変えるきっかけになると嬉しいからねぇ」

「あやちゃんは成績優秀らしいじゃん。もしもお母さんと再開して全てが元通りになったとしたら──」

「卒園するかもしれない──! それを止めることはめぶき園にはできないということか!?」


 だからなんだ! 成績を上げても断り続けるのはそういうことでもあったんだ。わたしをWPSって計画の一部にしたかったから。

 もしも、お母さんを元気させる鍵がわたしだったなら、本当に嬉しい。

 本当の家族で暮らせる……! 菜奈ちゃん達との暮らしが悪かった訳じゃないけど、凄く心がワクワクしてくる。ずっと心のどこかで求めていた生活。

 

「そゆこと! 後はあやちゃんがどうしたいか決めるだけだよ──」

「最初から決まってます! お母さんに会うためにここまで来ました。最後まで、その意志を曲げる気はありません!」


 言い切った! すると、お兄さんは少し微笑んで。

 

「ブレてないならそれでいい。中途半端な気持ちで会うのが一番良くない」


 あっ、あの時みたいにわたしの意志を確かめてたんだ!

 会いに行くこと自体は最初から賛成だったのかも!? 試験というか試練をさらっと投げてこないでほしい。


「きっと神様がお母さんに会うように導いてくれてるみたいだねぇ。それじゃあ行こうか、案内するよ」

「そ・の・ま・え・に、ちょっとお顔を整えておこっか? 一番イケてるあやちゃんフェイスでご対面っしょ!」

「はい!」


 長かった……本当に長かった……!

 ようやくお母さんに会うことができる。記憶の中の姿とどれだけ違っているかは少し怖い。でも、お母さんもきっと同じ気持ちかな?

 あの時と比べてわたしは背も伸びたしお姉さんのおかげでオシャレもできた。

 驚くだろうなぁ、驚いてくれるかなぁ? なんて言ってくれるのかな? 「大きくなったね」とか「かわいくなったね」だったりするのかな?

 ワクワクが止まらなくなってきちゃった!

本作を読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら


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